第十七夜 高い塀の家 ⇆ 遊園血8
蒼馬が遊具のゲートをくぐると、突然電力が復旧して楽し気なメロディーが流れ始めた。
曲の合間合間には陽気な声でアナウンスが入る。
「さぁ~みんな! カップの準備はできてるぅ~? どれに乗ろうか迷っちゃうね⁉」
菖蒲と一真も蒼馬に追って錆びた鉄のゲートを潜り抜けた。
すると突然どこからともなく、キャハキャハと子どもたちの声が聞こえてきた。
驚いた菖蒲が振り向くと、腰のあたりを無数の子どもが駆け抜けていく。
体のあちこちが欠損した子どもたちが……
「ひっ……」
あるものは失った足を松葉杖で補い、あるものには腕が無い。
またあるものは一見すると普通だったが、よく見ると指が一つもなかった。
「なに……これ……?」
子どもたちは我先にと、他の子どもを突き飛ばし、蹴落とし、引きずり降ろして、目当てのカップに乗り込んでいく。
異様な光景に固まっていると、菖蒲の短いスカートを何者かが引っ張る感触がした。
咄嗟にそこを払ってスカートを押さえつけると、足元に一人の少女が立っていた。
両目に包帯を巻いた少女。
包帯には、眼孔の形に血の跡が滲んでいる。
「ねえ、お姉ちゃん、急がないとカップ無くなっちゃうよ?」
少女はニタァと口を開いて言った。
菖蒲は再び戦慄する。
なぜなら白い歯が覗くべき口内には歯が一本も生えておらず、代わりに血の混じった唾液が昏い洞窟から垂れ下がる菌糸のように糸を引いていたから。
思わず後ずさりしたその時だった。
がしゃぁあん……と音がしてゲートが閉まる。
同時に遊具の屋根から格子状のシャッターが下ろされ、菖蒲たちは遊具の中に閉じ込められてしまった。
「さぁ~みんなカップを選んだかなぁ~? 当たりのカップは一つだけだよ? 外れを引いた悪い子には、お仕置きが待っているからねぇ~?」
子どもたちの様子と、我先にと走っていた姿、そしてお仕置きという言葉……
それらが繋がり、一つの答えが菖蒲の脳裏に浮かび上がった。
当たり以外のカップに乗ると、子どもたちみたいにされるんだ……
目と歯の無い少女はニィと微笑み、カップの方に走っていく。
菖蒲は蒼馬と一真に目をやって言った。
「どうしましょう……⁉ もうカップは一つしか残ってません……」
ギュウギュウ子どもを乗せたカップたちの中に、たった一つだけ空のカップが取り残されていた。
それを見つめた瞬間、菖蒲の背筋にゾクゾクと悪寒が走る。
アレはだめだ……
アレだけはいけない……
とんでもない不幸の気配がする……
誰かが死ぬ時にだけ感じる特別な気配。
避けられない死の気配……
怖気づく菖蒲をよそに、蒼馬はいつもの涼しい顔で空のカップに向かっていった。
「これに乗ってください……って感じだよね?」
菖蒲は咄嗟にその腕を掴んで引き留めた。
「だ、ダメです……アレだけはダメ……」
「どうしてえ?」
蒼馬は子どもの様におどけた声を出して言った。
「アレはとっても不吉な……邪悪な気配がするんです……乗れば生きて帰れないような……」
いつの間にか子どもたちは菖蒲たち三人をじっと見ていた。
その誰もが抑えきれない好奇心と狂気に目を輝かせ、無邪気で邪悪な嗤いを押し殺しながら、指を咥え、口を手で覆い、今か今かとカップに乗るのを待っているようだった。
けれど、そこにいる誰よりも、邪悪で残忍な笑みを浮かべた者が、菖蒲に向かって優しい声で囁きかける。
「それならね……? 一番安全そうなカップを教えて……? 僕が行って、そのカップを空にしてきてあげる。そうすれば、まだ生きている僕らは死なずに済むよね? 僕らの為に、教えてほしい。それで何が起こったとしても、ヒツジさんは悪くないよ?」




