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第6話 歓迎会

ケンセイが自分の部屋に入ると彼がいた。

そう、ゴンタである。

ゴンタはすでに修道服を脱いで普段着に着替えている途中だった。

この豪華な男子寮にふさわしくない、スラム街で暮らす人が着るような服にである。


「この服、動きにくいよな。制服はもう少しマシそうだけどな」


ゴンタは不満げにケンセイに向かってぼやいた。

ケンセイは、ゴンタの相手をしなくてはならないことにため息をついた。


二人がいる部屋の構造は、ケンセイのベッドが窓際にあり、ゴンタのベッドがテーブルとソファを挟んでケンセイのベッドの反対側に置いてある。

二人の机も部屋の奥にあり、トイレ、クローゼット、テレビも壁に備え付けられてあった。

だが、テレビはチャンネルを変えることができず、ニュースしか流れていない。

ゴンタもケンセイも実物のテレビを見るのは初めてで、今日の昼はその映像を見て感動に溢れていた。

他の部屋の人たちも同様であった。


「なあ、お前はどこの学校から来たんだ?」


ゴンタは修道服をきれいに折りたたみながら言った。


「聖メイニス校」


ケンセイも修道着から普段着に着替えながらそっけなく答えた。


「それってシス=アマテラス地区じゃないか!お前都会っ子なんだな」


「スラム街の都会っ子」


ケンセイは皮肉を込めて言い放った。


「俺なんてヤンバー地区のドン校さ。あの猿山の中にある屋根と柱しかない学校。聞いたことあるだろ?」


「さあな」


ケンセイはそんな学校は聞いたことがなかった。

ケンセイはすでに普段着に着替えていた。


「やべっ、夕食の時間だ!急ぐぞ、ケンセイ!」


ゴンタは時計が6時40分を指しているのを見るなり慌てだした。

今日は食堂で7時から夕食を兼ねた新入生の歓迎会がある。

政府の役人も出席するので遅刻をするのは無礼にあたる。

二人は急いで部屋を出て行った。



食堂には丸テーブルがいくつもあった。

ゴンタは二人分空いている席を見つけ、ケンセイを引っ張ってその席まで連れて行った。

1つのテーブルは10人ほど座れる大きさで、真っ白なテーブルクロスがかけられている。

これが会場に200個ほどある。

テーブルの上にはたくさんのチキン、細長いパンやサラダの山、パスタのタワーなど二人が見たこともないご馳走が一面に広がっていた。


「やっべーー」


そう言ってゴンタは嬉しそうに、イスから今にも飛び出しそうになってご馳走を眺めている。

ケンセイも興奮気味になった。


「やあ、君はどこから来たのかい?」


ケンセイが隣を見てみるとスキンヘッドの黒人がいた。

見たところ上級生だ。


「聖メリアス校です」


ケンセイはこの学校に来て上級生と話すのは初めてだった。


「メリアスか、アマテラスの近くだね。俺はサーンド。サーンド・フィッツジェラルド、3年生だ。よろしくな!」


サーンドはケンセイの手を取って握手をしてきた。

ケンセイはその手を握り返して自分も自己紹介をした。

そしてサーンドは隣に座っている白色の髪色でグリーンの目をした大人びた女性のほうを向いて言った。


「フィオナ、この子はお前と同じメリアス校出身だぞ」


「ふふっ、懐かしいわぁ」


女性は髪をなびかせてケンセイのほうを向いて言った。

その声の調子からこの人は小悪魔的な感じの人だな、ケンセイはそう思った。


「フィオナはお前の母校の次席なんだ、すごいだろ!」


サーンドはフィオナの肩に手をまわしてケンセイに言った。


「もうっ、やだっ、サーンドったら。ここにいる人たちはみーんな、そんなに変わらないわぁ」


「お前は俺の中で一番だよ」


そうささやいてサーンドはフィオナに顔を近づけて吐息を掛け合いながら、二人は人目もはばからずに熱くキスをした。

