第16話-6
「ね、お願い! 協力してしてよ……」
使い魔のバットと同化して力を借りるという見事なまでのチート振りを発揮してくれたエレナの様子が変だ。
「だから…… 今回だけ…… ね?」
何かバットと揉めている様子だけれと……
周りから見ると怪しい独り言に見えるのだが、エレナの奇行は今に始まったことではないため、ギャラリーの多くは見て見ぬふりをしてくれている。有り難いことだ。
ただ、対戦相手の佐倉葵にはその耐性がない。
「何ぶつぶつ言っているの? 私を馬鹿にしている?」
「あっ、いえ。じゃあ始めましょうか…… あれれ?」
とエレナが言った瞬間、僕の視界が暗転した。
立ちくらみかと思ったけど、ふらつくこともなくすぐに視界は戻った。
エレナが僕の顔を見つめて『あわわ……』と口元をわなわなさせている……
どうした? そんなに見つめられると照れちゃうんですが……
《暫くこっちにいるから。よろしく人間君!》
「はいっ?」
僕はまた素っ頓狂な声をあげてしまった。
僕は慌てて教室の隅っこに行き、
「なな、なんでバットが僕の中にいるんだ?」
《人間同士のいざこざに巻き込まれたくないから逃げてきたのだ。しばらく居させてもらうからな》
バットの声が僕の知覚に直接的に響いてくる。空気の振動ではなく、相手の思いが直接的に心に伝わってくるという…… ああ、これが人間一人でいるうちに自然と生まれてくるという……
「自分にしか見えない心の中の友達というものか!」
《それは違うから! そもそも人間君にはオレの姿が見えていないだろう!》
友達関係を完全否定するエレナの使い魔バットは、冗談もユーモアも通用しないようだ。それにしても教室の隅っこって落ち着くよなぁ……
「あなた、幼くして両親を亡くしたわね。お気の毒に……」
「くっ、その通りよ。では私のターン……」
教室の中央では占い対決はすでに始まっていた。
1回目のターンは、佐倉葵がエレナの境遇について言い当てたようだ。
僕がエレナの側に戻ったときには、エレナは水晶玉に手をかざし、精神を集中し始めたところだった。
エレナの水晶玉が青白い光を放っている。
LEDの明かりだ。
水晶玉を置くえんじ色の座布団みたいなものにLEDライトを埋め込んでいる。
ギャラリーの皆さんはすっかり騙されて『おー……』と感嘆の声をあげた。
「佐倉葵、あなたの家は代々占い師を輩出してきた家元…… そうでしょう?」
「うっ、よく判ったわね。その通りです」
いや、みんな知っているから。
「では、私の順番です……」
佐倉葵が目を閉じて念じ始めると同時に水晶玉が青白く輝いてくる。こちらもLED内蔵…… 違う! その光はLEDの光とは全く性質が違う、喩えれば放電作用の光…… しかし明らかにそれとも異なる、ゆったりと青白い光が水晶玉の周りを漂っている。
すごい! 神林先輩のときのエレナの魔術もすごかったけれど、佐倉葵の占いも本物だ! ギャラリーからも大きな感嘆の声があがった。
「栗沢エレナ、あなたは幼い頃…… 大きな力のある人物…… その人は組織でもかなり地位の高い男性に出会った。その人物は現在の義父ですね!」
「流石ねその通りだわ。その情報はこの学園でも一部の先生しか知らないことよ。ならは私も……」
再びエレナの水晶玉にLEDの明かりが灯る。
「佐倉葵、あなたの父親は…… テレビでもお馴染みの佐倉荘厳……」
佐倉葵がまた『うっ…… また当てられた!」という反応を見せたが、それもみんな知っていることだから! エレナは続ける。
「あなたはその父親のことを……」
といった瞬間に、エレナは佐倉葵の方をチラッと見て、
「……怖がっているわ。占い師の父親を尊敬していると同時に怖がっている…… そうでしょう?」
対戦相手は例によって『うっ……」となっているけれど、今度は僕も驚いた。
相手の反応を見ながら伝える内容をアレンジするという、エレナの占いの真骨頂を垣間見たからだ。ベールを被り、口元までもフェイスベールで隠している佐倉葵の表情を一瞬で読み取ったのだ。
魔術師養成学校で学んだというエレナの占いも、ある意味本物だ!




