第2話-2
「あのう…… 昨日のミーアキャットのぬいぐるみ、どうだった?」
クレーンゲーム機まで彼を誘導していく途中、彼が話しかけてきた。
「え?」
「弟さん…… 気に入ってくれた?」
ああ…… 昨日は咄嗟にそんな作り話をしたことを思い出した。
「気に入らないって、私に投げつけてきました」
《おいおいエレナ、ボクは他のが良いって言っただけで、投げつけてなんかいないぜ!》
「しっ、話を合わせて!」
《ボクの言葉はその男には届かないから大丈夫だって。かわいそうに落ち込んでるぜ》
そう言われて彼を見ると、想像以上にがっくりとうな垂れていた。
ちょっと罪悪感を感じる。でもこういった試練を乗り越えてこそ、誇り高き魔導師になれるのよ。
目的のクレーンゲーム機に到着。
彼は景品のぬいぐるみの山の様子をじっくりと観察する。
その隣で、私は彼の横顔をちらちらと見ている。
へえ、けっこうイケてるじゃない。養成学校にはいなかったタイプね。
ちょっとオドオドしている所もあるけれどそれも可愛いと言えば言えなくもないわね。
魔術師養成学校の男子は総じて自信過剰なところがあったから……
「いきますっ!」
「えっ? どど…… ど、どこへ?」
不意に声をかけられて動揺してしまったわ。恥ずかしい!
「よろしくお願いします」
私は顔を真っ赤にしながら言い直した。
彼は100円玉を投入し、慎重にクレーンを操作した。
取り出し口に一番近くにあるライオンのぬいぐるみを狙っているようね。
《なんだ、今度はライオン狙いか…… もっとビビッとくる獲物を狙えないのかなー》
私の使い魔は好みがうるさい。
自分の『依り代』にする物なんだから、自分で好きなのを選べばいいのに。
本人が言うには『自分で選んでは意味がない』そうだ。
それって結局『今日の夕飯何がいい?』と聞かれても自分が何を食べたいのかうまく表現できない、みたいなもんでしょう? それなのに、いざ食卓に出してみたら『今日はこの気分じゃなかった』なんて言うんだわ。
男って優柔不断ね。私の使い魔に性別があるのかどうかは知らないけれど。
彼の操作するクレーンは、ライオンのたてがみ部分を一度は掴みかけたけれど、くるっと半回転しただけで失敗した。
彼がひどく落ち込んでいるうちに、私は使い魔に話しかける。
「ねえ、この中から好きなの選んでみて」
使い魔は私の眼を通して物を見ることができる。
瞳がブルーに変色するため、その状態を人に見られては何かと面倒なのだ。
《ぱっと見た感じ、好みに合う物はなさそうだなぁ》
「くっ……!」
殴ってやりたい!
でも依り代が破壊されて一時的に私と同化している使い魔を殴るということは、私自身を殴るということなので、やめておこう。
「2回目、行きます!」
失意から回復した彼が威勢良く言った。
や、止めて…… その分のお金で私に何か奢ってちょうだい……
私の魂の叫びもむなしく、100円玉は投入されてしまった。
第2話 おわり
次回は 第3話 ムラサキ色のぬいぐるみ【主人公目線】 となります。
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