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落ちこぼれ魔導師が学園で何かを始めるようです!  作者: とら猫の尻尾
第1章 落ちこぼれ魔導師、普通の高校へ行く
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第8話-2

 部屋のドアが開放され、腕を組んだ女性が立っていた。

 この人は悟さんの記憶の中で何度も登場していた。

「悟さんのお母様?」

「私が家を留守にしているうちに泥棒猫が侵入していたようね!」

「あっ…… お母様、初めまして。私は――」

《エレナ避けろ!》

 私は見えない何かの圧力によって、一瞬にして壁に激突した。

 追うようにして、シャープペンやボールペンが私の体をかすめる位置にズサッと突き刺さる。

「くっ!」

 何が起こったかまるで理解できない。

 悟さんのお母さんは、手のひらの指をいっぱいに広げ、私に向けている。

「今のは警告。次は体に突き刺すわよ、泥棒猫さん」


《エレナ、こいつ、サキュバスだ!》


 サキュバス―― 人間の男性に取り憑いて夢を見せ精気を吸い尽くす邪悪な悪魔。


 今理解したわ。

 このサキュバスはお母様に化けて悟さんの命を狙っているに違いない。

《エレナ降参しろ! こいつは君たち財団の魔導師とはレベルが違う。本物の悪魔だ!》

「いやっ! ここで逃げたら私、絶対後悔するもん!」

「逃がさないわよ!」


 悟さんの部屋に散在する、様々なアイテムが私に向かって飛んでくる。

 剣、ナイフ、鉄球なと当たると致命傷になる物までが……

 私の体は壁に押し当てられたまま、身動きがとれない。

 ああ、悟さんの愛用している物に殺されるなら、本望かも……


「させるかぁー!」


 刹那、バットが依り代のコウモリのぬいぐるみに戻り、すべてのアイテムの軌道を逸らした。

 しばらくして、『ストン』とバットが床に着地した。

「お前は……」

「久しぶりだな、サキュバス」

「なぜお前が財団の魔術師と組んでいる?」

「まあ、いろいろとあってな…… 今はしがないぬいぐるみさ」


 バットとの会話に気をとられているからか、私は見えない圧力から解放される。

 私はそっと、ベッドの方へ歩み寄る。

 悟さんは、寝息を立てて眠っている。

 大丈夫だよ、あなたは私が守るから。


「おい、泥棒猫! 息子に触るんじゃないよ!」

「サキュバス、あなたの企みはここまで。私が命にかけても悟さんを守ってみせるわ!」

「インチキ魔術師が、粋がってんじゃないわよ! 息子を守るのはこの私よ!」


「……」


「……」


「えっ?」/「えっ?」


 それから私とサキュバスはベッドの脇にミニテーブルを置いて向かい合った。

「あなた、財団の関係者ね。そう、夢を司るタイプの魔術師」

「魔導師です…… お母様」

「財団の魔術師が息子に何の用?」

「魔導師です…… それよりあなたは本当に悟さんのお母様なんですか?」

「悟は私が16年前に産んだ実の息子よ、魔術師さん」 

「魔導師です…… じゃあ…… 悟さんも悪魔――」

「それは違う!」

 お母様は強い口調で否定した。そして説明を続けた。


「私も元は普通の人間だし、今でも人であることに変わりはないの。どんな人間にも生まれながらにして持っている魔力はあるけれど、その濃さは千差万別。私は偶然にも魔力が強く集まっただけ。それもサキュバスの魔力がね。」


 私が魔術養成学校で学んだことと少し違うけれど、お母様は嘘をついている様には見えない。少なくとも本人はそう信じているのだろう。今はそれでいい。


「そして息子の悟には、魔力は全く引き継がれていない。悟が自分の部屋に閉じこもって何か呪文みたいなことを言ったり、伝説の剣とかを抜いたりしている様子を毎日のぞいていたけれど、なーんにも起きていなかったわ」


「うう…… 毎日覗いていた?」

「そうよ、だって母親だものあたりまえでしょ?」

「なんてうらやま…… ちがっ…… ゴホン!」


 私はバットが何か口を挟みそうな気配を察知して自重した。

 そして、話の核心に迫っていく。

「悟さんの過去の記憶に不自然に改変されている箇所がたくさんありますけれど……」

 悟さんのお母様は、少し焦ったような顔をした。

「……あなた、息子の命を狙った刺客ね」

「ごまかさないでください。記憶の改変、お母様の仕業ですね」

「……そうよ、それがどうかした?」


 開き直った。


「悟さん、自分が不細工でごめんなさい、生きていてごめんなさいーって、苦しんでいますよ!」

 悟さんのお母さんは、すっくと立ち上がる。

 そして悟さんの額をさすりながら、

「親が息子の幸せを願うのはあたりまえのこと。悟がつらい目に遭っていないか、泥棒猫に狙われていないかいつも心配なの」

「あの、2つめの心配事は、放って置いてあげても――」


「ダメなのっ!」


 大きな声で否定されてしまった。

「だってだってぇ、悟ったら夫と同じくイケメンでしょう? 周りの女が放っておくわけないじゃなーい。それに天性の女ったらしの素質も受け継いでいるの。将来ぜったい浮気とか日常茶飯事の人生よ。お母さん、それ、耐えられない! 悟はお母さんだけ見て生きていけばいいのよー!」


 ダメな母親だ、この人……


「それが理由で、悟さんに自分が不細工ですって、思い込ませたんですか」


「そうよ…… でも、あなたにバレてしまったからには、元に戻すしかないわね…… これで悟は女ったらしのウハウハ人生を歩み始めることに」


「ちょっと待ってください!」


 私は全力でお母様を止めた。


 その夜、私達は同盟を結んだ。


『淑女同盟』で検索したら怪しげなサイトや画像がヒットしたので『同盟を結んだ』にしました(^_^;)


 第8話 おわり

 次回は 第9話 お引っ越し【主人公視点】


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