第1話 契約日の朝
この世界観を楽しんでいただけると嬉しいです。
世界観を説明するために、第2話から過去に一旦もどります。
感想やアドバイスを頂けると嬉しいです。
「きしょーーう!!」
ケンセイは教官の放送でハッと目を開けた。
何か夢を見ていたような気がする――
なんだっけ?
思い出そうとして、記憶をたどるほど、実際に見たものが遠ざかるような気がした。
時計の短い針は5を指している。
「なにをぼけっとしてるんだ、このノロマ!」
朝早くにイラッとする暴言を吐いてきたこの声の主はゴンタだ。
頭は丸刈りで背丈は低い。
背の順に並ばされたらきっと一番前あたりに来るだろう。
ゴンタは入学してから現在に至るまで、同じ寮の部屋でケンセイと過ごしてきた。
ケンセイもゴンタもこの学校の4年生である。
「はいはい、着替えますよ」
ゴンタに少しの反抗心を表して返事をした。
ゴンタはそれが気に食わないようで口を開いた。
「お前、朝礼に遅れたら俺も罰をくらうんだぞ!」
ゴンタはすでに制服に着替えて、ケンセイを急かすのに力を入れている。
ケンセイは隣でゴンタがピーピー言っているのを無視してさっさと制服に着替え、シーツを伸ばしてしわをなくし、毛布と掛布団をさっさとたたんだ。
「ほら、早くしろよ!」
ゴンタはドアを半開け状態にして叫んだ。今にも広場へ向かいたい様子だ。
「わかった、行くよ」
ケンセイとゴンタは広場へ向かって部屋を出て行った。
ゴンタはケンセイの前を、ブツブツと不満を言いながら急ぎ足で歩いた。
広場にはすでにほとんどの同学年の学生が集まっていた。
ケンセイとゴンタは自分の組の列を探して急いで最後尾に加わった。
同じ組の委員長がしかめっ面をしながらそれを確認して教官に報告に向かった。
学生達は広場の中心を向いて円状に並んでおり、中心の台の上に教官がいる。
教官はまだ若く、年齢は20代後半である。
ケンセイとゴンタのクラス担任で学年主任も務めている。
「みんなそろったな」
教官があたりを見回して言った。
学生たちは直立不動の姿勢で教官の目をじっと見続けている。
そして教官はゆっくりと口を開き、通る声で続けて言った。
「おはよう、諸君。諸君らがこの九十九学院に入学して三年が経ち、とうとう4年生になった。君たちを1年生の頃から見ている私にとってみれば、その頃と何ら変わりない。だが、数々の経験をし、乗り越えてきたことできっと成長していることであろう」
教官は懐かしそうに学生たちを見回した。
そしてケンセイとゴンタがいるところで視線を止めて言った。
「そして卒業試験も今年は控えている。そこで諸君らも待ち望んだ、主の契約が今日の夜に行われる。国民の中でも最高峰の優秀さを誇る君たちに、契約が結ばれることは我々も嬉しい。しかし、いいか? 半端な気持ちは許されない。皆、もう一度覚悟を改めよ。諸君らの多くが主になれることを祈る。たとえ、主になれなくともそれを超えることはもちろん可能だがな。」
学生たちは目を輝かせながら力いっぱい返事をした。
そのあとは教官の事務連絡が続き、毎日のように広場で筋トレとランニングを2時間ほどして食堂へ向かった。
「俺、主になれるかな」
ゴンタが抑えられない興奮をもらしながらつぶやいた。
「お前、血が苦手じゃなかった?」
ゴンタは一瞬ドキッとして、口に運ぶ途中のスプーンが止まった。
が、スプーンを皿の上に下ろしてすぐに強気になった。
「あんなもの、赤い牛乳と思って飲めばへっちゃらさ。」
「こんなふうにね」
ゴンタは手に持ったコップ一杯の牛乳を一気飲みして、満足げにゲップをした。
「しかし早いなー。俺、まだ強くなった実感はないんだけどな」
ケンセイはゴンタの話をほとんど聞いていないようで、スクランブルエッグをスプーンでかき寄せながら呟いた。
ケンセイはこの学校に出会った頃を思い出していた。