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雪は嘉月を俟って散る。  作者: 不知火螢


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3/4

 その日の夜は、それはそれはひどい吹雪でした。風も強く、がたがたと家の扉を鳴らしていたのですが突然、風がぴたりとやみました。


「――セツ」

「……おっかぁ」


 びゅーびゅーと吹いていた風が突然やみ、その直後にセツの家の戸が開きました。

 腰まである真っ黒な髪をそのまま流し、白の着物一枚だけ羽織った美しい女性がセツの家にやってきました。

 その女性を見てセツは驚きました。その女性は、セツの母親だったのです。


「……セツ、最近、村の外から来た男に心を奪われているようね」

「おっかぁ、その……」

「あぁ、違うのよ、セツ。母はそのことを責めたり、怒ったりはしません。むしろ、母はそのことを歓迎しましょう。母はお前が、お前の父親同様、人として生きてほしいのです。だからこそ、幼いお前をこの村に残して母は山へと去ったのです。母といては人として生きていくことはできません。お前の半分は母と同じ、雪女。ですが、もう半分は父と同じ人なのですから……」

「おっかぁ……」


 セツの母は雪女で、この山の主だったのです。


「セツ、お前が誰を選ぼうと、どう生きようと母は干渉しません。ですが人は時に思いもよらぬことをする生き物です」

「……あの人は、違うよ」

「そうかもしれません。そうじゃないかもしれません。ただ、覚悟だけはしておきなさい」

「覚悟……?」

「えぇ、覚悟です。春になれば、おそらくあの男は旅立つでしょう。或いは、あの人のように……」

「……おっかぁ?」


 セツの母は、一度目を瞑ってからゆっくりと首を振りました。

 あの人って、おっとぉ?

 そう聞きたかったセツは、母親のあまりにも悲しそうな顔に何も言えなくなってしまいました。

 そして、目を開けてセツの目をじっ、と見つめてこう言いました。


「いいえ、なんでもありません。セツ、これだけは覚えておきなさい。あなたは雪女と人の間の子。今はまだ完全な雪女ではありません。ですが、一度でもその力に目覚めると、もう二度と、人として生きることはできません」

「それはつまり、おっかぁのように、山で生きる、ということ?」


 雪女とは、冬の山でのみ生きることのできる存在。冬の山では絶対的な存在ではありますが、それ以外の季節は山で眠っているのです。

 カゲツと一緒に生きたいのであれば、セツは人として生きるしかありません。


「そうです。ですから、あの男と生きたいならば何があっても決して、力を使ってはいけませんよ」

「……うん」

「あぁ、セツ。私とあの人の愛しい子。母はいつでもあなたの味方ですよ。どうかあなただけは、幸せに……」


 次の日の朝、セツはいつものようにカゲツに会いに行きました。二人がこうして会うようになってから既に二ヶ月が経とうとしていました。


「……カゲツは、春になるといなくなるの?」

「え? うーん……最初はそうしようと思ってたけど、最近は悩んでるんだ。セツは、この村から出るつもりはないんだろう? お母さんが、山にいるんだっけ? お母さんを一人残していくのは心配だもんね」

「……うん」

「じゃあ、僕もこの村に住もうかな! もともと、旅をしていた理由は特にないんだ。ただ、自分の生まれた村の外を見てみたかっただけで」

「カゲツ、春になっても、この村にいる?」

「うん、そうしようかと思ってるよ」


 カゲツがにっこりと笑い、セツも嬉しくなってにっこりと笑いました。

 その笑顔をみて、カゲツは顔を赤くさせました。


「あーもう、可愛いなぁ!」

「わっ!」


 カゲツはセツを抱きしめました。セツの体があまりにも冷たくて一瞬だけ体を固くしましたが、すぐに何もなかったようにより一層、力を入れて抱きしめます。


「ねぇ、セツ」

「なに?」

「僕は、セツが大好きだよ。だから、忘れないで。僕は、いつでもセツの味方だから」

「……カゲツは、おっかぁと同じこと言うんだね」

「セツのお母さん?」

「うん。昨日、おっかぁがきて、言ったんだ。いつでもあなたの味方だから、って」

「そっか……うん、なんだか勇気が出てきたよ」

「勇気? なんの?」

「んー、内緒!」



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