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ノーヒント

どうせ本文中に全部書いてあるんですし、頭の良い皆様なら必要ないですよね。

ええ、どうせ簡単ですし、ついでに短いですしね!


ね?






 ぎらぎらと照り付ける日の光を遮り、出来た影に身を潜める。幾分か涼しい。


 ばしゃん、と足元に水が跳ねる。イチが手にしていた柄杓から撒かれた物だ。どうやら打ち水をしているのだと推理したが、今度は上半身に水を掛けられる。


「何だよ‥‥‥。」


 と文句を言うと、無言で笑顔を張り付けたイチが、手桶に入っていた水を俺の頭の上で全部ひっくり返した。


「ぶはっ!」

「打ち水終了ー。」


 俺に掛けてどうすんだよ。地面に撒け、地面に。てか打ち水になってない‥‥‥! 


 ‥‥‥だからって何で俺が水を撒き直したんだろう。謎だ。



 イチに頼まれた校正も今日で四つ目。庭から戻ると俺はいつものように卓袱台に身を投げ出してそれを待つ。


「じゃ、いい推理を期待するわ。」

「どうせまたペテンだろ‥‥‥。」

「何か言ったかしら?」

「イイエナンデモ。」







 俺はいつものように学食で昼食を取っていると、いつものように悪友の町屋がやって来て、いつものように勝手に相席される。男の選び方が外見重視で、その上自分自身が中身がない、と言う事に全く気付いていない女共の視線がこちらを向く。正直うざい。

 トレイを持つ町屋の手の指には、多数の装飾が施されていた。食べる時にはとても邪魔そうだと思うのは俺だけなんだろうか。

 ‥‥‥しかしチャラいのは格好だけである事を知っている俺にとっては非常に厄介な存在である。何故中身だけが普通なのか。


「邪魔するぜ富樫。」

「邪魔するなら座るな。」


 即答する。

 この人物に対して「容赦」などという慈悲深い言葉は必要無い。女の敵は滅べ。


「ひっどっ!? 誰も一緒に食う奴の居ないお前の為に来てやってるんじゃねーか。」

「そもそも頼んでない。お前と食いたい女子達と食えば良いだろうに。ほら、あっちにいっぱいいるぞ。」


 俺がこうやって親切にも向けられている視線の方向を促してやっているというのに、こいつはそれに対して目もくれない。


「嫌だ! 俺はお前とが良いんだ!」

「うっわふざけんなよお前うえぇ気持ち悪っ鳥肌立った!」

「そこまで言うか!?」


 本気で鳥肌が立ったのだからどうしようもないではないか。


 町屋は大概何処に行っても女子の視線を浴びるので、コイツといるのはあまりに不条理に過ぎる。

 その女子達からガン見されてる事にいい加減気付け。こいつはもう少し身の振り方を考えた方が良いに違いない。


 そう思うのも、いつも通りだ。


「で、何か用か?」

「いや何も。」


 用がないのに相席するなと一瞬殺意を覚えたが、ここは大人の対応で、「殴る」と言うだけに止めた。どこが大人の対応なんだというツッコミは受け付けないので悪しからず。


「既に決定事項!? いやいや待て待て冗談だって!」


 俺は一度口に出した事は死んでもやり遂げる派なので、今更冗談だと言われて、はいそうですか、とはならない。言った通りに箸を置いてボコ殴りにすべく席を立つ。


「ちょ、頼みます! 本当すいませんでした! だから殴るのはやめて!」

「昼食一週間分で手を打つ。」


 あまりに女々しいので代替条件を出してみる。どうやら以前顔面を殴りつけたせいで女共が寄って来なくなったのを思い出したらしい。


「脅された‥‥‥恐喝だ‥‥‥!」

「自業自得だ、愚か者。少しは反省するがいい。」

「容赦なさすぎだろ‥‥‥。」

「殴られる方が良いなら今すぐそうするが。」

「昼食一週間分でお願いします!」


 折れるのも早い、も付け加えておこう。


「‥‥‥まあ冗談はこれ位にしておくか。」

「(冗談に聞こえない)‥‥‥本題、入って良いか?」

「いつも許可取らないのは何処のどいつだ。で?」

「実は昨日の事なんだけどよ‥‥‥。」


 これまたいつものように、町屋は自分の兄の話をし出した。








 町屋の兄は刑事だ。しかも捜査一課の。親族と言えど弟に情報を漏らすようでは、あまり優秀とは言えないだろう。‥‥‥まあ兄弟揃ってチャラい格好してるしな。当たり前か。


 被害者は昨夜十時頃家族にコンビニへ行くと行って家を出て、それきり戻らなかったらしい。被害者も大人なのでその辺で飲んでいるんだろうと思い、家族もそこまで気に留めなかったと言う。


