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パラドックスの有効的な使い方  作者: KITA
序章として
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序章 いつか見えた世界

四月。それは少年少女が夢や希望を抱き、新たなる出会いを求め新天地に旅立つ月である。一年の四番目の月。卯月。一部広辞苑より。

その四月と言うものは、前述したように夢や希望を抱いた少年少女が多いため、世界がハッピーに満ち溢れている。ちょっと満ち溢れすぎているくらいにハッピー。特に満ち溢れすぎている場所、それはおそらく学校であろう。クラス替えにキャッキャウフウフして、新入生は新たな学校にドキドキして。新たな恋も始まっちゃったり。突然特殊能力に目覚めちゃったり。変な部活を始めちゃったり。ああ、春は素晴らしきかな。

そんな素晴らしい季節がとうとう今年もやってきた。我が誠海高校せいかいこうこうもその例外でなく、やはりみんなキャッキャウフウフしている。揃いも揃ってウフウフしているからか、なんだか不気味な雰囲気が醸し出されている。


と。


突然視界が暗くなる。まぶた越しに感じるリアルな体温。誰かに目を覆われたのだろう。そうすると次に聞こえるセリフは決まっている。


「だーれだ」


残念なことに、聞こえてきた声は恋が始まりそうな萌えボイスでも、まさかの腐った展開がありそうなイケメンボイスでもなく、聞き慣れた残念ボイスであった。


「隆太、気色の悪いことをするな。それと汗かいた手でやるな、さらに気色悪いわ」


そう言って目から手を剥がす。後ろを振り返ると小太りな男がいる。俺と幼馴染の隆太である。自称「キョウの親友であり天才アニメ監督、の卵」。これを信じてはいけない。ちなみにキョウと言うのは俺のことだ。俺の名前である神木京也かみききょうやの京をとって、キョウ。つくづく安易なあだ名である。


「ああ、やはり我が親友には通じないな。流石だ、あっぱれ。キョウくんパねぇ」


何がどう通じずそれがどうこうしてそうなのかよく分からんが、まぁ、隆太の言うことがイマイチ理解できないのはいつものことだ。彼は生きていくのに必要な程度の日本語力すら持ち合わせていないのだ。


「今更俺の凄さに気付いたか。凄いだろ?俺。でも気付くのが十年遅い。よってマイナス十点」


と、少し自慢気な顔を作ってみせる。それが嫌だったのか隆太はちょっと不満気な顔をする。


「なんでマイナス十点なんだよ、そこはアレだろ、俺の可愛さでカバーできるだろ」


そっちか。てっきり「凄いだろ?俺」と言いつつ自慢気な顔をするっていう行為にイラっときたのかと。

でも着目するところが隆太らしいな、流石隆太、略してサスリュウ。なぜか採点されていることには突っ込まない。


「お前が可愛い?寝言は寝てからにしろ。それに、もしプラス十点になったとしても今までの減点分があるからな、負の数であることに変わりはない」


「もし俺が歩きながら寝れて、今話してることが全て寝言だったらどうするんだ」


変な屁理屈を言う奴だ。そう返してくるのはちょっと想定外であった。


「…あー、えっと。ちなみに今まで、俺ってどんぐらい減点されてんの?」


隆太が遠慮がちに聞いてくる。恐ろしい数になってるのを察してるのだろう。


「そうだなぁ…まぁマイナス五万点くらいだろ」


もちろんでっちあげ。さっきマイナス十点したのも、今までの分があるとか言ったのも、俺に採点癖があるわけじゃなく、適当に言っただけなのだ。前々から隆太を採点してた訳じゃない。しかしここで採点していたのを嘘だとバラすのも面白くないので、適当にでっちあげた。

