七夕でのお願い事
七月下旬にてやっと梅雨明け。
色々と嫌味を込めてこの小説を…
七月七日の七夕祭り。
「でも、今日は雨降りさんの空だねぇ……。」
私の思考を呼んだかのように呟いたのは、隣に立って空を見上げている私の友人である由衣夏。
「そうだね、雨だ……。」
かつんかつんと大粒の雨が窓に叩きつける音が一段と大きくなり、私は由衣夏と同じように、雨粒の隙間から、そっと空を見上げて見る。
鼠色の何処か重たく、どんよりした雲。朝であるのにもかかわらず、太陽の光を通さないほどの分厚い分厚い入道雲が、そこには存在していて、私はそっとため息をついた。
「この調子じゃあ、夜に晴れるってことは無いんじゃないかな?」
「えー……そんなぁ。」
由衣夏の冷静な分析に、私は分かっていながらも、ぶすっと未練たらたらにそう言ってみる。
「まぁ、天の川が見えるのは今日一日だけって話じゃ無いし、いいんじゃない?」
「昨日まで、七夕祭りの天の川楽しみだね!とか言ってたの誰よ……。」
呆れて何も言えない。由衣夏の言っていることはやっぱり的を射ているのだが、それでも見てみたいとは思わ無いのだろうか?
私は視線を外して、由衣夏の顔をまじまじと見る。
「……なに?」
「いや……ね?」
「いや、だからなに?」
鋭い突っ込みのようなものを食らって、私はあははと苦笑いをしながら、やっぱり諦めきれてないじゃん、と思った。
由衣夏の目が、いつもは見せない少し寂しそうな光を帯びていて、私はなんとも言えない気持ちになる。
「んー、じゃあ照る照る坊主でも外に引っ掛けておきますか。」
「照る照る坊主って、これまた運試しだねぇ……。」
「結構効くんだよ?これがまた。」
小学校の頃はよく、遠足前とか運動会前とかにお母さんと一緒に作ったなぁと感慨深くなりながらも、私は使い古したヘアゴムとポケットティッシュをかばんの中から取り出した。
「なんか、用意周到。」
「いやいや、そんなことないでしょ。見てよこのヘアゴム。普通は輪ゴムだからね?」
「それぐらい知ってるわ!」
「あだっ!」
私の手際よく照る照る坊主を作る光景を見ながら、由衣夏がそう呟くので、私は少しドヤ顔でそう言ってみると、チョップを頭に食らわされた。……なんで?
「酷いなぁ。暴力はんたーい。」
「そんな棒読みで言われたって、説得力の欠片もないよ?」
「欠片はあるでしょ。」
ある、ない、と由衣夏と言い合いながらも、私は照る照る坊主の首の辺りにヘアゴムを巻きつけて、私は照る照る坊主に顔を描いてやらず、その下の広がった部分に、黒ペンで「晴れますように」とでかでかと書いて、窓の鍵……ホックの部分に引っ掛けてやった。
「あれ?麻依、照る照る坊主に顔は?」
「描かないよ?今回の照る照る坊主は、七夕の短冊の代わりも兼ねてるから。」
「別に、それ関係なくない?」
「あぁ、はいはい。後で外にぶら下げるから、顔が物凄いことになってもいいのであれば、描こうじゃないか。」
「あ、それやだ。却下。」
私が照る照る坊主にもう一度手を掛けて、黒ペンを取り出しながらそう言えば、由衣夏は私の手から照る照る坊主をさっと抜き取り、そう言った。
「……早変わり。」
「うるさい。」
ぼそりと聞こえないように呟いたのはつもりだったが、聞こえていたみたいで、由衣夏に軽く睨みつけられた。
「怖い怖い。」
「だから、うるさいって。……ん。」
「……なに?急に手なんか出して。」
「ほら、黒ペン貸して?」
「まさか、照る照る坊主に顔を……?」
「描くわけないでしょ?んな怖い。」
私がなかなか黒ペンを渡そうとしないので、由衣夏は私の手から照る照る坊主の時と、同じようにして奪い取り、私の書いた願い事のの反対側に、何かを書き込んだ。
「なに書いたの?」
「……見せないよ?」
「照る照る坊主作ったの私なのに、見せないとは何事だ!」
恥ずかしいからと、私の願いは勝手に見たのにそれは理不尽だと、照る照る坊主を由衣夏の元から奪い返し、そっと裏返して見てみる。
「ふむふむ。良い願い事じゃん。」
「麻依に褒められても嬉しくない。」
「なにそれ酷い。」
そこに書かれていたのは「織姫様と彦星様が上手く出逢えますように」だった。
「きっと私の願いが叶ったんなら、由衣夏の願いも届くよ?だって同じ照る照る坊主に願い事を書いたんだから。」
「……うん、そうだね。」
雨の日の七夕は、きっと日本中の照る照る坊主が鳥たちの代わりに橋を作ってくれるんじゃないだろうか、なんて、おかしな妄想をしながら、私と由衣夏は一緒に笑い合った。
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