第9話 お引っ越し
第9話 お引っ越し【主人公視点】
翌朝目覚めると、隣でエレナが寝ていた。
驚いて起き上がり、周りを見回すと、部屋いっぱいに物が散乱していた。
壁にはペン類やハサミが突き刺さっているし、無数の傷がついている。
――中二のころに必死に集めた各種アイテムも――
悪魔払いが出てくる映画で見たような、壮絶な戦いが繰り広げられたのだろう。
もしかして、これ、全部僕がやったのか?
エレナに怪我は?
眠っているエレナの全身の様子を見ると、ゴシック&ロリータ系ファッションの衣装は所々裂けてはいるが、大きな怪我はしていないようだ。
エレナの顔をのぞき込むと、「スー、スー」という可愛らしい息づかいが漏れている。
僕はそっと、元の位置に横になる。
「……」
「寝かせてやってくれ。けっこう頑張ったんだ。その娘なりにな」
「こめんなさいっ、まだ何にもしていません!」
後ろからバットに声をかけられ、驚き余って言い訳をしてしまった。
「人間君…… 君は本当に面白いヤツだね。悪魔族にスカウトしたいぐらいだ」
「丁重にお断りします……」
「どうだ今朝の気分は?」
「おかげさまで、なんだか気分がすっきりしています」
僕はエレナに後ろめたいことは何もしていないけれど、後ろめたいことを一瞬でも考えてしまったことにより、その使い魔に敬語で話している。
僕は立ち上がって、鏡をのぞき込む。
そこには……
「やはり不細工な顔だ。もしかして、治療がうまくいかなかった?」
とバットに尋ねると、
「ははは、何事も気の持ちようだ人間君! 強く生きろ!」
なぜか励まされてしまった。
あれ? 1階からトーストが焼けているいいにおいがする。
ああ、母さんが帰ってきていたのか……
……
まずい!
まずい、まずい、まずい!
この部屋の惨状を見られたら?
しかも女の子がぼろぼろの服で眠りこけているし!
僕が焦っていると、不安が的中。
階段を上る音が聞こえる。
僕はムラサキ色のぬいぐるみを抱きしめ、
「バットー! なんとかしてくれー」
と懇願する。しかしバットは無反応だった。
『ガチャ……』
ドアを開ける音がして、僕の青春が終わりを告げた――
と思ったら……
「かっくん、エレナちゃん、朝食の時間ですよ」
「えーっ?」
母はいつもと変わらない表情で僕たちを起こしにきたのであった。
僕が食卓に座ると、すぐに右隣にエレナが、左隣に母が座った。
僕を挟むように、3人は黙々と朝食を食べ始める。
「……なんでこうなった?」
僕は沈黙に耐えきれずに口火を切った。
「エレナちゃん、ゴールデンウィーク明けまで生活費がないっていうんだもの」
「しばらくお世話になります、お母様」
「あなたにお母様呼ばわりされる覚えはありませんよ」
「では、『おばさん』とお呼びしてもよろしいですか? お・か・あ・さ・ま!」
という具合に、僕を挟んで仲良さそうに話している。
「ところで父さんは元気だった?」
もう一つの気になっていたことを母に尋ねた。
「ええ、私が連絡を受けてあんなにすぐ駆けつけるとは思わなかったみたいで、若い事務員とイチャイチャしていたの。身ぐるみを剥がして、コラッってしてきたわ」
「そうか、元気そうでなによりだ。あー、今日はゴールデンウイーク2日目かぁー。何しようかなぁ」
「かっくん、私とデートしましょう。お母さん、何でも買ってあげるわよぉー」
「お母様、お金で釣ろうとしないでください。それに悟さんは私の引っ越しのお手伝いがありますので」
「えっ? そうなの? 僕、初耳だけと」
「いい加減にしなさい、この泥棒猫!」
「お母様こそ、この年増悪魔!」
2人は取っ組み合いのけんかを始めた。
ケンカするほど仲がいいというからな。
僕のひざの上でおとなしくトマトジュースをちゅーちゅー飲んでいるバットに、
「なあ、この2人、いつの間に仲良くなったんだ?」
と話しかけていると――
「仲良くありません!」/「仲良くありません!」
2人の声が見事にハモった。




