名探偵藤崎誠からの警告
「このままなら、また日本は滅ぶな」
テレビを見ていた藤崎は呟いた。
しかし、その画面に悲壮感のある様子は一欠けらもなかった。
大勢の市民が街に出て、歓喜の声を上げていた。
人々は青い波となっていた。
「真田丸ブームもそうだ・・・」
藤崎は眉間にシワを寄せた。
「こいつらは戦争から何も学んでいない」
『レスターから学ぶべきです』
『金満チームを倒すのは痛快ですね』
『お金が無くても、知恵と工夫で下克上できます』
『来年のチャンピオンリーグは楽しみです』
テレビの中のコメンテイターの称賛が続く。
「来年やばいな、レスター。
降格争いするかもしれない。
解説者は分かっていても、言えない雰囲気か~
戦前の日本と同じだな」
英国サッカープレミアリーグを制したレスターのことだ。
藤崎も心底嬉しかったが、コメンテーターには同調できなかった。
「サンフレッチェ広島の二の舞・・・」
サンフレッチェ広島はJリーグを制した後、J2に降格した。
選手の引き抜きとアジアチャンピオンリーグ参加による過密日程によると推定される。
過密日程で選手は疲労し、ケガを誘発し、チーム戦術が壊れて行くのだ。
今年のレスターは国内カップ戦はあったが、当初各国代表に招集されたメンバーも少なく、
リーグ戦に集中できたのが、優勝の一つの原因と目される。
「レスターなんか手本になるわけない。
奇跡だから。
奇跡なんて再現できない。
もし再現出来たら、奇跡じゃない」
藤崎は苛立っていた。
「日本のテレビの清貧好きアピールには吐き気がする」
日本のテレビ、メディアは変な価値を押し付ける。
『お金をかけずに、知恵と工夫で何とかする』
これが大好きだ。
だから嫌われる代表はジャイアンツだ。
「金をかければ、出来て当たり前?
その当たり前が難しいのに。
そのくせ、セレブ特集の番組が多い。
テレビは国民をバカにしているのか」
「見習うべきはビッグクラブの方だ。
どうやってクラブの価値を高め、収入を得るか。
そもそもビッククラブとレスターでは目標が違いすぎる。
ビッククラブは負けが許されない。
だから可能な限り戦力を整える。
戦争と同じだ。
本当に日本人のセンチメンタルにも困ったものだ」
藤崎は日ごろ思っていた。
日本人のセンチメンタルリズムが国を滅ぼすと。
少数で多勢に勝つことが好き。
卑怯な勝ち方より潔い負けを好む。
日本人は金持や権力、とにかく強いモノをヒガムのだ。
「少数で多数に勝つことは異常なことなんだ。
それを良く知っていたのが信長、織田信長だ。
桶狭間で奇襲を行って以来、二度と行ってない。
普通の人間ならまた使いたくなるのに。
それからの戦は常に兵力で敵を圧倒した」
「日本企業も同じだ。
効率よく新製品を開発できるわけない。
できる限り投資して新たな分野を開拓するしかない。
戦後、日本の産業が発達したのは、
追い付け追い越せだったからだ。
アメリカという目標があったからここまで発達したんだ」
「サッカーと違って、国も会社も一回たりとも負けちゃあいけないんだ。
そのためには最大限の戦力を整える。
卑怯と言われても核兵器を持つべきかもしれない。
それを否定するなら、アメリカと同盟を結ぶしかない」
藤崎はテレビを消した。
「目を覚まさせるには、もう一度滅びた方がいいかもしれない。
でも滅んでから、日本の立ち上がりは世界一速い」