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日食の町で  作者: 白神 こまち
第二章
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黄泉戸喫

 茂みを抜け、アスファルトで舗装された細い道路に出、この道を山の方へ進む。



 千里がいうには、


「私たちの世界では、この道はすでに廃道となっています。アスファルトは罅割れて、至る所から草が生えています」


 現実世界の負の面は異界では反映されず、完成当時の道路のままの姿を保っている。



 慶介は身を守るために三脚を手にして、美沙はここへ来る途中の畑で拾った鉄製のスコップを、隼馬はスコップの脇に転がっていた園芸用のミニスコップを持っている。


「なあ、千里。廃鉱にはなにか秘密でもあるのか?」


 先頭を行く隼馬が尋ねた。


 その理由はやはり、隼馬の人を看る能力。千里の些細な表情から感じ取った印象だ。

 廃鉱に物資があると記された地図を見た際の、千里が顔に出した、その表情。隼馬にはそれが気にかかった。


 千里は、いま歩みを進めている細い道路からうしろへと振り返り、町の方を眺めて、


「湯田町が村だったころです。

 第二次世界大戦の頃、石炭の需要が増えたことで質の低い亜炭までも乱掘したんです。あたり構わず、蟻の巣のように。


 その結果として現在、空洞化した地下が雨水の侵食を受けて、湯田町の住宅地の一角が地番沈下する被害がでました。

 つい最近も、大雨の影響で被害が拡大したとニュースになりました。その亜炭を運搬する出入り口が湯田炭鉱です」


「ふーん、そうだったのか。俺はもっと別の曰く因縁があるんだとおもったぜ」


「幽霊でも出るとおもったの?」


 美沙がからかうようにいった。



 すると慶介、前方を指さして、


「見えたぞ、あれじゃないか? 廃鉱になった湯田炭鉱の入口ってのは」


 いいさして、小走りに急いで行けば、地面にトロッコの線路跡が確認できる。

 その跡が廃鉱の入口へ続いている。


 が、湯田炭鉱の入口は、


「コンクリートで塞がれる……、炭鉱の中に入れなくなってるぞ」


 トンネルのようにかまぼこ状の入口はコンクリートの分厚い壁になっていた。

 とてもじゃないが、中へ入るために壁を破壊するのは非現実的だ。


「ここは現実世界でも塞がれているのか?」


「はい、塞がれています。待ってください、地図に書き込まれた印はもう少し左の場所を示しています」


 千里は地図を片手に、その印の示す場所へ足を進める。




 山の斜面に沿ってしばらく行くと、


「どうやらここのようです」


 ぽっかりと口をひろげた洞窟に導かれた。


「まるで原始人が暮らしているような横穴だわ」


「この中に物資というのが隠してあるのか?」


「おそらく……。上手く異界に取り込まれていればのはなしですけど」


 希望は抱かないほうがいいというニュアンスで、千里はいった。


「まずは入ってみようぜ! お宝があるかも知れないしさ」


 隼馬はスマートフォンをポケットに仕舞い、土いじりのミニスコップ片手に洞窟へ入って行く。



 洞窟は土や石、石炭を運び出すための手押し車が通れる幅。高さは170センチくらいで、慶介と隼馬は天井に頭をぶつけないように気をつけて洞窟の奥へ進む。


 入ってすぐ、太陽の光が届かなくなり、


「やっぱりスマホは十徳ナイフだぜ」


 と隼馬はスマートフォンのフラッシュライトを点灯させて暗い足下を照らし出した。


 洞窟に入って20メートル程進んだ先に、


「おっ!? 箱があるぞ。木箱だ」


「それが異界の厄災に備えて配備してある物資です。よかった、本当にあって」


 千里は手のひらで木箱の蓋を撫でた。


 木箱の大きさは体育で使用する跳び箱の上段程。

 稲妻型に折った紙垂を4つ挟み込んだ注連縄で囲ってあり、蓋と容器の境目に御札が貼ってある。


「私がシシギ姫様の役でお払いを受けたとき、この木箱も一緒に清められました。中をあけて見ましょう」


 千里は御札を剥がし、木箱の蓋を取り払う。


 中に入ってあったのは大量の缶詰めとペットボトルのミネラルウォーター、米が一升に炊飯するための飯盒、フライパン。

 そして表紙がボロボロの本が一冊、枯れ葉の入ったビニール袋だ。


「長期戦を想定しているのか、これは」


 慶介は焼き鳥の缶詰めやサバの缶詰めを手に持った。


 隣で隼馬が、千里へ、


「桧屋旅館の松倉さんは還日祭の役員なんだろ? これってなにかの秘密結社?

