一章 12 自己紹介という名の能力紹介
キョウは「面倒臭がりだけど結局はやっちゃうお兄ちゃん」ってイメージです。
俺たちがこの公園に集まってからどのくらい経っただろう。多分そんなに経ってはいないと思う。五分とか、十分とか。しかし、その短い時間と適応しないと思うほどこの数分の密度は高かった。
見知らぬ人と仲良くなって、朏に議論を始められて、朏の能力を知って。
数時間前には思ってもいなかった12時過ぎだ。
「さて、朏の色々細かいことは後で聞くとして、次は俺が自己紹介しよう。」
自己紹介は早めにやるのが一番良い。
クラスに一人はいるであろうお調子者。そいつが最初の方に自己紹介する、それは最も危惧すべき事態だ。お調子者が初めに笑いをとってしまうと、次の人のハードルが高くなってしまうのだ。「次のやつも面白いんじゃないか」、「またあいつみたいな奴は居ないか」、そんな期待に応えられるか。
だから、自己紹介は笑いを取れない俺が一番にするのが、俺のためにも皆のためにもなる。まぁこの面々に調子者なんて居なさそうだが、念には念を、だ。
「俺の名前は神木京也。そこにいるいろはの兄だ。…あー、双子の兄だ。仲がいい奴にはキョウと呼ばれてる。気を遣うのが下手なんだが、まぁ許せ。朏の言う通り、俺も特殊能力を持ってる。地味だが。」
何か丁度いい家電とか無いかな、エアコンとか。と辺りを見回してみるが、ある訳もなく、結局スマホを取り出した。
「俺の能力は家電を操れる能力だ。ちょっとしか操れないがな。例えば、このスマホがあるだろう。ちょっと持っててくれ。」
と、キーにスマホを渡し、少し離れる。
やる前に、少し深呼吸した。何せこれを人前で披露するのは初めてだからな。少し緊張する。いや、いろは様には見せたのか。能力の詳しい説明はしなかったが。キャラ変する前から察しのいい妹のことだ。アレだけで分かったのだろう。
「操れる、といってもやれることは限られる。例えばスマホなら…。」
左手で銃を作り、「バン」といって撃つ。
すると、いつも通りスマホの電源が入れられる。ロック画面にはエアコンが映し出された。なんでエアコン、とは訊かないでほしい。特に意味はないのだ。
「おお、凄いね〜。僕なんもしてないのになぁ〜ふっしぎっだねぇ〜!」
キーが感心したように笑う。出会ってからこいつ一回くらいしか笑顔を絶やさなかったな。いつも明るくハッピーな感じだ。
「で、で、他には何があるのだ?貴様のその雷神を意のままに操る銃、気に入ったぞ!」
ニノランが目を輝かせて訊いてくる。興奮しているのか若干中二病で。
他には、と言われても困る。その輝く目で訊かれるともっと困る。
しかし、「雷神を意のままに操る」…か。雷神=家電とかそんなんか。訳すのが簡単な中二病で助かる。
「ニノラン、中二病になってるぞ。…他にはない。大体こんなもんだよ俺の能力は。スマホはオンオフの切り替えくらいしか出来ないし。ショボくてすまなかったな。」
そう言ってキーからスマホを取り上げる。
そして振り向くと。
「お、おい。なんだよその目は。そんな目をしてもこれだけだぞ俺の能力なんて。だからやめろってその目。」
ニノランと朏が、なんと言おうか、凄くバカにしたような目を向けてくる。バカにするなよ、特殊能力持ってるだけでもいいじゃん別に。
と俺が心の中で小さな反発をしていると、朏たちは突然その目をやめた。なんだなんだ、何があった。
「お兄ちゃんをバカにしたら許しませんよ…。」
いろは様が怒りを帯びた声で言う。顔を見ると、笑顔。とてつもなく怖い笑顔。
目は死んでいる。眉は吊りあがっている。唯一笑っている口もピクピクしている。怖い。
「すみません。許して下さい。マジで。」
「ごごご、ごめんなさい。ちょっと調子乗っちゃったの、反省してる、だから許して、お願いだからぁ。」
