準備 4
「ところで、俺の下に来て何年になった?」
「もう3年ですね、あっという間ですよ」
司令官の行動はよく副官のクルト中佐を悩ませた。時にぼやいたり、呆れたり、あるいは面と向かって毒舌を吐いていたが、充実した日々を過ごしていたのは事実である。彼ほど、部下を大切にする司令官はいなかった。だからこそ、ボック中将のことを尊敬していたのである。
出来ることなら、ずっと彼についていきたいと思っていた。しかし軍籍に置く身分である以上、軍の命令に逆らうわけにはいかない。いつかは離れなければならないことは覚悟していたが、もう少し長くいられたらと思っていた。
だが情勢は大きく変わってしまい、その願いは叶わぬものとなってしまった。昇進は嬉しいが、やはり寂しさを感じてしまう。
ボックはそんな彼の思いに気付いたのか、こう声をかけた。
「次は将官だな、となれば俺と同じになるわけだ。そのうち大元帥になったお前に命令されるかもしれんな」
「冗談はよしてくださいよ。それに大佐になったからといってもスムーズに昇進できるとは決まってませんよ」
「何を言う、スペインに派遣されるってことは特に何もなければ昇進は確実じゃないか。もしかしたら、向こうでは一時的な昇進もあり得るじゃないか」
海外の軍と共同体制を取る際、参加する将兵を一時的に一階級特進させることはよくある。これは相手の面子を立てるための緊急的な措置であることが多いが、どちらにしろ昇進したことに変わりはないのだ。
「まぁ、昇進出来なかったら、また俺の下で働けばいい。仕事はいくらでもあるだろう」
「また喧嘩するつもりですか!?」
ボック風の気遣いにクルトは呆れかえっていたが、その眼は真っ赤に充血していた。そんな彼に司令官を肩に手をかけ、さらに言葉を続ける。
「しみじみしてる時間もないだろう。引き継ぎもあるし、出動体制の準備も整えないといかん。簡単にはベルリンに行かせてやらないから覚悟しとくんだな」
こうして、感極まっていた副官の当分の残業が決定したのである。




