空集市ご案内2 青木鈴風
大切なのはトラブルが起きた時どうやって対処するか。
今はいない父が生前言っていた言葉です。
でも正直、これはないなと思いました。
一歩踏み出したら異世界って誰が想像していたでしょうか。
想像出来ていたら思春期の発想だと思います。
婦警におごっていただいた見知らぬメーカーの缶紅茶で暖を取ります。
コートがあればよかったのですが、残念ながら持ち合わせていません。
寝間着ではなかっただけマシと思うことにしました。
この空集という市は私が過ごして来た場所よりも寒く、時期は同じぐらいなのに部屋の中はひんやりと冷たいです。
「お待たせ、君が青木鈴風ちゃん?」
声をかけて来た刈り上げの男性はスーツなどではなく、普通にデニムパンツにジャケットとラフな格好でした。
おそらく制服を着なくてもいい課なのでしょうと思いながら頷きます。
「おじさんがおねえさんが言っていたお話を聞いてくれる人」
「そう。溜池弾っていうんだ。おじさんじゃなくておにいさんな」
まぁぎりぎり30手前みたいですが。
彼の質問にいくつか答えている間に紅茶は飲み干してしまう。
「これでおしまい。鈴風はこれで……テラーとして保護される。あ、学校とかは行けるから安心していいぞ」
「学校は大切です。こちらの世界に適応するための制度があって助かりました」
なかったら私、なんとかして生活の基盤を作らなければならないところです。
「このあとのことなんだけど、夜遅いから……」
耳をおさえるほどの音が部屋の外で聞こえたと思った瞬間に溜池は外へと駆け出していきました。
さすが警官といったところです。
早い速い。
「……一人残されるのもアレです」
立ち上がって彼の後を追うことにします。
その時目にはいったのはメガホンでした。
「そういえば、こちらで試していませんでしたね」
一人言を呟いて、そのメガホンを手にもって廊下にでます。
負傷者とのびている警官と暴れる鬼と抑えようとしている溜池他何人か。
赤鬼と言えばいいでしょう、普通の服を着てはいますが角が生えていますし、爪も鋭そうです。
「落ち着けっつーの!!」
溜池は必死に片腕にしがみついて抑えていますが剥がされるのも時間の問題と見ました。
まずは、落ち着くための深呼吸を一つ。
続いてメガホンの電源を入れて、それに言葉を発します。
「『動くな』」
看護していた他の警官を含め、その声を聞いた全ての人間や鬼が動きをぴたりと止めます。
うん、メガホン越しに発声して正解のようです。
私は人ごみを分けて歩いて赤鬼のそばまで歩いていきます。
赤鬼は私をぎろりと見下ろして口を開きました。
「何をした」
「声をかけただけです。駄目ですよおじさん、国家権力に歯向かうときは用意周到にして上から押さえつけるものです。数だけは彼らそろえますからね政府の犬は」
薄ら笑いを浮かべてそういうと鬼はにやりと笑う。
「お前もテラーか」
「そう呼ばれる存在のようです。まあ修復するのも大変ですから無駄に暴力をふるのはやめておいた方がいいです。ほら、大穴誰が直すんですか?この修繕費も回り回って我々が払うと思うと私は破壊する気にもならないのです」
消費税とかのことです。ちなみにこちらの世界は10%前後と確認しました。
「鈴風、これ解け」
「溜池焦ると損しますです。ここで解くと赤鬼も動きの停止が解けます」
私は赤鬼に首を傾げて尋ねる。
「もう暴れませんか?いい加減に私この制服姿だと寒いし休憩しにくいですので面倒ごとは終わりにしたいのです」
「……ああ、わかったよ。すまんな少し同僚と喧嘩しただけだ」
「あなたも警察の方ですか。では、『ご自由に』」
人々の動きが元に戻る。
赤鬼は悪かったなと溜池にいって彼の腕を外した。
「お前名前は?」
「青木鈴風ともうします。いちよう元の世界でも人間でした。まぁ、いろいろあって人間扱いされていませんですけど」
赤鬼にボフボフと頭をなでられただでさえ平均より低い身長が更に縮むかと思いました。
驚いた顔とちょっとした恐怖にそまった警官たちの中、溜池だけが私に自分の上着を渡してくれます。
「寒いなら言えよ」
「汗臭い上着を着るために?」
無いよりましなので着込みますが。
「何だよそんな力があるなんて話さなかったじゃないか」
「聞いた話では力の大小あれテラーは力ある存在で例外がないのですから、勝手に無い勘違いした溜池が悪いです。私この力で世間に迫害を受けて来た身ですから隠すのも当然。何かおかしいことはあるですか?」
ポケットからのど飴を取り出して口の中に放り込んで言葉を返した。
「……ない」
「なら、私この後どうすればいいのか教えてください」
しかしテラーとはよく名付けたものです。
幸か不幸かその一件で私の保護者がすぐに決まりました。
「予想通りに汚い部屋ですね」
場所は警察寮、部屋の主は溜池。
「なんで俺が……」
「通常の保護ではうまく保護しきれないと判断したとも考えられますが、きっと面倒くさいから任せてしまえです」
荷物が置かれていないベッドに身を投げて、一息つく。
「溜池」
「何だよ、年上を呼び捨てるな」
「じゃあダンダン」
「へんなあだ名つけんなお前」
文句が多い男だと思いながら目を閉じました。
「鈴風?」
「……んー」
面倒で答えずにいると溜池は布団の上がけをのせてきます。
温かいことはいいことですと呟こうとしたのですがうまくいかず、私は眠りにつきます。
自分の現状は幸せかどうかわかりませんが、少なくとも今私を狙って殺しにくる人間がいないことが安眠に繋がったのです。
柔らかいベッドなんて何年ぶりでしょうか、うっかり数えてみたくもなります。