前者が朏。後者がニノラン。ニノランは許そう。ただし朏、テメーはダメだ。なんだよ「マジで」って。その一言で印象がガラリと変わる。
「はぁ。いいですよ、もう。じゃあ、次は私が能力紹介します。」
いろは様はそう言うと顔を手で覆った。いきなり能力を発動するつもりだろう。あくまでこの時間は「自己紹介」の時間であって「能力紹介」の時間ではないんだけどな。
「いなぁい、いなぁい、ばぁ。」
いろは様手を拡げると、そこには悪魔がいた。
その顔は悪魔としか形容できないだろう。というかまんま悪魔。
「怖ぁ!?」
思わず叫ぶ。
朏たちは呆然としている。まぁ当然の反応だろう。
「怖いって言わないでよお兄ちゃん!」
いろは様…、なんかいろは様と認めたくない、悪魔様と呼ぼう。悪魔様がブンブン手を振って怒る。その形相でそんなことされても全く萌えない。
「何?その…何?顔なの?それ。」
朏が若干引きながら訊く。流石に「顔なの?」は酷すぎるだろう。
いや、確かに 人間の顔を留めていないが。
聖書とか神曲地獄篇の挿絵、といってもあまり違和感がないほど悪魔だ。ガチ悪魔。
「顔です!顔以外のなんですか!アレですか!言葉にできないほどですか!」
悪魔様、キレる。
多分いろは様の顔でそれやったら可愛いんだろう。しかし、今のいろは様は悪魔様だ。可愛いというよりかは、怖い。
「あはは〜、その顔で怒るとちょー怖い〜。」
とキーは女子高校生みたいな口調で言う。それにも「酷いです!」と悪魔様は怒る。さっきから何も言わないニノランはというと、ただずうっとドン引きしていた。
「みんな酷いですよ…。」
と悪魔様が涙ぐむ。これをいろは様がやってると思うと、なんだかとても可哀想に思えてきた。
「まぁまぁ、とにかくなんでこうなったか聞こうじゃないか。」
とフォローを入れる。すると、「お兄ちゃあん!」と弾けるような笑顔を見せてくれた。なお悪魔。
「私は自分を変える能力を持ってます。それは性格でも、見た目でも、大抵変えられます。幾つか細かい縛りはありますが、そこまで支障はありません。」
「じゃあその気持っち悪い顔も?」
ニノランがそう訊く。「気持っち悪い」は駄目だな。悪魔に怒られる。
「気持っち悪いってなんですか!」
ほら怒る。というか悪魔少し怒りすぎだと思う。キレ症なんじゃないか?
「まぁいいです。そうですよ、この顔も能力によるものです。むしろ他に何があるんですか?顔、戻しますよ。」
そう言って、また「いないいないばあ」をする。
うむ、美少女。これでこそいろは様だ。顔が俺に全然似てない。
「私の能力は「設定を変える」ものとして捉えた方が分かりやすいかもです。例えば、私何年生だと思います?」
といろは様が訊く。するともちろん、皆「高校一年生」と答える。まぁそうだろう。何も知らなかったら当然そう答える。俺は答えを知ってしまっているので言わない。言ったら面白くないし、説明に不都合だろう。
「そうです。私は今年度から高校一年生です。ですが、本来は今年度からは中学三年生になるはずなんです。」
「どういうことかなぁ?」
とキーがいろは様に訊く。すると、いろは様はどう答えるか少し考えて、それに答える。
「去年は、私中二だったんですよ。でも、その「設定」を変えて、高一になりました。」
適当な説明だ、要点しか言わない。いろは様、説明が面倒になってきたのかも知れない。そもそも敬語が適当なんだ。というか敬語を使う必要あるか?キャラ変して俺たちとタメだろう、タメ口でいいだろう。
「まぁ大体分ったよ〜。なんで〜設定をわざわざ変えたのか〜、っていうのは〜また明日訊くね〜。」
そうキーが言う。キー以外の二人も分かっている風な顔をしている。多分顔だけだ。