第7話-4
僕とエレナそしてその使い魔のバットは僕の家の玄関前までやってきた。
今晩、僕の寝込みを襲い…… もとい、治療に来る打ち合わせのためだ。
「悟さんのご両親にご挨拶…… 私、まだ心の準備が……」
後ろでエレナがそわそわしながら何かつぶやいている。
「両親といっても父は家に帰らない人だから…… あっ!」
母も父を探しに出かけたっきりだったことを思い出した。
そのまま2、3日は返ってこないことも良くある。
「うち…… 今夜だれもいないの」
「それは都合が良いですね。上がらせてもらいます」
「えっ?」
「今晩は泊まっていくから。よろしく人間君!」
「ええっ?」
な、なんなの、この魔導師と使い魔。
「おい、若い男一人の家に、年頃の女の子がそんなに気軽に……」
「大丈夫です。私、信用していますから」
「信用してくれるのはうれしいけど……」
「そして、悟さんは根性無しですから」
「それはうれしくない……」
「悟さんは、私のことを大事に思ってくれると信じていますから」
とびきりの笑顔で言われてしまった。
「あと、自分自身のことも大事に思ってくださいね!」
と言って、ムラサキ色の使い魔を撫でるエレナ。
4本の犬歯がピカリと光った。
こわっ!
エレナによる『治療』は深夜の時間帯がより効果があると言うので、時間つぶしのため僕たちは居間のソファーに座って魔術養成学校の話題などで盛り上がっていた。
中二病をこじらせていた当時、人間には等しく魔力が封じ込まれていて努力次第でそれが表に出るだろうと考えていたことをエレナに話してみると、
「魔力の強さには個人差があるのよ。生まれながらにして強力な魔力を持つ人がいれば、全く持たずに生まれてくる人もいるの」
とエレナはさらりと言ってのけた。
マジ? 本当に魔力ってものが存在するの?
「ぼ、僕にもあるかな?」
「大抵の人にはあるらしいですよ。財団法人魔術研究グループ監修の『あなたにもできる大魔術』にあるようなトレーニングを積めば――」
「いや、それはもう試したけどダメだった」
「……あ、そうなの。なら、悟さんは数千人に1人の魔力ゼロの人です! 貴重なサンプルになりそうです」
「そんなサンプルになりたくはない!」
やはりこの世界は不公平だ……
魔力を持つ者と持たざる者。
イケメンというだけで得をする者と不細工で損をする者。
努力しても超えられない壁は世界の至る所に存在する。
それが現実世界……
「エレナは良いよなぁ…… 養成学校出身だから強い魔力があるんだよな」
僕の言葉を聞いたエレナの表情が急に曇った。
何かマズいことを言った?
「私は…… 養成学校の落ちこぼれなんです。高等部に落ちちゃったし……」
「えっ? じゃあ今は何を……」
とまで言って、ようやく僕はエレナがこの話題に触れたくないと思っていることに気付いた。こんな話題を持ち出すには時期尚早だったのに……
でもエレナはムラサキ色のぬいぐるみを弄くりながら、
「私、自分探しの旅の途中なんです。旅の途中で桂木悟という男の子に出会って…… 一緒にゲームをして遊んでいるとき、その男の子が私のことをチラチラ見てきて。私のことが気になっているのかなと思っていたら、ぬいぐるみを持って全力で逃げていくし…… 何なのあの人って思っているうちに…… また会いたくなって来ちゃいました!」
と言って『てへっ!』みたいな感じに笑いかけてきた。
こ、これは…… や、やっぱり告白されているのでは?
いやいやいや、それはないでしょう。
僕の『今は何を?』の質問に答えてきただけだ。
そうに違いない。
あ、でも…… また会いたくなってということはやっぱり……
などと僕が狼狽えている様子が可笑しかったのか、
「くすくす……」
エレナは楽しそうに笑った。
エレナに弄くられているぬいぐるみのバットはジト目で僕を見ていた。
夜になった。
6畳間の僕の部屋には、パイプベッドを中心とした魔法陣が描かれていた。
これ、本物だよ。
中ニのころ、遊びでよく描いていたよなあ。
「では、安らかにお眠りください」
なんだか永遠の眠りにつくみたいでいやだ。
それに部屋中にエレナから発するフローラルブーケのような香りが漂っていて、興奮してすぐには眠れそうもない。
僕が寝付けないでいると、
「添い寝しましょうか?」
えっ? マジ?
マジだった。
安眠効果があるというこうもりの形をしたムラサキ色の物体の添い寝のおかげで、僕は深い眠りに落ちていった。
第7話 おわり
次は 第8話 サキュバス【ヒロイン視点】
悟のお母さんの正体が明かされます……
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