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心読③

「で、どうだったんだよ」

「なにが」

「とぼけんなよ」

 声は弾み、少しテンションが上がっているようだ。

 ……わくわくされているところ悪いが、本気でわからない。

「……まさか、本気でわからないのか?」

「あ、ああ」

 ついでにお前の名前もわからない。

 おっかしーなー。この前まで思い出せたのに。

「このタイミングで聞くならあのかわい子ちゃんとどうなったかだろ!」

「声でかい」

 教室中から注目されてるじゃないか。

「みんな気になってんだよ!」

「んなバカな……」

 バカバカしいと思いながら教室を見渡すと、首を上下され同意の意を示すクラスメイト。

 こいつら……。

「ほら言え早く言えすぐに言え! お前には言う義務がある!」

「無いよ」

 絶対に無い……よねぇ?

 しかしクラスメイトはそうでは無いらしく、今度はクラス中から声が上がる。

「無気力久遠があんな可愛い子となんてあり得ない!」「どんな裏技を使った! 言え! そんで教えろ!」「ねえねえねえ。どんな出会いだったの。朝に通学路でぶつかったとか」「ちゃんと責任持ちなさいよねー」

「……」

 うるさい。本気でうるさい。

 というか無気力久遠ってなんだ。僕はそんな風に見られてたのか?

「ほらほらほら言っちゃいなよYOU」

「……あー、もう! 昨日偶然会ってなんか話してたら流れで会おうみたいになっただけだっての!」

「「「ひゅーひゅー!」」」

 ……。

 怠くなった俺は机に突っ伏し無視モードに入る。

「おいおい。もっと聞きたいんだが」

「断る」

「いいじゃんいいじゃん。あの子なんて名前?」

「……」

 名前ぐらいなら……まあ、いいか。

「谺心読って言ったかな」

 途端。

 騒いでいたクラスメイトは一転、戸惑いの空気を作り出す。

「な、なあ。コダマコヨミ、って言ったか」

「あ、ああ。知ってるのか」

 あいつ有名人だったのか。知らなかった。

「……久遠。悪いことは言わん。その子はやめとけ」

「なんでだよ。というかなにがだよ」

 俺はいつものちょっとした冗談みたいなものを期待していた。

 しかし、男は至極真面目なトーンで言う。

「あいつ、中学生時代に魔女って呼ばれてたらしいんだ。実際に被害にあった生徒もいる」

 魔女?

 目は百歩譲って青がありでも、たしかに髪は現実にあり得ない青色で心が読めてしまうという他には無い能力がある。

 あ、いや。髪と目は普通に黒くしか見えないんだったか?

 まあ、どっちにしても悪い子には見えんな~……。

「人違いだろ。じゃ、俺は用事があるから」

 周囲から静止する声がちらほら聞こえるが、俺はそれを無視してリュックを持って図書室へと

「まずは掃除をせんか」

 扉を開けた瞬間、先生が持っていたプリントで軽く頭を叩いた。

 ……俺、掃除無いんですけど。


「あ、先輩。よくここってわかりましたね」

「なんとな」

「なんとなくですか。ふむふむ、特に場所指定もされず別れてしまったからこの場合、図書室ですね。初めて会った場所に行けばいるかもしれないし、いなくても待ってれば察してくれるだろうと。説明不要ですね!」

「言いたいこと全部言ってくれてありがとよ」

 なんだろう。凄え楽。俺このままうまく喋れない人間になるんじゃね?

