野イチゴの近道
街へ買い物に繰り出す時、野イチゴのたくさんなっている近道になる道を通る。
街までの道は僕たちの他にはミルクの配達や、たまにくる郵便屋くらいしか通らない。
野イチゴの道はそれよりもずっと獣道と呼ぶのにふさわしい、うさぎや、鹿なんかが通る道だ。
「ちかみち、ちかみち」
「野イチゴのちかみち」
君は自作のヘンテコなうたを歌っている。
手をつないで歩いていくこの穏やかな時間。
この時間が僕はとても好きだ。
野イチゴの道、森と街のちょうど真ん中、横切るように小川がある。
僕は手を離しひょい、と飛び越えてみせる。
手を伸ばしてやると君は、どうしようという顔からムスッとした顔に変わる。
「これくらい、平気」
おずおずと二歩下がって、勢いをつけてえいや!とこちらに飛んでくる。
右足で跳んで、ギリギリこちらに届くもバランスを崩す。
いつものように右から抱きとめてやる。
跳ぶ瞬間にぎゅっと目をつむってしまうから、いつもこうだ。
ハッハッ と短く乱れた呼吸、それが僕の腕の中でいつもの、安心した時の穏やかな呼吸に変わっていく。
冷たい汗が乾いて、耳と首筋に血の気が戻ってくる。
「ほらみろ」
抱きとめたまま、呆れたように僕は言う。
にやけてしまっているのを悟られてしまいそう。
また手をつないで歩き出す。
君はヘンテコな歌を歌って幸せそうだ。