第8話
「卓、疲れているところ悪いが、その人の腕を治してやってくれ。」
迅は珠理を一瞥すると、全てを理解したのか、すかさず卓に指示を出した。
その言葉に反応した卓はすかさず、珠理のけがをした腕に手をかざす。
「悪いな。お前ら」
こういうときばかりは素直になるのか、珠理は二人に頭を下げている。
「さてと、状況をもう少し聞きたいところだけど。
そうも言ってられないみたいだな。」
迅はそう言いながら、正面を見据えた。
すると、そこには先ほど迅の一撃によって
遠くまで飛ばしたはずの女が立っていたのだ。
それも無傷の状態で。
彼女は迅の一撃を受ける直前、盾のようなゴーレムを目の前に創造し、
それに加えて後方にもゴーレムを作り出し、
両方向からの力をうまく流していたのだ。
「はぁ、私がこの世で一番嫌いなことって知ってるかしら??」
そして女は迅が自分のことを見ていることに
気付くや否やそんな質問を返してきた。
だが、その質問の意図するのは迅に答えさせるためではなかった。
質問を全部聞き終えた瞬間、無数のゴーレムが迅めがけて向かってきた。
「その答えはね~。狩りの邪魔をされるところよ!!」
ドンドンドーン
女は言葉を発している間も際限なく
ゴーレムを作り出し、迅に向けて射出している。
その戦い方は先ほど珠理と対峙していた時とは全く違うもので、
一瞬のうちに終わらせるという意図が見て取れる。
「な、なんだよ。これ・・・。さっきまでと全然違うじゃねぇか!!
おい!卓といったか、お前。早くアイツのもとに行ってやれよ。
じゃないとアイツ死んじまうぞ!!」
さすがにこのままでは迅の命が危ないと判断したのか、
天理は自分の治療を切り上げさせようとした。
しかし、卓は頑なに動こうとせずにただただ迅のいた場所を見つめている。
(チッ。なんて情けねぇんだ。後輩が危ない状況にいるっていうのに
俺は静観するだけで何もできねぇだなんて・・・)
麗香たちを助けようとした時の珠理は強い先輩だったのだが、
怪我の痛みのせいなのかついつい弱気に、自分の不甲斐なさを感じることに。
そんなことを考えている間にも、ゴーレムの山は迅へ飛んで行っていた。
しかし、そんな絶望的な状況を見ることしかできない
珠理はあることに気付いてしまう。
(あれ、なんであの女こんなにも大量に作り続けているんだ。
それになんだ。あの怒りに歪んだ顔は・・・。)
不思議だった。
俺と闘っていたときにしても、
麗香と加奈と一緒にいた時もそうだったことだが、
女はゴーレム1体か2体しか出現させていなかった。
それなのに、今のこの状況はどうだ。
果てしない数のゴーレムを生み出し続けている。どう考えてもおかしい。
とここまで考えていた珠理だったが、もう一つ大きなことに気付いてしまう。
(なんでゴーレムがアイツの周りだけ一定数しかいないんだ)
普通、あれだけのゴーレムが1人に向けて突撃していったとするならば、
その一人の周りには大量のゴーレムが存在することになるわけで、
そういう状況下であれば廊下が落ちてもおかしくはない。
むしろ落ちない方がおかしい。
それにゴーレムの数によって潰されることもありうる。
だが、そんなことが起こっているわけではなく、
アイツの周りにいるゴーレムは常に10体かそこらしかいない。
「どうして!!どうしてなのよ!!なんで殺せないのよ!!」
そして女はついに耐え切れなくなったのか、
そんな叫び声をあげるに至っていた。
それを聞いた珠理は確信した。
(どうやっているのかは分からないが、あの迅と呼ばれていた男
ゴーレムをすごい勢いで壊しているというのか!!
それもあの女が作り出すのと同じ、いやそれ以上の速さで)
一向に殺すことが出来ないことに女はやけを起こしたのか、
迅へ向かって走り出した。
「こうなったら超近距離でゴーレムを打ち込んでやるわ!!」
そう言って、女は迅に近づいた。それが間違いだと知らずに・・・。
その瞬間は一瞬で、珠理や卓が瞬きをしたコンマ何秒かの間の事だった。
先ほどまで攻撃を仕掛け、迅に飛び込んでいった女は
まるで体中の力を失ったかのように
迅の目の前にうつぶせの状態で倒れていたのだ。
そしてそれと同時に崩れ去るゴーレム達。
珠理と卓は何が起こったのかは分からなかったが、ただ一つこれだけは分かった。
【勝った】ということを・・・。