第四夜 シマエナガの無垢なる瞳
カチャリ……
戸を開けて現れた菖蒲は羞恥で頬を真っ赤に染めている。
それもそのはず。
一番マシと選んだメイド服は、明らかに生地が薄い上に妙に体にへばりつく。
その結果出るところが出すぎて、引っ込むところが引っ込みすぎていた。
つまりムッチムチである。
清楚なメイドには程遠い。
明らかに大人のコスプレ用。
膝上よりずいぶん高い位置にあるスカートを全力で引っ張る意地らしい姿が、かえって世の変態紳士な殿方たちを喜ばすであろうことを菖蒲は知らない。
白いニーハイとガーターベルトの食い込みが、紳士たちの大好物であることも……
「うん。よく似合っているよ?」
「ちっとも嬉しくありません……」
「くるって回ってごらん? 命令だよ?」
菖蒲は「うっ……」と言葉に詰まりながらもくるりと回った。
スカートが膨らむ。心臓が縮む。
しかし命令した当の本人は何を気にする様子もなく「うん! やっぱり似合ってる!」などと宣うものだから始末が悪い。
おまけに無垢な黒い瞳からは下心が全く感じられなかった。
そうかと思えば蒼馬は俯きクククと肩を震わせ、やがて声を出して笑いながら言う。
「ははははは……! なんだその恰好⁉ おい女……! お前変態だったのか⁉」
その声は一真のそれだった。
「ち、違います……! これが一番マシだったんです……! その……蒼馬さんが持ってきてくれた服の中で……」
「ククククク……蒼馬……お前、どこで買ったんだよこの服⁉」
「ネットだよ? お勧めに表示されてたからいいかなーって」
「馬鹿野郎……クク……あれは夜を盛り上げるための衣装だ……ククク……」
「ああーどうりで。でもヒツジさんとっても似合ってるよ? 堂々としていれば問題ない。スタイルだって凄くいいし」
「褒められても嬉しくありませんっ……! てことは、べつにこの服にこだわりはないってことですよね⁉ なら普通の服を……!」
菖蒲が縋るようにそう言うと、蒼馬は漆黒の瞳を細く曲げ、唇を邪悪に歪めた。
その目には残虐で冷たい、青い焔が揺れている。
「だーめ♡ 僕はそれが気に入った! ヒツジさんが慌てる姿もなんだか心地いい感じがする! 服はそれに決定!」
「そ、そんなぁ……」
「あきらめろ女。こいつはニコニコした面からは想像できないくらい性格が悪い。そのうえ拗ねると性格の悪さが百倍になる。運が悪かったと思っておとなしく従っとけ」
最後の言葉の後、わずかに肩が震えたのを菖蒲は見逃さなかった。
「失礼だなあ兄さんは。さて、それじゃ着替えも済んだし、さっそくお仕事に参りましょうか……ヒツジさん?」
「はい……」
こうして菖蒲は羞恥を身に纏ったまま、蒼馬に引かれるようにして屋敷をあとにした。
そして思い知ることになる。
これから足を踏み入れる暗闇の広さ深さを……
表通りからほんの僅かに逸れた処に存在する、現実の惨憺たる有様を。




