第16話-3
「桂木ー、大変なことになってしまったよー!」
角田修平が占い同好会(未承認)部室に駆け込んできた。
いつもは軽いノリの修平がめずらしく焦っていた。
「どうした?」
「占いで勝負しようと挑まれたんだよー!」
「マ、マジか!?」
と驚いて見たものの、話が全く分からないのでハーブティーを飲ませて落ち着かせることにした。
ハーブティーは新しく占い同好会に加入した神林先輩の趣味である。茶漉しがセットになったガラス製のティーカップは先輩の自宅から持ってきたもので、電気ポットはエレナの会社の備品として購入したものだ。
ここ数日の研究のお陰で、僕のハーブティーを煎れる腕も相当上がっているはずだ。
「まずはこれを飲んで落ち着け! 本日のハーブはカモミールとリンデンのブレンドだからリラックス効果があるぞ」
エレナと神林先輩は外出中のため、『占いの間』の奥の部屋『治療室』にて男2人でてハーブティーを飲む。
僕はふと、修平と二人でこの部屋の改装作業をした時のことを思い出した。あれからまだ2週間と経っていないけれど、随分と状況が変わってきたものだ。
やがて落ち着きを取り戻した修平が語り始める。
「俺、幼馴染みの彼女がいるんだよ」
「ええっ? マジかよ! 初耳だよ」
「いつもお前と栗沢さんのお子様カップル振りを見せつけられているもんだから言い出せなくって……」
「悪かったな、お子様カップルで…… おい、お前とその幼馴染みの彼女とは…… その…… どこまで進んでいるんだ?」
修平は頬をぼりぼり掻くような仕草をしながら、
「お、大人の関係というか…… あとは想像に任せる」
「マジかー?」
何ということでしょう。彼女いない歴16年目の幕を閉じようやく日の当たる場所で歩み始めたばかりの僕の隣に、ずっと以前から青春を謳歌していたリア充男がいたなんて……
「これからも僕たちお友達だよね、修平君……」
僕は涙目で尋ねた。
「当たり前じゃないか! 俺たちの友情はこれから始まるんだ!」
修平は僕の肩をぽんと叩いて微笑んだ。
あれ? これから始まるって、まだ始まっていなかったの?
その件について考えあぐねていると、修平がとんでもないことを言った。
「その幼馴染みの彼女に『占いの館』の話をしたらヘソを曲げちゃってさー。俺の彼女は占い師の総本山、佐倉家の娘だからさー」
「はああああー?!」
佐倉家はテレビや新聞でもよく見かける、古くは陰陽師の先祖をもつと言われる現代の占い師総本山と評される家元だ。その本家の一人娘が修平の幼馴染みらしい。
「お前、今まで彼女に同好会の話をしていなかったのか?」
「とんとん拍子に話が進んでしまって、言うタイミングがなかったんだよー」
エレナの発案からわずか2日間で部室ができて、翌日には仮とはいえ『占いの館』のオープン日だった。確かに言うタイミングが無かったかもしれない。付き合っているっても四六時中会っている訳ではないだろうし。
「それに……」と修平が言葉を続けた。
「その時はまさかこんなに本格的な占いの館ができるなんて思わなかったんだよー。どうせおままごとみたいな感じに、お前たちのお子様カップル振りを見せつけられるだけなんだろうな程度にしか思っていなかったんだー」
「……貴様とはいつか決着をつける必要がありそうだな」




