第十一夜 高い塀の家 ⇆ 遊園血2
うずくまる菖蒲の肩に手を置き蒼馬は微笑んだ。
そんな蒼馬を菖蒲は半べそをかきながら恨めしそうに見上げて言う。
「出口はあるんですか……?」
「もちろん。こんなところで生涯を終えるつもりはないよ? 安藤とその妻を探す。二人を見つけ出して、契約者を殺せばここから出られる」
「わたしは何をすれば……?」
菖蒲は涙を拭いて立ち上がった。
こうなったらやけくそである。
うずくまって泣いていても事態が好転しないことは嫌というほど知っていた。
不幸に対する最大の防御は止まらないこと。歩き続けること。
「ふふ……そうこなくちゃ」
蒼馬は果てしなく続く遊園地の彼方をぐるりと見渡した。
菖蒲もそれに倣って遠くに目を凝らしてみたが、延々と繰り返される遊具の羅列に意味を見出すことが出来なかった。
同時に蒼馬の黒い瞳が何を見ているのかも想像することさえ出来なかった。
「ヒツジさん今から僕とをデートしよう」
「えっ……」
露骨に嫌な顔をする菖蒲を見て蒼馬がクスクス笑う。
「なら一人で回るかい?」
「うっ……それは……」
「嫌ならお願いしてごごらん? 僕からの誘いを断った罰だよ?」
菖蒲は仕方なく小さな声で蒼馬に言った。
「一緒に回ってください……」
意図的にデートと言う言葉を避けて言うと、蒼馬がにやりと笑った。
まるで菖蒲の心を見透かすように蒼馬は意地の悪い笑みを浮かべて見下すように言った。
「うーん……どうしてだろう? ちっとも一緒に回りたくならないなー?」
ひぐっ……
蒼馬の意図が嫌ほど伝わり、菖蒲は泣く泣く頭を下げて手を伸ばす。
「どうかわたしと遊園地デートしてください……」
「喜んで♪」
蒼馬はその手を取って指を絡めながら言った。
つないだ手の甲を人差し指で撫ぜられるたびに、菖蒲の背骨に正体不明の電気が走る。
ひぃん……
なんかこの電気、芯に来る……
菖蒲はそれを意識しまいと蒼馬に尋ねた。
「それで……わたしは何をすれば……?」
「行きたいところを言ってくれればいい。まずは何に乗る?」
「の、乗るんですか……? ここの遊具に……?」
「遊園地……いや《《遊園血》》デートなんだから、アトラクションに乗らないと話にならないでしょ?」
菖蒲はあたりを見回し脳味噌をフル回転させた。
今にも崩れそうなジェットコースターのレールの上では、厭にリアルで気持ちの悪い子供の顔が張り付いた乗り物が、不吉な音を立てて上空を走っている。
危険な遊具は論外……
かといって……
次に目についた観覧車を眺めて菖蒲は頭を振る。
恋人っぽいアトラクションは別の意味で危険すぎる……
ちらりと見上げると蒼馬は悩む菖蒲を見下ろしながらニコニコと笑っていた。
うぅ……
無駄にイケメンすぎるのが余計にまずい……
何か……何か安全そうな遊具は……?
二つの脅威から身を守れそうな遊具は……
その時菖蒲の目に一つの遊具が飛び込んできた。
「あ、あれにしましょう! コーヒーカップ! あれなら安全そうです!」
「仰せのままに」
その時蒼馬の顔に浮かんだ不吉な笑みに、菖蒲は気が付かない。
菖蒲は蒼馬に手を握られたまま、ひび割れと欠けだらけの不気味なコーヒーカップに向かって歩き出した。




