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1935年・ドイツの現状

-1935年3月15日、ベルリン


 フェードア・フォン・ボック陸軍中将は明日のドイツ軍再軍備宣言を迎えるにあたり、事務のためにヴェルナー・フォン・フリッチュ陸軍中将の下に向かっていた。フリッチュは陸軍司令官であり、再軍備宣言後は陸軍総司令官に任じられる予定であり、つまりのところ彼が軍のトップである。


 ボックもフリッチュも、父親がプロイセン軍士官であった。先の大戦では参謀将校として従軍しており、敗戦後のヴェルサイユ条約により軍備制限された後も軍に残ってその類まれなる才能を生かしていた。条約により軍隊は10万人以下と制限されただけでなく将校も4000人までと制限された。


そこで軍は優秀な人物のみを選抜して軍に残したのだが、選ばれた者の中には彼らの名前もあった。


 そして現在ボックは第2軍管区長と第2師団長を兼任する重職に就いており、その能力の高さを示してきた。フリッチュにしてもボックにしても、今回の再軍備宣言は歓迎しているが、あくまでもそれは軍の再建を求めている立場からのものであり、現在のナチスとその総統アドルフ・ヒトラーに対しては中立的な立場を崩していない。

フリッチュに至ってはヴァイマル共和政最後の大統領、故パウル・フォン・ヒンデンブルクが死の直前に任命したのだが、これはナチスを牽制するために彼を任じたという経緯があった。


「ドイツ国防軍か…」


 ボックが明日から名前が変わる軍の名前を呟きながら、今の軍の現状を思い出していた。


 ヴァイマル共和国軍は、先に述べたように人数も制限されており、しかもそれでは治安維持にも不安をもたらしてしまう体たらくの状態であった。実際、それを見越して1920年代には左翼右翼ともに革命を起こそうとしては失敗を繰り返していた。ではこの全てが共和国軍に鎮圧されたかというとそういう訳ではなかった。

 

 ―黒い国防軍。

 そう言われていたのは、義勇兵によって構成された非合法の軍事組織であった。連合軍の監視を掻い潜って存在したこの軍隊は、いわゆる予備兵力として利用された。ボックも共和国軍に所属しながら、ベルリンの非合法戦力の指揮を執っていた時期もあった。

 この軍事組織が、ドイツ各地で起こった革命に対して動員されたのである。

 彼らの行動範囲は国内の治安だけではなかった。例えば1923年に起きたフランスのルール地方占領の際には、激しい抗議とともにフランス軍と衝突する騒ぎも起きたが、この非合法の組織もその一員に加わっている。

 その結果、彼らの勢力は無視できぬ存在へとなっていた。


 ところでルール地方占領は、フランスの暴走であった。これに対しては、同じ連合国であったイギリスが反発したことで結局撤兵となったが、それが一因となりドイツの国全体がハイパーインフレーションに陥った。マルクの価値は1万分の1以上に落ち、1兆マルクコインや100兆マルク紙幣という天文学的な数字の貨幣が出るなど、国の経済は混乱した。一時は持ち直したものの、続けて起きた世界恐慌によりついに崩壊に至ったのである。


 これにより国内には保守勢力と共産主義勢力が台頭し激しく対立するのだが、政権を取ったのはヒトラー率いるナチスであった。彼らは反共産主義を唱えていたこともあり、軍としても受け入れるほかになかったのである。

 ヒトラーは他の党の活動を禁止し独裁制を敷くことになったのだが、軍とは事を構えずに融和政策を用いた。例えば、ナチスの軍隊とも言えた突撃隊(SA)を粛清したのもその一つであった。過激派であった彼らは、約50万人もの人間が在籍しており無視できぬ存在であった。ナチスの政権が成立すると軍を管轄する国防省に組み込まれたが、やがて指揮系統に関して軍と対立していた。


 突撃隊は軍だけでなく、ヒトラーとも対立をし始めていた。ヒトラーが政権を持った後、彼らの存在は邪魔なものでしかなかったのである。


 そのため、劇的な方法でこの突撃隊は昨年粛清された。「長いナイフの夜」とも呼ばれたこの作戦により、突撃隊を率いていたエルンスト・レームを始め、反ヒトラー派のナチス幹部、ナチスに反対していた者たちまで粛清された。


 これにより軍の中でヒトラーを信奉する者が増えた。病の床にあったヒンデンブルクも、これにより軍が安泰となると信じてやまなかった。


 しかし、ボックはそう思っていない。フリッチュも然りである。


 それは突撃隊に代わる新たな存在としてハインリヒ・ヒムラー率いる親衛隊の存在であった。彼らは、突撃隊と異なり入隊には厳格な審査を必要とした。そのため、爆発的に増加することは無かったが、それでも着実に政権の中枢へと入り込んでいる。ゲシュタポを始めとする秘密警察を独自に持ち、また情報部も国防軍とは別に有している。


 ボックはその情報部を率いていたラインハルト・ハイドリヒとパーティーで会った事を思い出していた。軍の情報部のヴィルヘルム・カナリスとは仲良さそうにしていたが、あの冷徹な眼が変わることはなかった。皮肉の2つや3つぐらい言ってやろうかと思っていたが、あの不気味な存在にそれは憚れた。カナリスも警戒を緩めることはしていなかったはずだ。


 その親衛隊が軍を持つことを内密に求めてきたのである。フリッチュは拒否しようとしたが、周りが許さなかった。国防相のヴェルナー・フォン・ブロンベルクが圧力をかけてきたのである。

 彼はヒンデンブルクによって任命されていたが、その目的はヒトラーを操ることであった。しかし、すでに彼はヒトラーに操られていた。ナチスが掲げる国家社会主義などに信奉しているのではない、ヒトラー個人を信奉しているのである。ボックにとってもフリッチュにとっても厄介な存在であった。

 

 ブロンベルクによって、親衛隊は軍を持つことが許されている。どうやら武装親衛隊などと名乗るつもりらしい。今のところ編成は、軍の反対に対してのヒトラーの融和政策により見送られる予定だが、実際にはどうなるやら。だからこそ、再軍備宣言を使って強い国防軍を作るのが求められているのである。


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