思い出
火薬をさっと一掬い。地面に山を盛る。
荷駄にひっついていたカエルをとって、小山のてっぺんに据える。ミドリのカエル。グケー。
先輩は胸からマッチ箱を取り出す。
「カエルは逃げ去ると思うか」
そう言って、すっ、と火をつける。
カエルは頬を膨らませている。グケー。
先輩の問いに男は応える。
「さあ、どうでしょうか」
「はやく決めろよ。でないと結果が分かってしまうぜ」
先輩の指に向かって、マッチの火がゆっくりと降りてくる。
咄嗟の判断ができなけりゃ、部下が死んでしまうよ。それでは人の上に立つ者にはなれない。先輩はいつも思いつく限りの冗談で男の優柔不断をからかってくる。
おれは心配しているんだよ。お前が一生うだつの上がらない下士官で戦争を終えてしまうのではないか、とな。
黒い塊。
鳥の群れ。
はぐれた一羽が先輩の頭上を低くかすめていった。
マッチの火は放たれなかった。突然、火薬の入っていた樽が爆発し、男は地面にたたきつけられた。頭を振って、周囲を見渡す。木造の宿舎が燃えている。誰かが言語になりきれぬなにかを叫んでいる。ようやく状況を理解した。敵襲だ。すでに脚は集合場所の広場に向かって走り出していた。そう訓練されていたからだ。
木片が突き刺さった太もも同様、先輩のことを考える暇はなかった。何についても飄々とこなし、心配をする必要のない人であったから、先に行ってしまったことは後で謝ればよい、まあ、そう思ってしまったのだ。すでに身体が動き始めていた。もはや引き返すことはできなかった。
むしろ、彼が考えていたのは、
「どちらに賭けるべきだったのだろうか?」