「私の能力をただの便利機能としか思わない人に初めて出会いましたよ」

「そうなのか?」

 少し、意外だった。

 谺は谺で気を使ってる風に見えたしな。ずけずけ人の心を読んでもすぐに謝ったし。

 どこか気をつけながら話してるようにも見える。

 クラスメイトが言う魔女には見えないな。

 なんて、考えていると谺の顔が強張った。

「な、なんでそれ知って……。ああクラスメイトですか」

 どうやら魔女というのはこいつの地雷原のようだ。

 谺はそれっきり黙ってしまう。

 ……。

「俺はお前の」

「俺はお前の過去なんぞに興味はない、ですか」

「気を遣って言葉にしてやってるのに被せてくるとは実は意外と大丈夫だろ、お前」

「ふ、ふふふ、なんか先輩見てると悩んでるのがバカらしくなってきました」

「それは俺が」

「そうです」

 バカだと言いたいのか。

 って、おい。

 こいつ、魔女というより悪女だろ。

「失礼な! 私、自分で言うのもあれですがかなり可愛い部類に含まれると思うんですけど」

「醜いって意味じゃねえ」

「もちろんわかってます」

「よーしその口を閉じるか」

「体を捧げましょうか?」

 くすくす、と谺は笑いながら容易く俺を完封する。

 俺は両手を上げて降参の意を示すと、谺はさらに笑い転げた。

 俺はせめてもの負け惜しみに、今なら喋れないだろうとさっさと要件を言うことにする。

「で。お前はどんな好奇心をくすぐってくれるような話をしてくれるんだ? 放課後にしたのは俺の好奇心を膨れさせるためなんだろう」

「はぁ、はぁ、ふぅ。はい、その通りですよ」

 目に涙を溜めて、頬を蒸気させ、髪型や服装も少し乱し、なんというか、その……エロい。

「ちょっ、いや! 私になにを、いやナニをする気ですか! いやわかってます。私に乱暴する気でしょう! エロ同人みたいに!」

「お前それは言いたかっただけだろ」

「日常生活、しかも普通の相手には言えませんからね。夢が一つ叶いました」

「そんな夢捨ててしまえ。……いや、もう叶えたんだったな」

 こいつはいちいちこっちの思考を読み取ってはすくい上げるから話が全く進まない。

 こっちはリアクションだけで疲れてきた。

「ああ、すいません。本題ですね本題」

 ささっと髪型と服装を整える谺。少し残念……。

 そこまで考えてまたなんか言われるのではないかと焦る……が、谺はこちらをニコニコ見つめるだけで済ましてくれるようだ。

「いやー。本当にこの高校に来て正解でした。先輩と会えた。それが私の人生の一番の幸運で奇跡ですよ」

「流石に規模がでけえよ」

「私にとってはそうでもないんです」

 同じ笑顔だ。

 同じ笑顔なのに、なぜか視線は釘付けになってしまう、不思議な魅力を纏った笑み。

「先輩。先輩から見て私はどう見えます?」

 どうせ心を読み取るのだろうと黙っているが、こちらをじっと見つめて喋ろうとしない。

 こういう大事な時だけ口で言わせようとするのはずるいと思わなくもないが、話も進まないし観念することにする。

「まあ、可愛いよ。俺は他人に興味は無いが、お前には興味が持てた。そういう意味では内面的にも魅力的だと思う」

「ふふ、ありがとうございます。実際に言われると少しくすぐったいですね。じゃあ」

 谺はこっちの質問こそが本題だと言わんばかりの迫力で、言う。

「心を読むことに関しては?」

 気にしていない。

 そう言えば済むはずだった。

 だけど、この目は、ただ真っ直ぐにこちらを見つめる目は、違うことを要求……しているように見えた。

「……お前とこうやって話すだけなら、俺は気にしない」

「それで」

「……でも、心を読まれるってことは同時に、知られたくないことも、自分の嫌なところも、全て見透かされてしまうことでもある。普通は、いい気分では無いな。覗かれる側としては」

「そうです」

 そう言うと、悲しそうに、また笑うのだ。

 俺は昨日の今日ので谺の笑顔しか見ていない気がする。

 もしかしてそれは、谺の処世術なのかもしれない。

 そして、こういった考えまで読まれることに気づくと、心のどこかがほんの少しだけ__ざわついた。

「だから、うまくいかなかったんでしょうねー……」

 その何気ない一言で、繋がった。

 魔女? そんなもん嘘っぱちだ。

 多分、見た目に騙されたバカな男が谺の能力の気づいて怖くなって__もしかしたら谺自身がなにか言ったのかもしれない__悪い噂を流したんだろう。

 この容姿にさばさばした性格。心を読むという空気を読む上でこれ以上にない能力もあれば注目もされるし、男女分け隔てなく触れ合ったはずだ。

 そうすればころっと落ちる男子がいてもおかしくない。複数人が谺に落ちて、勝手にビビって、噂を流した。

 そうすれば、いざなにかバラされた時に谺の信用性は0だから、誰も信じない。事実は事実になり得ない。

 全ては、心を読めてしまったばっかりに。

 なんて、考えていると谺に見つめられていることに気づいた。

「先輩。一応言うと、魔女って呼ばれたのは別の理由ですよ?」

「そうなのか?」

「ええ」

 恥ずかしい!

 自慢気に脳内で自分の推理に酔いしれてたと思ったら当人に間違いだと言われたよちきしょう!

「先輩は本当にバカで扱いやすい」

「おい」

「あれー。心読まれちゃいましたか」

「完ッ全に声に出てたぞ」

 谺は面白そうに笑う。そうされると、俺もまた怒りにくい……。

 こいつ、わかっててやってんじゃねえだろうな。

「どうでしょうかね。でも、そんな先輩だから幸運で奇跡だったんです。私にとって、この出会いは」

 どういうことだ。

「そうですね……。これを説明するには入学式の日まで遡る必要がありますよ?」

「いいよ。どうせそれを聞くために来たんだから」

「ふふ。じゃあ話しましょうか」

 __私達の幸運と奇跡の出会いを。

 なんて、余りにも大げさすぎるだろうと、俺は苦笑するしかなかった。

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