第4話
蜘蛛の悪魔との戦いを終えて、迅と雀はすっかり疲れていた。
なんせどちらも力の半分以上を使ってしまったのだから。
ただ力の抑えが効かなくなるほどに怒りを覚えていたのも確かで、
今もしも違う悪魔にでも教われでもしたら絶体絶命だった。
そのためか、疲れた体をどうにか起こして
回復の能力を有する由利をすぐにでも探そうとした。
しかし、よく考えてみれば由利が死んでいてもおかしくはなかったのだ。
それから1時間、由利のことを探すのだったがやはり見つからなかった。
ただそれよりも不可思議なことがあった。
それはさっきの悪魔との戦い以降、
二人の前に別の悪魔が現れることはなかったのだ。
そのおかげで由利の捜索だけに力を入れれたのだったが、
どう考えてもおかしかった
いつもであれば、これが普通ではあったがベリアルの言葉や
さっきの悪魔のようにこうも容易に侵入していたことから、
もっと多数の悪魔がいてもおかしくはないのだ。
「あ、嵐山先輩!」
俺と雀が由利を探していると、後ろの方から声を掛けられた。
声の主は、本宮卓だった。
本宮は由利と同じクラスにいる能力者で、由利よりも数字は低いものの、
彼女とは仲が良かったようで、迅はよく由利から話は聞いていたし、
何度か見かけていた。
「あ~、本宮か。お前は無事でよかったよ」
本宮の安否を確認することができた迅は一安心して、彼へと近づいていった。
その瞬間、安心して少し力が抜けてしまったのだろう。
さっきまでの戦いで疲弊していた彼の体は何の抵抗もできないまま、
倒れ込んでしまった。
すると、本宮は焦ったようにこちらへと駆け寄ってきたかと思うと、跪いた
そうして術式を詠唱したかと思うと体に手を当ててきたのだ。
すると空っぽになっていたコップに水が注がれていくのと同じような感覚と共に、
元気が出てきた。
由利から話は聞いてはいたが、いつもは由利が迅のことを回復していたがために、
他の回復系の能力を実感することはなく、本宮においてもそれは同じで、
初めて彼の能力を受けて、改めて由利との違いを知ることになった。
そう由利と本宮の能力は同じ回復系の能力ではあっても、
その性質は大きく異なる。
本宮の場合は対象者の治癒力を活性化させることによって傷を治し、
体力も徐々に回復させていく能力で、
この回復能力を持っている能力者は数多くいる。
それだけ汎用性が高く、簡単に使えるといっても過言ではない。
しかし、この能力には問題点がある。
それはどれだけ活性化させても所詮は
その対象者の持つ治癒力の大きさによるのだ。
だから大けがをした場合にはこの能力を使ったとしても、
完全には傷が治ることはないだろうし、
最悪の場合、全く治らないということだってあった。
それに対して、由利の持つ回復系の能力は回復するというよりは
時間を戻すといった方が適当だろう。対象者の傷や体力をその傷ができる前、
もしくは体力を使う前に戻すのだ。
これによって、対象者がいかに大きな傷を負っていようが、
体力が尽きていようが、そうなる前に戻せる。つまりは完全回復ができるのだ。
最悪の場合、死んでも生き返らせることができるこの能力だが、
由利のほかにこの能力者は3名しかいない。
将矢のパートナーの相澤芹香 青山と今一緒に同行している汐留陸。
そしてNo2 慈愛の天使の異名を持つ、天理優愛
しかし、現状を考えると少し危険な状態だった。
なぜなら今、現在この学園内にいるかもしれないのは、芹香と由利のみで、
さらに悪いことに由利の教室がさっきの悪魔に襲撃され、
生存すら危ういという状況であること。
と、そこまで考えて迅の頭の中にはある疑問が生まれていた。
「どうして、こんなにも悪魔たちはこちらの戦力を
把握した動きをしているんだ?」と
考えてみれば、おかしかった。
ベリアルという大悪魔級に乗っ取られた人間が侵入していることから始まり、
No1~10のうちの5人がいない状況、そして由利の教室が狙われていたこと
これだけ不測の事態が偶発的に重複して起きたことはない。
そして「もしかして裏切り者がいるのでは・・・」という仮説に達してしまった。
そう考えればすべて納得がいく。5人がいないこの状況を知った誰かが、
あの少年を引き入れ、強大な回復能力を持つ由利を襲わせた。
だけどだとしたら、誰がそんなことを・・・
「先輩、もうそろそろ傷も治っていると思いますし、
体力も戻っていると思いますよ」
久しぶりに真面目に熟考している間に、本宮が回復を終えたのか声をかけてきた。
そうして迅が気付いたことを確認するや否や、
本宮は雀のもとへも駆け寄って行った。
迅は立ち上がると、さっきまで考えていた仮説を一旦置いておくことにした。
そうでなければ、疑心暗鬼になってしまうと考えたからだ。
ちょうど、その頃
迅のいた側と反対側の教室では、別の戦いが巻き起こっていた。
「あ~、もう冴木はどこへ行ったの!?こいつを一人で倒すなんて・・・」