みどりのめのかいぶつ
わたしは国で唯一の王の妃の護衛だった。
彼女は国で唯一の王の妃だった。
わたしは騎手の娘で、女ながら妃を護ることを喜びとされた。
彼女は侯爵の娘で、王に生涯仕えることを名誉とされた。
しかし出会ったその日にわたしは確信をした。わたしは男のように彼女を愛し、護るのだと。一目で、運命を悟った。
彼女は王妃で、わたしは護衛。さらに、彼女と私は同性。この想いはあってはならぬ。禁忌の想いは捨てねばならぬのだ。そう考えたが想いはすてられず、溢れるばかり。どうしようもなかった、そんなときのこと。
あなたを愛しています。
その一言にわたしは舞い上がり歓喜すした。決して叶わぬと考えていたこの禁忌の恋が、日をみたのだ。
わたしもあなた様を愛しています。
おもわず想いが溢れた。わたしの返事を待ち、体を震わせていた彼女は、喜びで頬を染めて目元を濡らした。それをみたわたしはたまらず彼女を抱きしめた。平均より少し大きめのわたしの体は、彼女のやや小柄な体を包み込んだ。
王にばれぬよう、私たちは深く愛しあった。共に過ごす夜は無かったものの、王が不在の昼は人払いをして優しい時間を過ごした。幸せだった。
そんな日々を続ける内に王の事を疎ましく思った。堂々と彼女と共にあれる彼が憎らしかった。欲が出たのだろう。彼女とともに過ごせぬ時間は苦痛でしか無かった。彼女を抱く王を心から恨んだ。
ある日彼女がわたしのことをよんだ。顔色が悪く体調も芳しくないようだった。彼女に促される儘にちかくに寄る。すると彼女は顔を曇らせこう告げた。
王の御子ができたようなの。
目の前が真っ暗になった。彼女は王妃としての責務を果たしてていたのだ。当たり前だ。いつかはそうなるとかわかっていたことなのだ。しかし頭の処理が全く現実においついていかない。彼女はそれだけ言うと視線をおとし、口を閉ざした。
パニックになった頭で必死になりながら考えるが全くいい言葉がでない。頭の中を渦が巻いている。そうしていると、一つのことにたどりついた。
そうだ、ころしてしまえばいいんだ。
おなかのこも、かのじょも。
考えが浮かぶと同時に腰に差してあった剣をぬく。彼女は驚き後ろに後ずさる。いくら彼女の部屋が広いといってもわたしと彼女では差が有りすぎた。幾分もせずに、彼女を追いつめる。
わたしの彼女を護るためにあったはずの剣は彼女の腹部を貫き、彼女の命の火を消し去った。彼女の顔はとても穏やかだった。
何をしてしまったのか、今になっては自分でもわからない。しかし、彼女を亡骸にしたのは己で、潔白の彼女を汚したのも己で、愛する人を亡くしたのも、また己なのだ。
O, beware, my lord, of jealousy ! It is the green-ey'd monster which doth mock The meat it feeds on;
(お。。気をつけ下さい、将軍、嫉妬というものに。 それは緑色の目をした怪物で、ひとの心をなぶり
ものにして、餌食にするのです。)
後に発見された懐妊することの出来なかった王妃とその護衛の死体は、抱き合い離れることはなかった。