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スタンドプレイ

最後だからって暴走し過ぎです。主にイチが。

ええ、勿論ワザとですが何か?(←)


では、イチの独壇場をお楽しみください(笑)








「‥‥‥はぁ。」

「‥‥‥‥‥‥。」


 何やら珍しく、本当に珍しく元気の無いイチが卓袱台に突っ伏している。何なんだ? 


「おい、イチ?」

「話し掛けるな下僕。」

「‥‥‥。」


 不機嫌そうな顔して言われてしまえば、こっちは黙るしかない。


「6って数字は鬼門なの。」

「‥‥‥ひょっとして、傑作の限界の事を言っているのか? そんなの信じるなんてらしくないな。‥‥‥大丈夫だ、今まで書いた中に傑作なんて無いから。」

「イツキー? 被害者になりたくなかったら、もっと上手くフォローなさい。」

「‥‥‥‥‥‥ハイ。」


 いや、まあ。然り気無く貶してみたんだが。‥‥‥と言ったら何が起きるか怖いので止めておく。


「‥‥‥‥‥‥じゃ、早速被害者になって頂戴。」

「は? ちょ、待て。俺はまだ死にたくないぞ! て言うか何だこの展開は? その手に持っている物は何だ!? 降ろせ、今すぐ! やめ、ぎ、ぎゃあああ!!」







 散逸した室内には、夥しい量であったろう血液の跡と、俯せに倒れた男性の遺体。血は乾き切っていた。

 被害者を殺害した犯人は、既に何処かに潜伏しているだろう。


「三笠サン達は?」

「あー、別件で動いてたのを呼び戻したらしくて。ちょっと時間掛かるみたいだねえ。」


 あずまに訊くと、何とも珍妙な答えが返ってきた。‥‥‥鑑識はそんなに人手不足だったのか?


「最近事件が頻発してたでしょ。ほら、例の放火。犯人まだ捕まってないから。ついさっきもまた放火が起きて駆り出されたばっかり。他の署に応援頼めば良いのに面子が邪魔してるみたいよ?」

「またか? その放火犯もいい加減しつこいな。」

「どうする楠本?」

「待つしかないだろう。」


 そう言って、遺体をもう一度確認する。

 『柏 逸樹』。それが被害者の名前である。

 周辺での聞き込み調査で、双子の姉・依智と住んでいる事が解った。


「その双子の姉は?」

「行方が解りません。」


 ふむ。

 巻き込まれたか、或いは‥‥‥その人物が犯人なのか。いずれにせよ探す必要があるな。






「お待たせしました、楠本さん。」

「いや、そちらこそお忙しいでしょうに。」

「まぁ、仕事ですから仕方無いですよ。‥‥‥早速始めても?」

「頼みます。」


 漸く到着した鑑識が現場に入った。遺体の前で手を合わせる三笠サンは、少々やつれた表情をしている。‥‥‥無理もない。


「グサリと一突き、ですか‥‥‥無いですね、凶器。」

「ええ。近くにそれらしいものは。」

「犯人が持ち去ったか‥‥‥。」

「恐らくは。」


 周辺を調べ回っていた刑事が戻って来たらしい。


「楠本さん、見付かりましたよ!」

「ん? 凶器か?」

「いえそっちではなく。双子の姉の依智ですよ!」

「本人の前で呼び捨てるなんて良い度胸してるじゃないの。」


 依智を連れてきた刑事は「ヒィッ、すんません!」と悲鳴を上げた。何があったやら。









「‥‥‥間違いなく、本人ね。」

「そうですか‥‥‥。それで少々お訊ねしたい事が、」

「言って置くけど私は昨日からずっと外出してたわよ。ちょっと実家に用があってね。地元で同窓会なんてやらないで欲しいわ全く。新幹線で片道三時間よ? トンボ返りも楽じゃないわ。」

「‥‥‥。」

「あら、これが聞きたかったんじゃなかったの?‥‥‥そうね、なら昨日真夜中に逸樹へ掛けた電話の内容の方が良いのかしら? 『明日帰るから夕飯の支度はしておいて頂戴。万が一にでも不味かったらお仕置きするわよ』ってね。」


 何なんだ、この女。

 自分の双子の片割れが死んだってのにこの態度は? そう思っていると、急に溜め息を吐かれた。


「‥‥‥愚鈍も良い所ね。」

「な、何?」

「逸樹が死んでるのよ? さっさと推理なさいな。それが貴方達警察の仕事でしょう? 私はその為に情報を与えたわ。不甲斐ないにも程があるわよ。‥‥‥私の、今の証言だけで。可能性を浮かべる事は決して難しくはないわ。例えば、その電話が具体的に何時頃だったのかとか。その内容は証言通り正確なのかとか。私が本当に実家に帰っていたのかとか、はたまた同窓会にはちゃんと出席していたのかとか、実家からこの家に戻るチャンスはあったのかとか、考え出したら切りが無い。しかも貴方には追加で私に質問する時間を、権利をあげた。にも関わらずそれを行使すらしない。故に、愚鈍なのよ。それは思考停止と同意義! 与えられた情報に縛られるのではなく。何故、推理を展開させる事が出来ないのか。全く理解出来ないわ!」


 双子の弟が死んでも悲しくないのだろうか。涙ひとつ見せず、こちらに向かって堂々と『仕事をしろ』と、命令している様なものだ。そこで、ずっと黙っていた東が口を開いた。


「威勢が良いのは認めるけど、あまり口を出されると不愉快だな。大体さ、双子の弟が亡くなってるのに悲しくないわけ?」

「貴方は人の話を完全に無視するタイプね。警察にはとことん向いてないから今すぐ辞める事をお奨めするわ。悲しんで涙流してる暇があったら誰が犯人なのかをさっさと突き止めて、目の前に引き摺り出して跪かせ、一生下僕として扱いながら心の底から謝罪させる為に決まってるからよ。その方が余程建設的。そうでしょう? ここまで言わないと理解出来ないお馬鹿さん?」

