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ウェン・マイ・デビル・ライズ(2)

 彩芽は椎名の推理に納得しつつも有る疑問を拭えなかった。


 暗い会場で自分の前に現れた黒い影、あれは一体何だったのか? それに暗闇で見えた小さな星々、人影は星の光りを遮るように現れた。

 つまり犯人は舞台側から少佐に近付いて絞殺したのでは無く舞台と反対のテーブル側、彩芽の方向から絞殺したのではないか?


 彼女の疑問は解消される事無く思考は矛盾の中に囚われ、その先に有る真実を阻む。


 そして、ついに黒いマントのしゅ仁孝じんこうは重く閉ざした口を開いた。


「自分は……」


 その時、鈍い音が二回聞こえ後に焼け焦げた匂いがわずかにした。


 目の前の少年が膝から崩れ落ちるように倒れていった。


 彩芽は突然の事で混乱し、腰を抜かして尻餅を突いた。


 椎名はゆっくりと少年の近くまで歩みより倒れている手前で立ち止まった。


 少年がかけていた眼鏡が足元に落ちている――――――――。


 彼は眼鏡を思いっきり踏みつけて粉々に破壊すると少年をつま先で小突いた。




「――――ちゃんと死んだのかぁ?」


椎名は最初倒れている少年を足で軽く蹴っていたが次第にその足が強蹴り始めた。


彩芽はその光景を見て混乱が恐怖に変わった。


椎名はしゃがんで狩・仁孝の七三に分けられた髪をくしゃくしゃにして掴み様子を見ると彼の顔を床に叩きつけた。そして恐怖で立ち上がれない彩芽に銃を向ける。


「しかし、どいつもこいつもガキってのはちょろいもんだな。小娘なんざ、話しを聞くだけでホイホイついてくる――――いい事を教えよう。あの『通行禁止』の札を仕掛けたのは俺だよ。目撃者である、お前に張り付き人目を盗んで消すつもりだったが、何故かウェイターのガキに邪魔されてな」


「田中少佐を殺害したのは、この俺だ……」


 椎名の狐のように愛らしかった目が刃物のように鋭く変化し爽やかだった笑顔は狂気に満ちていた。


「先に殺人の証拠を持ってるイタリア人のカメラマンを殺して、お前をゆっくり片づけることにしたんだ。あのドイツから来た料理人も殺すつもりだったがぁ、どういう訳か見つからなくてな……だが、これで邪魔する奴はいない――――」


 少女は死を悟った。だが次の瞬間、何かが彩芽の目の前をかすめた―――それは彗星の如く輝きを放ち消え

て行った。


 その後、椎名が叫び声を上げて悶え苦しんでいる。

 彼の腕が不自然な形に曲がっている。

 椎名が床に銃を落とした衝撃で銃口に付けられた鉄の筒が外れた。


 何が起きたのか解らない……。


 彩芽の直ぐ側に大きな影が有る。

 いつ自分の側に来たのか解らない、でもそれは間違いなく人影だった。

 暗い室内に月明かりが射しこみ人影を照らす。


 そこには東洋人らしい神秘的な黒髪が浮かび上がり、黒い瞳は不思議と闇の中でも輝きを失わない真っ直ぐな眼差しをしている。


 しかしその顔は全体が力んで引き締まっており、鬼のような形相をしている。とてもさっきまでの穏やかな表情を見せていた中国少年とは思えないほどの変わり用だ。


 狩・仁孝が椎名の銃を持つ腕を刃とは逆のみねひじ目掛けて振り下ろしたのだ。


 振り下ろされた刀の刃はわずかな光でも輝きを放つくらい綺麗で、彩芽の顔がくっきりと映るほど鏡のように磨かれている。


「……田中少佐は舞台側を見ていた…………」


 狩・仁孝は呟くように語ると刀を漆黒のマントに納め椎名を見下ろした。

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