第2話 魔導師のタマゴ
第2話はヒロインのエレナ視点でのストーリー展開となります。
〈4〉
私はエレナ。魔術師養成学校中等部を卒業して進路先を模索中の16歳。
幼い頃に両親と死別した身寄りのない私を、養成学校の理事長が引き取ってくれた。高等部への進級試験に落ちた私を心配して、理事長は中等部での留年を勧めてくれたけれどそれは私のプライドが許さなかった。安っぽいフライドかも知れない。でもそれたけが現在の私を支えてくれている。
理事長は財団法人魔術開発グループの幹部役員。魔術開発グループは、表向きには手品師や占い師の研究団体とされているけれど、政治・経済を動かすほどの影響力を持っているとも噂されている。いくら理事長が親代わりとはいえ、私にはそれが本当なのかはわからない。
魔術師養成学校中等部での授業は、タロット占いや占星術の他、白魔術、黒魔術の実習があったぐらいで、他の教科は通常の学校と違いはなかった。魔術の実習では、自分の『使い魔』を呼び出すことが最終目標とされていた。使い魔と契約を結べた生徒は、それだけで高等部への進学が許された。
私は…… 進級試験の不合格が発表された翌日、ある出来事がきっかけで、偶然にも使い魔と契約を交わした。
「ああ、なんて運が悪いの。あと1日早く使い魔が私の元に来てくれれば!」
《エレナがもっと勉強をがんばっていたら実力で進学できたんじゃないの?》
うっかりグチを吐いてしまったわ。しっかりしなさい、私。
「私は誇り高き魔導師のタマゴ……」
《エレナ…… 誇り高き魔導師のタマゴが一文無しになって、男子高校生にゲーム代をたかるってどうなのよ……》
うるさい うるさい うるさいー!
私の思考に今日も雑音が紛れ込んでくるわ。でも、私は負けない!
来週には親代わりの理事長から生活費が届くわ。
「5月1日の朝、銀行へGO! よ」
《5月はGW開けに生活費を振り込みますって手紙が届いていたよ?》
「あああああああーーーーー!」
ゲームセンターの入口で思わず叫んでしまった。頭を抱えて座り込む私をメダルゲームをやっている人たちが珍獣でもみるような目で見ているじゃないの。
私は軽く咳払いをして何食わぬ顔で立ち上がり、雑音の発信源に苦情を言う。
「ちょっと、私の思考に割り込んでこないでよ!」
《エレナが独り言をつぶやくから、つい言いたくなってしまうんだよ。ボクはキミが声に出した時にしか思考は読めないんだけどね》
ああ、そうだった。私の使い魔は私の思考すべてを理解することはできない。
使い魔との契約には魔導師との相性によってランクがある。
A契約ともなれば、人格すべてを共有する。
B契約は、必要なときに思考を共有できるだけ。
そして、私たちの結んだC契約は、声に出して思考を共有……
「それってただの会話じゃない?」
《――――》
私の使い魔は、都合が悪くなると黙りを決め込む。
あっ、あの人が今日も来てくれた。
《カモが来たぜ、カモが……》
「カモって言うなー!」
「え?」
男子高校生の彼が不思議そうに私を見る。
「あ、いえ、こっちのこと……」
意味の分からない言い訳をしてしまった。
恥ずかしくて俯いていると、彼がボーッとこちらを見つめている。
ちらっと上目遣いに目を合わせると、彼はあわてて視線を外した。
彼は手のひらを開いて、
「今日の軍資金は300円しかないけど」
と申し訳なさそうに言ってくる。
そんなことないよ。
今の私にはヨダレがでるほど高額な資産だよ。
まさかそんなこと言えるはずもなく、私はニコッと微笑んで、
「今日もよろしくね」とだけ言った。
厳しいご意見を聞く耐性もありますので、忌憚なきご意見もよろしくお願いします。