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3 街へ

いつかどこかの二人 <3>





















 今、少女と青年がいるのは街へと続く道。

 周りには昼前ののどかな田園風景が広がっている。ちょっと先にはぽつりぽつりと民家

が立ち並び、更に少し目をこらせば街を取り囲む防壁が見えてくる。

 二人が立っている道はレンガで造られており、しっかりと整備されている。その幅は

大きく、馬車を二台並べても十分余裕があるほどだ。

 よほどの交通量があるのだろう。今も二人の脇を何人かの人が通り過ぎていった。まだ

街からかなり離れているのにこの人通り。もっと近づけばその数は雪だるま式に増えてい

くに違いない。

 街への出入りが頻繁にあるという事は、それだけで賑わっているという証拠だ。

 少女はそんな道の真ん中で立ち呆けていた。

「なに……これ」

 目を丸くし、放心したように呟く。

「ああ。すぐそこの街へ向かってる行商人達だよ。ほら、ずっと向こうに見えるでしょ」

 「行商人?」と少女は聞き返し、青年は「うん」と頷き返した。

「そんな……こんなたくさんの人が? い、いくらなんでも入りきれるわけないじゃない。

 そ、そうだわ。きっと何か国を挙げてのお祝い事でもあってるのね。だから一時の間

 だけ人が集まってるのよ。うん、そうならこれだけの賑わいも分かるわ」

「残念、はっずれー。正解は市。皆で集まって露店を出してるんだよ。

 あそこは市が盛んだからね。毎日あんなものだよ。かくいう僕も2回くらい露店を出し

 たことがあってね。ああいう大きな街だと商人ギルドとかが商売を取り締まってるのが

 普通なんだけど、あそこの領主さんがまたすごい人でね。なんと一切のギルドを追放し

 て誰でも自由に店を出せるよう取り計らってくれてるんだ。まあそれでも多少のルール

 はあるけどね。それでも他の街より破格の条件で店が出せるんだよ。しかも街への出入

 も簡単な検査で済むし。だから、あの街では結構な商人が集まってきているんだよ」

 青年が人差し指を立てて得意そうに少女に説明する。

 少女は半ば上の空でそれを聞いてた。

「え、でも、嘘。だって、そんな……毎日?」

 少女の目があちこちにさまよう。

 何が信じられないのか。少女は見るからにおろおろとしていた。

「やだなぁ。こんなのまだまだ序の口だよ。かの大国アスリア連合国の首都や商都なんて

 この比じゃないよ。もうメインストリートには人で溢れ返ってるくらいだからね」

「……」

 何か恐ろしいものでも目の当たりにして慄くように、少女の瞳はかつてない不安で揺れ

ていた。

 そんな少女の姿を見ながら青年は少し考えていた。

 どうやらこの少女は今までこれほどの人が一箇所に集まる光景を見た事がないようだ。

 共に旅を続けてもう2ヶ月になろうとしているが、未だ青年は少女の事をろくに知らな

い。

 見たところ、13から15くらいの年だろうか。ひたすら西へ向かう少女の一人旅。

 『騎士』の力を持つ少女。

 非常に価値のある年代ものの骨董品を持つ少女。

 まるで生活能力がない少女。

 金銭感覚や一般常識がどこかズレている少女。

 とりあえず、こんなところだ。

 田舎の村娘というには高額の骨董品の存在が否定する。

 世間慣れしていないのは、ほとんど外の一般民衆と接したことがないからか。

 どこか深窓の令嬢。それが青年のつけた見当だ。

 しかし、そうなると今度はその令嬢が何故一人で、こんな所を出歩いているのか。

「……ふむ。家出、というには妙だし。誰かと駆け落ちしたが、金の切れ目が縁の切れ目

 で男に捨てられたとかいう線も……」

 やっぱりそれはないか、と一人結論付ける。

 なんというか、そんな甘酸っぱい雰囲気ではないのだ。どちらかというと、もっと殺伐

とした感じを青年は少女から感じ取っていた。

「ん?」

 突然青年は何か引っ張られるような感じがした。まさかと思い、目だけでこっそり横

を伺うと、小さな手が自分の服の裾を握っているのが見えた。

「おやおや」

 思わずほほえましくなる。

 握っていたのは隣の少女だった。それも、おそらく自分では気づいていないのだろう。

目は相変わらず道を行きかう人々とその先の街を忙しなく行き来していた。

 不安げな少女のその表情は、まるで見知らぬ地に置き去りにされた子供のようだった。

 だからだろう。無意識に何か拠り所を求め、それが近くにいた青年だったというわけだ。

「さ、街に行くんだよね。僕達もそろそろ行こうか」

「あ……ま、まって」

 青年は敢えて少女が自分の服を掴んでいる事に気づかないフリをして、そのまま少女を

連れて街へと街道を進む。

 少女に今の状況を指摘すれば、まず間違いなく少女は手を離し、青年から距離を置くだ

ろう。

「ま、もったいないからそんなことしないけどね」

 一時心が不安定になっているからとはいえ、ちょっとのことでも頼られるのは好ましい。

 青年は「気づかれるまではこのままでいるか」などと心の中で鼻歌を歌い、そして少女

が気づいたその瞬間の事を想像して一人忍び笑いをする。

「きっと凄い顔で睨んでくるんだろうなぁ。ああ怖い怖い」

 などと、ちっとも怖くなさそうな顔で頭を掻く。むしろ、その時が楽しみと言わんばか

りだ。

 束の間の小さな温もりを胸に二人は人々の間を縫って街へと向かう。

 その様子はまるで兄妹のようだと行きかう人は思ったことに違いない。











     了






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