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日食の町で  作者: 白神 こまち
第一章
3/17

湯田の祭

 駅の正面玄関から外に出ると、雲ひとつない抜けるような青空から夏の陽光が容赦なく照りつけていて、駅前の駐車場のひび割れたアスファルトは灼熱に焼かれている。

 こんな山深い田舎でも太陽は日本列島を平等に焼いているのを肌で感じる一同。



 湯田町では地元の祭りが行われているらしく、駅正面から橋を渡って200メートル程前方の所まで道路が交通止めになっていた。


 その道路を、こちらに向かってくるのが、


「陰陽師でしょ! あれ! どう見たって悪霊退散だ!」


 隼馬がいった。

 駅舎内の自販機で購入したコーラを飲みながら、珍しい川鳥でも発見したように前方を指さす。


 橋を渡ってこちらに向かってくる集団と、それを囲む人たち。


 集団のほうは、道路の真ん中を独特な舞を踊りながら向かってくる。


 それぞれ赤、青、白、黒の鬼面をつけて、古めかしい格子模様の身頃を着、腕には鎖帷子と手甲、広口袴を履いて脛には脚絆。

 そして白足袋に草鞋を履いている。腰には刀を帯びている。


 鬼面をつけて舞を踊っているのは10人程。

 その先頭に、隼馬が指さした『陰陽師』がいた。


 平安時代の水干という衣装だ。烏帽子はかぶっていない。

 そのため、薄く白粉をつけた赤い唇の少女の顔が確認できる。


 水干は、上は真っ白な布地で、少女の細い首をまるい襟が覆う。

 その襟に通された赤い紐が右肩のあたりで留めている。


 両肩のところには切れ目が入っていて、下に着ている紅色の単が覗く。

 胸と肘のあたりに橙色と紺色のぼんぼんが縦に2つ並び、裾は前に垂らしてある。

 ひろい袖口には紅色の袖くくりの紐が通っている。


 少女は呪文のようなことばをいいながら、手に持った縄に水をふくませて道路をなぞる。

 その度に、袖くくりの紐が、熱せられたアスファルトの上を擦るか擦らないかのスレスレを行ったり来たり。


 袴は深みのある紅色で、足首のあたりでふっくらと膨らんでいてゆとりを持たせている。

 少女もやはり腰に刀を帯びていて、白足袋に草鞋を履いている。



 この集団を、祭りの関係者や町の人たちが歩道のほうから囲むようにして眺め、なにか御利益でもあるのか集団と一緒に駅の方へとやってきた。


「たしかに陰陽師っぽいな」


 慶介は、集団の先頭に立ってこちらに来る少女を注視した。


 白粉と口紅の薄化粧の少女は、慶介たちと同い年くらい。腰まで伸びた黒髪は頭のうしろ生え際あたりで水引を用いてまとめている。


 切れ長でシャープな目もと、小さな唇、目鼻立ちの整った小顔はキツネ顔。

 すらりとした体躯も相まって、水干の衣装によく似合い、様になっている。


 大人でも萎える記録的な暑さの中、諦観的な動作を粛々と行う少女の姿を見、


(忍耐力のある、頭の良い娘なんだな)


 慶介は独り合点をして、みんなと祭りを眺めた。



 とそこへ、駅を出たところの左側の道路からマイクロバスが1台、慶介たち天文部の前に停車した。


 バスから下りてきたのは、空色の和服に身を包んだ、いかにも旅館の女将といったふうな女性だ。


 天文部顧問と挨拶を交わし、慶介たち学生にも挨拶と会釈をする。


 バスの運転手も笑みを浮かべながら下りてきて、大きな荷物はうしろの荷物室へといい、荷物を積み込んだ……。

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