心読②
なぜかiPhoneが使えねえ……つーわけで親iPhoneに全部一文字一文字書き写していく作業。これを一週間……。
そんな二話目です。
昨日のあれはなんだったんだ。
本の読みすぎでついに現実と二次元の区別がつかなくなった? まっさか。
でも、目は百歩譲っていいとして、青い髪ってのはあり得ないだろう。
さらに心を読むおまけ付きときた。
夢?
幻?
やっぱり現実?
……頭がこんがらがってきた。
「……い。おいってば」
「……ん? あぁ、悪い。考え事してた」
「大丈夫か? 調子悪そうだけど」
大丈夫。
ただそれだけ言って周りを納得させた。
こういう時、人間関係が本当に面倒だ。考え事くらい周りを気にせずやりたいものだ。
……あれ?
そういえば、なんで周りに合わせてたんだっけ?
「おい。本当に大丈夫か? すげえ難しい顔してるぞ」
「悪い。少し一人で考えたい」
「……そうか」
やばい。考え始めてたら止まらなくなってきた。
授業の内容も頭に入らない。
というか、考えれば考えるほど気になってきた。
「おーい。千歳ー」
「……」
「おい!」
軽く頭を叩かれる。
イラっとしたから叩いた奴を睨むと、そいつはため息をついて扉の方を指差す。
「客だ」
「せんぱーい」
自分でも思考が真っ白になったのを自覚できた。
体は固まり、脳は再起動のために数秒を費やす。
「おいおい、いつあんな可愛い子捕まえたんだよ。隅に置けねえなお前も」
「そ、そうだろ。あはは……」
乾いた笑いしかできない。こいつは気付いてない……よな?
昨日の女……名前はなんて言ったっけ?
まあいいや。昨日の女が小さい包みを見せびらかすようにこっちを見て笑う。
その時に時間を確認すると昼休みだった。
……これはあれだろうか? 一緒に食べようというお誘い。
……。
俺は立ち上がり女の前へ移動する。
「よお。どうしたんだこんな時間に」
「嫌だなぁ、忘れちゃったんですか先輩。昨日、一緒に食べようって約束したじゃないですか」
ざわざわとクラス中の視線が集まる。
しかし、目の前の女は注目されるのには慣れてるのか、気にする風でもなく会話を続ける。
いいだろう。そっちがその気なら全力で回避してやる。
「そうだったか? たしかにしたような気もするが、今日とまでは決めてなかったろ?」
どうせ嘘の応酬だ。先に設定を作って地図を完成させた方が勝ちだ。
俺は全力で逃げ道を描き、女は全力で行き止まりを描く。
「あ、もしかして今日用事があったんですか?」
「時には無いけど、ほら。なんの用意もしてないからさ」
「もう、いいですよそんなの」
「俺が気にするんだって」
周りからはイチャイチャしてるように見えるだろう。
付き合ったばかりの男の方__つまりは俺の方__が恥ずかしがって女の誘いを断っているようにも見えるだろう。
しかし、俺の笑顔は作り笑いで女の目も全く笑っていなかった。
「そうですか。なら」
ぞくり、と悪寒が背筋を駆け抜けた。
「昨日のオカズは綾な」
「よっしゃ弁当持ってくるから待ってろ」
行ってらっしゃーい、なんて呑気な声を出す女を背に、俺は内心で叫ぶ。
こいつ……男のトップシークレットを!