ケンセイは二人のバカップルぶりにオエッという顔をしてゴンタのほうを見た。

ゴンタはご馳走を見たまま固まっている。

こいつらは本当に成績上位者だったのだろうかとケンセイは思ってしまった。


「注目!!」


どこからか低い大きな男性の声がした。

するとみんなはおしゃべりをやめて前を見た。

サーンドとフィオナもイチャイチャをやめ、ゴンタもご馳走の金縛りから解放されたようだった。


先ほど大声を発した男性はみんなが静かになると、うんうんと頷いて満足げに前にある高い教壇を降りて行った。

そして、その上には正面の壁をくり抜いたような部屋があった。その部屋から校長が出てきて、食堂にいる人々を端から端まで見下ろした。

校長は入学式の時に来ていた祭服ではなく、真っ赤なローブ姿であった。

その首にはあの三本の鉤爪のエンブレムがついたネックレスをぶら下げている。


「あのエンブレムは何?」


ケンセイは冷静になっているサーンドに聞いた。


「あれは神がこの学校に残したとされる道具さ。契約の儀式であれを使って自分の体を引っかくんだ。ああ見えて結構痛いらしい。詳しくは契約学で習う。2年生からな」


ケンセイは契約の時に何をするのかをまだしっかりと教えてもらっていない。

契約当日まで秘密にされている事柄も数多くあるとは聞いていた。

予想はしていたがやっぱり自傷行為があるのには少しがっかりした。


「学生諸君、またあえて嬉しく思います。今年もこのゲルディア各地から、選ばれし者たちの仲間入りを果たそうとする子らがこの学校にやってきました。この学校ではあなた方を寛大に扱います。授業では最高に厳しくしますがね。」


ゴンタは、マジかよという顔をした。

校長は続けた。


「あなたたちがこの学校で目指すのは契約を交わし、それによって得た能力を使いこなすことです。そして軍人として国民のために命をとして使命を果たすことが義務付けられます。その使命とは、その時が来ればわかるでしょう。」


校長は少しだけ深刻そうな顔をした。

ケンセイはそれを見逃さなかったが、なぜそのような顔をしたのかはわからなかった。


「この場は明日から始まる過酷な勉学の毎日のために精をつける日です。あなたたちの健康は学校の健康、たくさん食べ、ゆっくりおやすみなさい」


そう言って校長は奥のほうへ戻っていった。


次に教壇に軍服を着た人が上った。

年齢は20代半ばか後半くらいの男性だ。


「入学生諸君、入学おめでとう。私は体術学の講師であり、契約後の能力使いの指導を行う教官でもある。君らに注意事項を言っておく。まず、明日からの生活だが、平日は毎朝5時10分に1年生は広場へ集まること。あの寮で囲まれたところだ。トレーニングを行う。特別な理由なく遅れたり欠席した場合は、ルームメイトにも連帯責任として罰を与える。」


ゴンタはケンセイをキッと見た。

寝坊するなよ、と目で言っているようだった。


「そして入ってはいけない部屋もある。礼拝堂の入り口にある掲示板で、その知らせを見てくれ。そこにはクラス分けの結果も載せてある。授業はクラスごとに行うからな。ルームメイトは間違いなく同じクラスになっている。では、諸君、会を楽しんでくれ」


そう言うなり学生たちは、わあっとご馳走を食べ始めた。

ゴンタは待っていましたとでも言わんばかりにパスタを胃の中にかきこみ始めた。

ケンセイはモンローやタラス、セホは近くにいないか探してみたが、この大人数の中では見つけるのは不可能だと思い、ゴンタと同じようにバクバクとご飯を食べ始めた。

同じテーブルの人と自分たちの地元について話したり、上級生から学校生活のアドバイスを聞きながらご馳走を食べて、みんなが満足になったところで会は終わった。


そしてゴンタと二人で寮まで戻っていった。


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