警戒心の強い子狐は、下駄を鳴らして森に帰った……綿あめを大事そうに抱えて。
祭り囃子に誘われて森から出てきた子狐は、向日葵が咲く水色の浴衣に下駄を鳴らしていた。
「あ」
そう声をこぼしたのは、僕か、張り子の狐か。
くるりと背を向けた拍子に小さな手から水風船が落ち、石畳で弾け。思わずしゃがみ込んだ子狐の肩と長い尻尾がしおれる。
「ごめんね」
綿あめを差し出すと、顔が上がってかんざしがシャラと鳴る。
細い指がおずおず綿あめを掴み、逆の手で立たせてあげようと思ったが、ザッと下駄が後退った。