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閑話

 男はもう歳だ。


 男が兵士となったとき、年のころはまだ十五。

 同級生とともに、同じ制服を着て、同じ靴を履いて、学校を出た足で出征志願を届けに行った。

 目に残る故郷の姿は、麦が実り始めた春のまま。

 

 あの頃、敵はまだ強かった。戦況は常に一進一退。塹壕は掘られ、水が溜まり、踏みつぶされ、埋められ、また掘り返された。二年もたたないうちに、同級生たちは皆死んでしまった。男は生き残った。上官たちの中でさえ、あの泥沼を知る者は少なくなった。


 戦い続けるうち、先輩や多くの同胞を屍の山と積み、ようやく死守した湿地帯ははるか後方となった。敵の都は占領され、新しい名前を与えられて、先日石灰石を積んで作られた荘厳な行政府が落成したばかり。何もかも、現実味のない、遠い遠い話に思える。


 男は古い。

 技術がなく、若さもない。

 戦争が終われば、世で身を処すのに苦労するだろう。


 自分の積み上げてきたものにそれほど意味があるように思えなかったから、男は哀れみに潜む軽蔑を甘んじて受け入れていた。いずれにせよ、終戦は近い。敵は打ち滅ばされる。勝利ののち、統治に関わって発生するだろう様々な煩わしい出来事は、自分にはわからないし、若い者のほうがうまく処理できる。そのときは、男は完全に時代遅れで用済みのブツになる。


 それがどうした。

 そうとしか、生きられなかっただけではないか。


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