この女が心を読めるということを完全に失念していた。いや、完全にわすれてたわけではないけれど、心のどこかで「まさか本気で読めるわけが」と思っていたのは事実だった。
流石に認めざるおえない。この女が心を読めるということを。
……というか、心なんか読めるわけがないと高を括って後で酷い目にあうのが怖い。
席に戻りリュックから弁当と水筒を取り出し、女の元へ……。
「なあ」
「お、どうした色男。早く彼女のとこに行ってやれよ」
俺はその冷やかしに苦笑いで返し、本題を口にする。
「あいつの髪と目、何色に見える?」
「はぁ? 黒だろ」
「……悪い。変なこと聞いた。忘れてくれ」
黒、か。
俺はそれだけ聞くと、“青い”髪と目をした女の元へと向かった。
「ふふ、やっとか落ち着いて話せますね」
「なにが落ち着いて話せますね、だ。男のトップシークレットを教室の前で言おうとしやがって」
「しょうがないじゃないですか。先輩と話したかったんですから」
こいつはそこらへんの男なら一発で落とせそうな笑顔で言ってくる。
一瞬見惚れてしまうが、すぐに頭を切り替え
「あ、見惚れてくれたんですね。ありがとうございます」
心を防衛モードにする。
全ての思考を止め外の情報をシャットアウトしクローズドの状態を作り出す。
大丈夫だ俺なら出来る。
「それよりあなたって普段ああいうのをオカズにしてるんですね。正直引きます」
「よーしその口を閉じるか今すぐ鉄拳制裁か俺にその体を捧げるがいい」
出来なかった。
全然出来なかった。
漫画のキャラとかよく無我の境地とかやるけど、あれどうやってんだろう。
「じゃあ体を捧げます」
と、頬を赤らめ恥ずかしそうに言ってきた。
……。
「あ、心がとても動揺してますよ。先輩かーわいー」
「もういいよ……煮るやり焼くなり好きにしろよ……」
三つ目は完全に冗談だった。
言うなれば「なに言ってるんですか先輩!」みたいな反応を期待してた。
それが逆手に取られてこのざまだ。
「心を読めるんですから私にそういった冗談は無駄ですよ。私にそういう反応をして欲しいならもっと凄いこと言わないと」
楽しそうに笑う目の前の女を見て、なんだか張り合うのもバカらしくなった。
今は昼飯時だ。さっさと食べてしまおう。
「あー、本当。先輩は不思議な人ですね」
なんて、目の淵に涙を溜めながら言う。……目の前にもっと不思議な女がいるんですがそれは。
えーと、こいつ、名前はなんだっけ。
「コダマです。コダマコヨミ。コダマは谷の牙と書いて谺。コヨミは心を読むと書いて心読。ちゃんと覚えてくださいね。クラスメイトの名前すら満足に覚えられない先輩」
「お、覚えてるし。咄嗟に出ないだけだし」
そもそも、日常生活の会話の中で名前を使うことの方が少なくないか?
「先輩なんて普段から会話なんて上の空じゃないですか。適当に相槌を打って流されるように流されて日々を惰性で生きてるだけ……あ」
うーん。たしかにその通り。
なんかここまで当てられると、逆にスッキリするな。「あー、本当に心を読めるんだー」って。
なんてことを考えていると、谺は顔を真っ青にしていた。
「どうした?」
「あ、いえ……怒ってないんですか?」
「ん? 俺、怒ってるのか?」
もしかして心の奥底では怒っているのだろうか。
「いえ、そういうことではないし先輩の心は驚くほど能天気……いや、そうじゃなくて」
じゃあなんだと言うのだ。
あの、先輩にとって今私が言ったことは結構重要ですよね? 周りにでもバレたら、その、関係に亀裂が入ったりとか。だからそんなことをぽんぽん言われることに怒らないのかなーと」
……ああ。
やっとか納得できた。
言うべきかは悩むが、どうせ考えた時点でこいつにはバレるのだから本音で言ってやろう。
「俺、あんま他人に興味ないしな」
「……本心で言ってるし」
谺が本心と言うなら、やっぱり俺の本音ということか。
納得はしたが、少し寂しいような、別段そうでもないような。
自分でも、なんで人付き合いしてるのかわからないしな。
……そういえば。
「なあ。なんでお前は」
「なんでお前は俺に話しかけてきたのか、ですね。それについては放課後にまた会ってお話ししましょう。なぜ今じゃダメかって? それは時間が無いこととあなたに興味を持ってもらって会う口実を作るためですよ。なんで俺なんかに、という質問については放課後です」
……いう前に言いたいことを並べられる。まあ楽だからいいけど。いや、いいのか?
よくわからない。
そして俺は、放課後に会う約束を取り付けられその場は解散することになった。
……弁当殆ど食べれなかったな。