「なっ‥‥‥!」


 そう言われて、やっと気付いた。この人物は悲観するよりも、怒りを行動力に、変える。表情に現れていたのは歴とした、犯人への憎悪。


「これ以上馬鹿にされたくなかったら、時間はもっと有効に使いなさいな。」


 この人物には、躊躇いという物が無い。








「鶏肉、玉葱、大根、ほうれん草、鰹節、味噌、醤油‥‥‥?」

「は?」


 三笠サンは手にした一枚の紙を広げて読んでいた。


「いえその‥‥‥被害者が手に持っていた紙に書いてあるんですけど。買い物メモか何かでしょうか?」

「確かに夕飯の支度を頼んだけど。‥‥‥この材料で一体何を作るつもりだったのかしら?」


 彼女は暫し腕を組みながら考えていたが、急に台所へ行き、冷蔵庫の冷蔵室を開けた。次に野菜室。冷蔵庫を粗方調べ終えると、次に開けたのは調味料を仕舞ってある棚。


「有りますね。」

「そうね、全部有ったわ。」


 彼女を横から見ていた私が、リストに載っていた全ての食材を確認した。


「それに一応希望は聞いてくれていたみたいだし。」

「何かリクエストでもしたのですか?」

「親子丼。何だか昨日急に食べたくなったのよ。」

「そう言えば卵はいっぱい有りましたね。」

「推測するに‥‥‥親子丼、ほうれん草のおひたし、大根の味噌汁‥‥‥かしらね? あらいやだ、考えたらお腹が減ってきたわ。」


 後にして下さいね、と一応釘を刺した。解ってるわよ、と返って来たが、一体どの程度理解して貰えたのかは解らない。


「兎にも角にも。逸樹は買い物をした後に殺害された、って事ね。材料は揃っているんだから。」

「‥‥‥犯人が買い揃えたりとかは?」

「あり得ないわ。私も含め、犯人は逸樹が何を買うつもりだったのかは知らない筈だもの。」


 買い物メモが被害者の手の中にある以上、犯人がそれを知る術は一つだけ。被害者の買い物最中に接触しない限り無理だ。


「買い物時に被害者と一緒にいた人物が居ないか聞いてきて。」

「は、はい!」

「よろしくー。」


 裏を取る為だろう。東が先程依智を連れてきた刑事に命じる。何故自分で行かないのかと思ったが、それは私も同じなので言うのは止めておいた。


「ま、それは留意するとして。三笠サン、凶器は判ります?」

「うーん‥‥‥先の尖った杭の様な物ですね。遺体にある傷口の損傷がかなり大きい。」

「?‥‥‥刃物ではないと?」

「ええ。」


 そんな会話が為されている間にも、まだ容疑者から外れていない筈の依智は、戸棚を漁っている。シンク下の扉も開けて確認している。‥‥‥現場保存が。


「‥‥‥うーん、有るんだけど無いわね。」

「え?」


 そう言って今度は逸樹の私物を漁っている。何なんだ?

取り出したのは財布‥‥‥いや、レシート?


「‥‥‥今日の午後3時27分、ですか。」

「そのようね。でも私が確認したのは時間じゃないわ。」

「じゃあ何を、」


 言い掛けた私の目に飛び込んできたものは、あまりに有り得ない、それ。


「たった一枚のレシートでも、証拠品にはなるかしらね。」

「これは一体‥‥‥?」

「あら知らないの? 若い人には馴染みがないのかしら。」


 私よりも若い貴女に言われたくは無いのですが。言えば倍にして返されそうだったので言えなかった。








「連れてきました!」

「ん?」


 刑事が連れて来たのは三人だった。そしていずれの人物も被害者と前から面識があるようだ。


「成程ねえ‥‥‥やっぱり。解ったわよ、犯人。」

「え? この中に居ると?」

「居るわね。うっふふふ‥‥‥。さあ、どう料理してやろうかしら?」


 背筋に悪寒が走ったのは、言うまでもない。







「‥‥‥‥‥‥。」

「あらどうしたの?」

「百歩譲って俺を被害者にしたのは許す。だがイチが事件を解決するのは気に食わない。」

「何故? 不甲斐ない警察の代わりに解いてあげたのに。くすくすくす! ついでにイツキも生き返った事だし、素麺でも茹でて貰おうかしら。」

「何なんだこの茶番‥‥‥。」


 ふん、と鼻を鳴らして横柄な態度を取る。いつも通りだった。


「さ、当ててみなさい。犯人と‥‥‥殺害方法。」

「容疑者の判別も儘ならないのにか?」

「可能よ。いい加減に学習して頂戴。あまり私の機嫌を損ねると、またヒント出さないわよ? 保証がなければ推理しない気? ま、いいけど。どうせ誰にも解けやしないわ。私以外にはね? うふふふふあはははは! 皆この警察と同じね! 究極の愚鈍だわ! そしてさっさと推理放棄して跪づいて、『答えを教えて下さーい』って言えば良いのよ! あははははははっ!」

「ヤベ、切れやがった‥‥‥!」








なっがーいイチの台詞に付き合わせて申し訳ない。

でも最後なので大目に見て下さいまし。

一旦此処で区切りますが、いつの間にか話数が増えてるかも知れません。


ではではヒント。


・ポイントは凶器。これが解れば解けたも同然。

・容疑者の数も立派なヒントですよ!

・あれ、ひょっとしてこの話、若い人には不利じゃね?


以上です。

読んで下さってありがとうございました!






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