「被害者は日常的に良く飲む方なのか?」

「らしいぜ。」

「成程。」


 発見されたのは翌日の朝方、登校時間中の女子高生により河川敷で発見された。既に首が無い状態だったと言う。


「河川敷で首無し死体?」

「いや、まあ‥‥‥首はあったんだ。川の下流に流されてたらしいけど。」

「切られてたのは首だけか?」

「ああ。」


 河川敷で死体なんていつの時代の話だよ、と思わなくもないが、実際そこにあったのだから仕方がない。しかし首だけというのが解せない。


「‥‥‥他に外傷‥‥‥いや死因は? まさか首を切られて、って訳でもあるまい。」

「え、何で解るんだよ?」

「現実的じゃない。」


 生きてる人間に対してそれをやるにはあまりに骨が折れると言うもの。俺は再び死因を問う。


「窒息死だ。他の外傷は特に無かったらしいぜ。」

「‥‥‥窒息死、‥‥‥。次、現場の状況は?」

「死体以外に目立ったものは首を切ったと思われる刃物位だろうな。」


 血塗れの刃物が生々しくその場に置いてあったそうだ。指紋は無く、犯人は手袋等を着けていたと推測された。


「‥‥‥本当にそれ以外何も無いんだな?」

「おお。」

「容疑者は?」

「三人いるぜ。」

「詳細を話せ。」

「慌てるなって。」


 第一発見者で警察に通報した女子高生は、被害者宅の近所に住む知り合い。二人目は被害者の職場の同僚。被害者が家を出る直前に電話をしていた。三人目、被害者の愛人。最近金の回りが良くなかった被害者と揉めていたらしい。よくある金銭トラブル。


「全員にアリバイはない。」

「襲い放題だな。‥‥‥この三人だけか?」

「兄貴はそう言ってたぜ。」

「‥‥‥ふむ。」


 女子高生が遺体を目撃した時の事を訊いてみる。彼女は部活があるので毎日早朝から登校する。故に一人だったらしい。


「遺体を最初に見たのは彼女だけ、か。」

「その所為で怪しまれてるんだろうけどな。」


 次に、被害者の同僚はどんな電話をしたのか訊いてみた。


「『今日は別の用事があって行けないから代わりを頼む』、だってさ。」

「‥‥‥代わり? 用事って何だ?」

「さあなー、そこまでは聞かなかったけど。」


 夜の電話、か。俺は三人目の愛人について訊いてみた。


「どんなやつ?」

「派手目の、化粧の厚い女だよ。良くいるだろ。金に物を言わせてます、みたいな。俺はああいうのダメだな。どうせ同じ美人ならサッパリ系が良い。」

「お前にも苦手な女が居たとはな。驚きだ。」

「何であんなのが良いんだかねえ‥‥‥。」

「‥‥‥‥‥‥。」

「な、何だよ?」

「これ以上首を突っ込むな。俺はこの話降りる。」

「は?」







 おいこら待てよ。


「ここで終わってるし!」

「終わりよ。」

「短っ! 最短だよ何だよこれは!?」

「その代わり簡単だから。さ、犯人当て頑張ってね。」


 イチは俺の叫びをスラリと交わす。ついでに、ああ忘れてた、なんて言いながら麦茶を飲む。


「簡単過ぎるからノーヒントで良いわよね? くすくす。」

「ちょ、待て待て! ヒント頼りの読者を試すなって!」

「嫌よ。イツキも答え解っても言うんじゃないわよ。」

「あ、有り得ねえ‥‥‥!」









ほらね、もう超簡単ですよ!

他のに比べたら随分素直に作り過ぎてますよ!


と言うわけでタイトル通り、ノーヒントです。

さくっと犯人当てちゃって下さい。

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