しかし隆太は俺が前々から採点してたものだと思っているようで、マイナス五万点という数字に愕然としている。


「一応聞くけど、スタートの数字って…」


スタートの数字というのは多分、どんな数から減点していったのか、ということだろう。


「マイナス一万点からだ」


言わずと知れた伝家の宝刀でっちあげ。


「マイナスからのスタート…」


まぁマイナス一万点からスタートはキツいだろう。0までたどり着くまでに一万点もポイントを稼がなければいけない。ファイト、隆太。頑張れ、隆太。

そう心の中で隆太を励ますが、隆太が次に発した言葉は励ましたのがバカらしくなるようなものだった。


「燃えるッ!!」


隆太が逆境を乗り越えようとしている!でもちょっと乗り越えようとするのが遅かった。今やマイナス五万点。0までは五万点。母に会うために三千里を行くよりも長い道のりになりそうだ。


そんなこんなで。


学校へ到着した。校門を抜けると左手に桜が咲いていた。アニメとかでよく桜の花びらが落ちまくってるのがあるが、実際あんなに桜の花びらが一斉に落ちることなんてない。花びらがちょっとずつひらひらと落ちるのが良いのだと俺は思う。


「あ、そうだ。キョウ、今年こそ同じクラスになるだろうか」


隆太は俺の方を振り向いて、そう言った。そのお肉たっぷりなお顔を拝見せんでもお前の言うことは耳に届く。


「今まで一回も同じクラスになったことないだろう?小学生から中学生まで、ずっと。確か幼稚園の時だけだったよな、同じになったの」


確かにそうだ。隆太とクラスが同じになったのは幼稚園の時から一度もない。小学校も中学校も学校自体は同じだったのだが。何か裏で謎の機関が動いてたりするのか、と疑うほど同じにならない。

そんな事を考えてたらなんだか今年のクラスが気になってきた。見るか。

と、少し小走りになる。

予言しよう。今年も俺と隆太は同じクラスにならない。特に理由はない。なんとなくそんな気がするのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前のクラス、遊びに行くから、な」


そう言って隆太の肩を叩く。

今年度も同じクラスにはならなかった。残念だ、うんうん残念残念。本当に残念だ。はいはい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ついていけない。

教室に着くとみんなでラインを交換していた。駄目だ乗り遅れた、みんなについていけない。

いや、俺にコミュニケーション能力が無いわけではない。突然異世界に飛ばされても美少女と普通に話せるくらいにはある。かなりある。だが、こういう自分から積極的に行く必要があるものはとても苦手なのだ。本当に。まだ誰とも話してないぞ俺。

ああ、どうしよう。これなら隆太と同じクラスになってた方がマシだったんじゃないか?

そんな事を思っていると。


「ねぇ、神木京也君だよね」


不意に名前を呼ばれてビクッとする。


「はぁ、そうですが」


そんな気の無い返事をして呼ばれた方を見る。

赤みがかった髪を肩あたりで切りそろえた少女。初めて見る奴だ。制服の裾を入れておらず、なんとなくワイルドな雰囲気が醸し出されている。なんとなく。


「エアコンのリモコンって、要ると思う?」


「はぁ?」


思わずそんな声を出す。何を言ってるんだこいつ。エアコンのリモコンが必要かどうか?それは心理テストかなんかか。


「要るだろう。リモコンがないと冷房も暖房もつけられない」


当たり前だ、と別に深くも考えずに答える。もし仮にこれが心理テストだったら、正直に答えなければいけないだろう。だから深く考えない。ただ単純に、深く考えるのが面倒、という理由もあるのだが。


「そっか…うん、ありがと」


少女は少しガッカリしたような顔をした。ガッカリされても困る。俺は一般論を述べたはずなのだが。彼女にとってそれは一般論ではなかったのだろうか。エアコンのリモコンが必要かどうか聞いてくる奴だ。若干他の人とは感性が違うのかもしれない。

まぁそんなの俺には知る由もないし、知らなければいけない訳でもない。少女は少女、俺は俺。あくまで第三者であり、赤の他人である。しかし、なぜだろうか。少女のその顔の理由が俺には少しだけ分かっている気がした。

まぁ、そういう「気がする」だけだ。デジャヴとは違うが、大体そんな感じのやつだろう。


少女は深呼吸すると、パチン、と指を鳴らした。

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