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ヒツジさん! この先【奇怪領域】です!  作者: 深川我無@書籍発売中
【奇怪領域】です!

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第二十八夜 高い塀の家 ⇄ 遊園血19


 不幸のリボ払い……

 

 陰惨な景色と真面目な空気に、その単語はひどくそぐわない。

 

 その証拠に一真はピキピキと表情筋をひくつかせている。

 

 蒼馬はというと真面目な顔で何かを考え込む始末で、それはそれで嫌な予感しかしなかった。

 

「馬鹿かお前は?」

 

 微妙な空気を破って最初に口を開いたのは、意外なことに一真だった。

 

「死ぬよりヤバい不幸をリボ払いだ? 借金地獄でこんな目に遭ってる奴が、さらに借金増やしてどうすんだよ?」

 

「だから使いたくない裏技なんですよ……! おばあちゃんも絶対使うなって……でも、このまま何もせずに、黙ってられじゃないですか……‼」

 

「はあ⁉」

 

 突然目に涙を浮かべて噛みついてきた菖蒲に、一真は呆れ顔でそう言った。

 

 それでも菖蒲の言葉は堰を切ったように溢れて止まらない。

 

「だって……こんなの無茶苦茶です。そりゃあ私はこんな現実、今まで想像したこともなかったですよ……でも、それはわたしが甘いんですか⁉ 悪いことや、酷いことする奴がのさばってるのが普通なんですか⁉ わたしの不幸体質でも大概だって思ってたのに、それ以上のこんな不条理……認められるわけないじゃないですか⁉ 知っちゃったんだから、見逃せるわけないじゃないですか⁉」

 

「ゲロ女……」

 

 そうつぶやく一真の後ろで、蒼馬はクスクス笑っていた。

 

 それがまた、彼女の火に燃料を注いだらしく、気が付くと菖蒲は一真の胸倉を掴んでいた。

 

「ゲロ女じゃないし……変態でもない! わたしのリボ払いで一真さんのこと守ったら、これからは幸運の女神って呼んでもらいますからね⁉」

 

「は……上等だよ。そこまで啖呵切るなら止めやしねえ。あとで泣き見ても知らねえぞ?」

 

 そう言って菖蒲を見下ろす一真の口元が笑っている。

 

 菖蒲は初めて自分に向けられた一真の笑顔に驚いた。

 

 同時に、先ほどまでの威勢が一気にしぼんで、途端に不安が襲い掛かってくる。

 

「あ、でも、もし他にもっといい方法があるなら……わたしの意見を通したいわけじゃないんで、その……」

 

 土壇場で尻込みする菖蒲を蒼馬が冷たい微笑を浮かべながら追い詰める。

 

「いいや。それ以外に方法はないね。それで行こうよ? ヒツジさんのいう不幸のリボ払い、実際にどういう風に作用するのか教えて欲しいな?」

 

「安心しろ。蒼馬がそう言うってことは勝機があるってことだ。分かってること全部吐け。ゲロ女」

 

 二匹の猛獣に壁際まで追い詰められた哀れな生贄羊(スケープゴート)は、二人の邪悪で嬉しそうな笑顔に半泣きになりながら悲鳴をあげた。

 

「ひぃぃぃぃいっ……⁉」

 

 この兄弟……やっぱり兄弟だ……

 

 外見は正反対なのに……どっちも筋金入りの鬼畜……!

 

 菖蒲は観念して泣く泣く裏技の説明を始めた。

 

 うう……本当は教えたくないのに……

 

「まず、不幸が来る前に、頭の中で音がするんです……その時にそれに対処できれば不幸を回避できます。ウンチを避けたり……」

 

「……踏んでたじゃねえかよ?」

 

「…………回避できるほど俊敏じゃないんです。だから、お二人の力で回避可能な不幸は、今回も回避できました。不幸は確定じゃないんです……」

 

「なるほどね。実力で不幸は回避できる。でもヒツジさんには回避できる実力がないから意味がないと」

 

「はい……悔しいけどそうです。それに回避不能な不幸もあります。コンビニのおにぎりに具が入ってなかったり……」

 

「マジで言ってんのか⁉」

 

「マジですよ⁉ ぜーんぶ大マジですがなにか⁉」

 

「今度買ってあげるね♪」

 

 菖蒲は大きくため息をついてから、本題を切り出した。

 

「ここからがリボ払いの本題です……リボ払いは先に期間を決めます。例えば音が聞こえた瞬間に1年……! って思い描くんです……そしたら、その時免除された不幸を利息付きで一年間均一に支払う羽目になります……今回は死ぬほどの不幸なので、期間は60年払い……寿命を超えた期間の設定は出来ません」

 

「ほう? 随分詳しいんだな」

 

 一真が訝しがるように目を細めて言った。

 

「はい……おばあちゃんも同じ体質でした。女筋に伝わる体質だって……それともう一つ、キャパ越えすると、その場で不幸が炸裂します。だから、お二人には対処可能な不幸を排除して頂きたいんです……」

 

「ふふふ。だってさ。頑張ってね? 兄さん」

 

「うるせえ。最初から完全にアテになんかしてねえよ。そのつもりだ」

 

 こうして三人は菖蒲を先頭にして小さなトンネルの前に立った。

 

 この時菖蒲はまだ、自分に訪れる不幸の大きさをまるで分かっていなかった。

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