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第5話 九十九学院への入学

―――その日のケンセイは礼拝堂のような場所に立っていた。

礼拝堂の中には400人ほどの学生たちがびっしりと並んでいた。

彼ら、彼女らは男女関係なく白く清潔な修道服を身にまとっており、フードをかぶっていた。

その肩には金色の、三本の鉤爪のエンブレムを付けている。

そのエンブレムと同じ印のものが、礼拝堂の正面にあるステンドグラスの上に大きくかかっていた。

学生たちの向かい側には祭服を来た、この礼拝堂の中で最も権威があるだろうと思われる、年のいった女性が立っている。

その祭服を着た女性の前には真鍮でできた篩があり、その中は赤い液体で満たされていた。

女性の周りにも若い人で20代半ばから老人と思われる人まで、様々な年齢の人が神父の服装をしていたり、軍服を着ていたり、ローブを身に着けている・


「ケンセイ・アマミ」


ケンセイは名前を呼ばれるなり、学生の間をすり抜けて祭服をきた女性の前にきた。

女性の前にあるテーブルには赤い液体で満たされた篩とナイフが置いてある。

ナイフの刃の部分にはラビル語で[ケンセイ・アマミ]と刻まれている。

ケンセイはナイフを右手に取り、篩の上に左手を出して手のひらに刃を触れさせ、少しためらいながらもさっと刃を走らせた。

ケンセイの手のひらから赤い線がじわっと浮かび上がり、赤いしずくができて篩の上にポトンと落ちていった。


これは九十九学院の入学式である。

そしてケンセイが行ったのは入学の通過儀礼である。

ケンセイの後にも何人かの生徒が同様のことを行った。

学生全員の儀礼が終わると校長、つまり先ほどの祭服を着た女性はきりっとして言った。


「みなさん。ご入学おめでとうございます。あなたたちのような優秀な方々とお目にかかれることを大変誉れに思います。この九十九学院はご存知の通り、神との契約を行うために様々な学びを与える場です。ですが忘れてはいけませんよ。確かにあなた方は4年次に契約を受けることができますが、その後に卒業試験というものが待ち構えています。これを乗り越えることなくしては選ばれしものとしての価値は与えられません。これからも勉学により一層励みなさい。」


校長は年齢の割には力強い声で言い放った。

きっとこの人に反抗しようものなら恐ろしい目にあうだろうな、ケンセイはそんなことを思っていた。


校長の言葉が終わるとぞろぞろと学生たちは礼拝堂から出て行った。

この礼拝堂は九十九学院の施設の一部である。

九十九学院は巨大な城といっても過言ではなく、とにかく大きい。

寮や先ほどの礼拝堂、大量の教室、学生全員が入ることのできるこれまた礼拝堂のような広すぎる食堂、小さな町一個分はありそうな自然豊かな校庭、その他にも数多くの施設を持っている。

この学校が首都のアマテラスのほぼど真ん中に位置するからさらに驚きだ。



ケンセイは礼拝堂を出て、バルコニーのような長くて広いレンガ造りの廊下を寮へ向かって友人と歩いていた。

その友人とは同じ学校出身のモンロー、タラス、セホである。

ほかの三人もめでたくこの学校に入学できた。

タラスにいたっては、前に在学していた学校を主席で卒業している。

一見、不真面目そうに見えてなかなかすごいやつである。


「あんな男だらけのむさくるしい建物で4年間も過ごすなんて、俺、耐えられないぜ」


タラスは、みんながやはりこいつは言い出すだろうと予期していた男子寮のことを口に出した。


「なあ、モンロー。今日俺の部屋に遊びに来ない?」


タラスはモンローに向かってウインクをして言った。


「結構よ!あんたはここで他の子に告白でもして記録更新でもしてなさいよ!」


モンローは激しく言い放った。

もちろん怒っているように見えて、本心は怒っていない。

セホがブフッと吹いた。ケンセイも思わず笑ってしまった。


「しかしよかったね。みんな入学できて。モンローなんか歴史学の試験の後は死んだようになってたのに」


セホは仲間と入学できたことに喜びを隠しきれないようで、話を変えて突然言い出した。


「そうだな。まあ、俺たちの中では一番成績が悪かったけどな」


ケンセイはモンローをからかって言った。

負けず嫌いのモンローは悔しそうにピーピーとわめいていた。

ケンセイはモンローの相手をしながらふと、推薦状のことを思い出した。

なぜ、自分に九十九学院の推薦状が来たのかは謎のままだ。

このことはモンローたちにも話していない。

このまま上を目指していればその謎を知ることができるのだろうか。

そして、あの男性にもう一度会えるのだろうか、そんなことを思っていた。


「じゃあ、わたしは失礼するわ」


廊下を抜けて広場まで出て来るとモンローはプイっと言って去ってしまった。

まだ、からかったことを根に持っているらしい。

だが、こういう場合、一晩立てば彼女はケロッとしてケンセイたちのところに寄ってくるのが常である。


「あいつ、顔はかわいいのにな」


タラスはそんなことをぼやいていた。

残った三人はモンローの入っていった建物とは反対方向の建物、男子寮へ入っていった。

三人が入った男子寮は木造づくりである。

寮の役目を果たす建物は男子寮、女子寮、教師用の寮、来客者用の寮、教官用の寮の5つある。

この五つの建物は円状に広場を囲んでそびえたっている。

男子寮は部屋数900ほどあり、10階立てである。

大きな浴場、400メートル走ができそうなほど広い集会場も備え付けてある。

今までの貧しい暮らしから一転、貴族のような暮らしへと変わった気がした。

男子寮は二人一部屋である。


ケンセイは男子寮に入ったところにある集会場でタラスとセホと別れて自分の部屋へと向かった。

ケンセイのルームメイトは坊主頭で口の悪いやつだった。

今日の昼、入学式の前に顔を合わせたがこんなやつと4年間一緒だとは最悪だな、というのが第一印象だった。
















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