第14話-6
神林先輩の相談内容を要約するとこうなる。
――小学2年生のころまで神林智美の家には猫がいた。白と黒のブチ模様のその猫のことを友達のように可愛がっていたらしい。しかしある事件が起こった。その猫が家の外に出てしまったのだ。そして家の前の道路で車に轢かれてて死んでしまった。その後も神林智美の家には何匹かの猫を飼っていたのだが、小学校6年生のとき突然吐き気におそわれた。吐き気は三日三晩続いたが、原因は特定できなかった。医師の診断では精神的なものからくる一時的なものだろうということだった。それ以来、猫の姿を見ると手が震えて固まってしまうという。
「うーん…… にゃんこの呪いだニャー」
巻田先輩が言う。
「そーでしょう?」
エレナが満足そうにそれに続く。
「やはりそうなのだろうか……」
神林先輩がうな垂れる。
「いや、ちょっと待ってください。現実にそんなものがあるなんて――」
と言おうとして、エレナが魔導師であることを思い出す。
そして使い魔バットの存在も……
あり得るな、呪いも……
しばらくの沈黙の後、
「それでは今晩伺いますので、ここに自宅までの地図を描いてください」
エレナは営業スマイルでそう言った。
――夜中の2時を回った。
僕とエレナそしてその使い魔は、神林家の庭に立っている。
「おい、本当に家の中に忍び込まなくちゃならないのか?」
「自宅のベッドで寝ている時が、人はもっともリラックスしているんです。寝込みを襲うのが一番なんです」
最近は休みの日でもラフな服装を好むようになったエレナだが、今夜は久しぶりの『4号室のおばさん』に作ってもらったという黒を基調として白いフリルがあしらわれているゴシック&ロリータ系の衣装だ。この衣装がエレナにとっての『勝負服』ということなのだろう。
エレナの指示でバットが2階の窓まで飛び立ち、中の様子を覗いている。
「ぐっすり寝ているようだぜ」
「じゃ、行くわよ!」
バットが仕掛けてくれた縄ばしごをよじ登る。
「窓の鍵、ちゃんと開けてくれているわ。よしよし」
音を立てないように注意して、窓から侵入する。
この時、僕の頭の中では探偵が主人公のアニメのBGMが流れていたが、僕らは当然犯人役である。
神林先輩の部屋はブルー系のカーテンに白い壁紙。机の上には棚が取り付けてあり、有名どころのキャラクターのぬいぐるみが置いてあるところなんて、まさしく女の子の部屋という感じだ。床はフカフカの毛布のように暖かそうな感じのピンク色のマットが敷いてある。これは僕が日頃から想像してた『女の子の部屋』のイメージそのものだ。
僕はふと、ぼろアパートに住んでいた頃のエレナの部屋を思い出した。
あの殺風景な部屋でエレナはどんな生活をしていたのだろう……
神林先輩は木製のベッドに寝ている。
眼鏡を外した先輩の顔は…… やはり美人だった。
鼻筋がピンと通っていて、日本人形に代表されるいわゆる日本人好みの顔といえばいいだろうか。
スー…… スー…… という寝息をたてている。
呼吸に合わせて、掛け布団が上下に動いていた……
この下には先輩の推定Dカップの豊かな胸の膨らみが――
「人間君、エレナが先ほどから睨んでいるのに気づかないのかい?」
「あっ……!」
見ると先ほどまで魔法陣を描いていたはずのエレナが僕を睨んでいた。
光の加減からか、眼光が文字通り光って見えているけれど。
僕が愛想笑いを浮かべると、『フンッ』という感じで魔法陣の続きを描き始めた。
先輩が眠るベッドの周りを囲むように魔法陣が完成した。
スゲー、また本物を見られた!
僕は感動を禁じ得なかった。
「では悟さんは部屋の隅っこでじっとしていてください」
なんだか言葉にとげがあるけど、僕は素直に従った。
「バット、始めるよ!」
「ほいきた!」
バットがエレナの右肩にちょこんと留まるや否や、ただのムラサキ色のぬいぐるみと化したコウモリはその場にぽとりと落下した。
使い魔と同化したエレナは青色の瞳に変化している。
ベッドで眠る神林先輩のそばに行き、両手をまっすぐに突き出す。
「では詠唱を始めます」
うわー、本物の魔術だぁー。
エレナの詠唱が始まると、先輩の体が一瞬ピクリと動いて、柔らかな青い光に包まれていった。




