Q&A2(1)
「オォエエエェェェ――――ゲホッゲホッ――――オエェェ!」
男性用便所からこの世の物とは思えない嗚咽が聞こえていた。
意識が無くなりそうになるまで吐いた雷蔵は生気の無い顔で便所から出ようとした時、廊下を歩く足音が聞こえて来た。足音の大きさからして大人が二人、一人は規則正しく靴底を鳴らし、もう一人はやたら廊下中に足音を響かせる荒々しい歩き方だ。
雷蔵は咄嗟に壁際に背を寄せ身を隠した。
雷蔵は見知らぬ人間が近くに居る時、身を隠して様子を見る習性がある。これはS機関の訓練で相手が危険な人物かどうか見極める為の一つの技法であった。
「まったくよぉ……この前、殺しがあったばかりだろ?」
「えぇ、似てますよ。同じ映画会社絡みで要人の殺害……警部、やっぱり帝都の怪人がやったんじゃ……」
「お前はアホか」
事件の通報で現場に到着した刑事のようだ。
聞いたことのある声だ。警部?
「だから少佐殺しの時に撮影を中止すれば良かったんだ」
「そうはいかないですよ。何せ帝国海軍のプロパガンダで作ってる映画ですからねぇ、映画会社が中止しても海軍が認めないでしょ?」
「帝国海軍は無敵、帝国軍人は天皇の兵士――――傲慢極まりないな」
部下らしき男は慌てて警部と呼ぶ男を制止した。
「警部! マズいですよ。誰かに聞かれでもしたら」
「何にしても海の向こうでは戦争やって日本兵もアメ公も殺し合ってんだ。今更、国内で人が殺されたからっていちいち構ってられるか……手っ取り早く終わらせて酒飲み行くぞ」
「手っ取り早く終わりますかねぇ……」
何だ? あのやる気のなさは……あんな連中に事件解決を任せなきゃならないのか?
刑事と思しき人物をやり過ごした雷蔵は便所の外で待つ嵐と彩芽に合流した。