 だけど、なにひとつ武器は入ってないのな。こんなちっけーミニスコップじゃ、いざってときに困る。このフライパン使わなかったら俺が武器にするぜ」


「還日祭は湯田の人を守るためですから秘密結社ではありませんよ。でも、よかった。喉が渇いていましたから」


 いいさして、千里は、はたと気がついて、


「皆さん、怪異が起こってからは、なにも口にしていませんよね? 黄泉戸喫よもつへぐいは知っていますか?」


「よもつへ……? なんだそれ? 知ってるか、慶介」


 隼馬にバトンタッチされるかたちで慶介、


「黄泉戸喫? あの世の食事のことだったような……それを食べると現世に帰れないとか。日本神話の世界でだろ?」


 千里に確認するば、


「概ね、その通りです。黄泉の国の火で煮炊きした食べ物を口にすると現世には帰られなくなる。ここでも、おなじことです」


「ここって、異界でも?」


 美沙のことばに、千里はこくりとうなずいた。


「ですから、怪異が起こってから口にしたものはありませんか? 火を使わない物でも駄目です。水や木の実など直接口にしていませんか? 大丈夫ですか?」


「俺は大丈夫だ。隼馬、お前は拾い食いとかしてないよな?」


「冗談きついぜ慶介。俺を野生児かなにかと勘違いしてないか?」


「私も大丈夫なはず。この木箱の中の食べ物は平気なの?」


「はい、清められていますから大丈夫です。ここで一旦、休憩しましょう。歩き疲れましたし、今後のためにも体力を回復させないと」


 千里はミネラルウォーターのペットボトルを皆に配った。


「俺は小腹も空いたし、旨そうな缶詰めでも食べようっと!」


 隼馬は大量の缶詰めを漁り出した。


 おなじように慶介も木箱の中を覗き、


「これはなんだ? 随分と古い本が入っているけど」


 表紙がボロボロの本を手に取った。


 そして自分のスマートフォンのフラッシュライトを点灯させ、適当にひらいたページに目を落とし、そこに書かれていた文字を目に入れた瞬間、



「ああ!? この本に書かれている文字は読めるぞ!」



 突然、大声をあげた。


 慶介は驚愕に目を見開き、本の最初の一ページをひらいた。


 慶介の肩にぶつかる勢いで千里が体を寄せ、そのページを覗き込む。


「私にも見せて」

「おいっ、俺にもっ!」


 美沙と隼馬も慶介の持つ古い本を見ようと必死になる。


「なんて書いてあるんだ!? ってか、なんでその本は異界の文字に変わらないんだ!?」


 隼馬が慶介を押し倒すように背中に体重を乗せて本を覗き込んだ。


 本に書いてある文字はカタカナで書かれており、その文章を慶介が読んで、


「異界に取り込まれた人が書いた日記にようだ」


 いつの時代の人物なのか、この日記を書いた人の名も不明だ。


 しかし、共に異界に引き込まれてしまった仲間が獣鬼子に襲われて半神児となったこと、半神児は長い年月をかけて神児になること、そして日記の作者は異界の食べ物を食べたことで現世に帰ることができなくなったこと、最後に、異界の食べ物を食べながら数ヶ月もの間、神児らの手を逃れて生き長らえたことが書いてあった……。

仕事が大変に忙しくなりました。

この激務のなか、本作の感想やレビュー皆無というとこもあり、やる気やモチベーションを失いました。

仕事が一段落するか、執筆意欲が湧くまで次話投稿未定です。ごめんなさい。

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