プロファイリング(1)
ホテルの一階。
レストランはまるで不思議の国だ。
中央に大きなシャンデリアが有りその周りを小さなシャンデリアが囲み各テーブルを照らす。
床はロビー同様、モノトーンの巨大なチェス盤を思わせる。室内に置かれた木製の椅子やテーブル達は馬や砦、騎士や王冠に模して造られているのでやはりチェスの駒をイメージしているのだろう。天井や壁の柱は植物の蔓や花に支えられた天使や女神の彫刻が飾られ眺めていると壮大な神話を物語っているように感じる。
ルネッサンス期(一四世紀)、バロック期(一六世紀)の芸術品を眺めているようだ。
何とも贅沢な造り――――。
「今日から働く神風君に時雨君だ」
午後五時。
厨房に並んだ数名の従業員の前に立たされた雷蔵と嵐は支配人に紹介され軽く挨拶をした。
ホテル関係者、客人の情報は中野学校から聞いている。
このホテルの支配人、小川・万作、五〇歳。
支配人だけあって清潔感のある身だしなみだ。
白髪を後ろへ流し、汚れの無い白のワイシャツに黒のベストとスラックス。
同じく黒の蝶ネクタイは傾くこと無く真っ直ぐ止まっている。
しかしホテルマンにしては随分ガタイが良い、軍人のように見える。もしスパイだった直ぐに見破られるだろう。
「彼が丹沢君で彼が韓君だ」支配人は手を差し伸べながら二人の青年を紹介した。
料理人の丹沢・直之、二〇歳。
短い髪は剣山のように上にとがらせている。
全身、白の調理服は所々薄汚れている。
若い従業員の中では長く勤めているよで丹沢は一瞬、雷蔵と嵐に目をやるとぶっきらぼうに厨房へ歩いていった。
執事の韓・修鐘、二三歳。
朝鮮半島から来た青年で二か月くらい前に仲間と働いていていたが仲間はすぐに辞めてしまったようで今は彼一人で働いている。
今や朝鮮半島は日本の占領区、景気も悪く向こうでは働いてもあまり稼げないのだろう、戦争により景気の良い日本に出稼ぎに来ているようだ。
しかし、この男。
女かと思うくらい美青年の上にハスキーな声の持ち主だ。
雷蔵は韓の女性のような美しい顔立ちに思わず見とれてしまい首を振って韓の魅惑を払った。
従業員はこれだけか? 随分少ないな……。
支配人が溜息を付きながらは話す。
「後一人、使用人がいるんだが――――また遅刻か、全く」




