3話 居場所
入学式から一週間で、透には居場所ができた。
初回授業のオリエンテーション。
見慣れない教室と、ぎこちない空気。名札をつけたままの学生たち。
そんな中で同じグループになった三人——後藤美咲、大野拓海、高瀬栞。
学食。帰り道。休日。
気づけば四人でいるのが当たり前になっていた。
昼休みの学食はいつも騒がしい。
皿と箸の音。うどんの湯気。誰かの笑い声。
透はその中でいつもの席に腰を下ろした。
「今日の三コマ目、ガチでめんどいわ」
大野がカツ丼をかき込みながら言う。勢いがいい。
噛む、飲み込む、喋る。その全部が一秒以内で起きている。
「わかる〜」
後藤が頬を緩めてスプーンを口に運ぶ。
彼女は“同意”が上手かった。しかも押しつけがましくない。
うなずき方だけで相手の気分をよくさせる。
「でもさ、あの教授の話し方って眠くなんだよな。内容はいいんだけど」
「え、私は好き」
高瀬がさらっと言った。
声音は静かで目線もぶれない。聞く姿勢そのものが落ち着いている。
「落ち着いて聞けるし。沖縄の文化ってけっこう興味ある」
「……確かに面白いよな」
透も素直にうなずく。
眠くなるのも事実だけど、退屈ではない。
やたら長い話の中に時々はっとする単語が混ざるのが好きだった。
「ほらな、高瀬はそう言うと思った」
大野が笑って箸で空中を指す。
「いや、なんでだよ」
「だって高瀬、なんか“文学部”って感じするし」
「どういう意味よ」
高瀬は口ではそう言いながらも怒ってはいない。
その温度差がまた面白くて透は思わず笑った。
——ここ数ヶ月受験勉強で忙しくて、こんなふうに笑うのも久しぶりかもしれない。
透は急にそう思う。
大野拓海は明るい。うるさいと言っていいくらいに。
声がでかくて身振りもでかい。
ただ不思議と嫌味がない。空気が単純でまっすぐだ。
サッカー経験があると知った瞬間、距離が縮まった。
それだけで“仲間”扱いされるのは正直ありがたかった。
後藤美咲は中心にいる人だった。
本人にその自覚があるかは分からないが、自然と輪の真ん中に立つ。
一緒に歩いているとやたら声をかけられる。
「みさきー! 今日さ〜!」
「後藤! サークル入る?」
「美咲ちゃん、インスタ交換しよ!」
そのたびに後藤は笑って応える。
断り方すら柔らかい。
高瀬栞は少しだけ違う。
最初に会ったとき透は年上だと思った。
背筋が伸びていて言葉が少なく、表情が変わらない。
大人びているというより“自分のペース”が最初から完成している感じだ。
「高瀬ってさ、ほんと落ち着いてるよな」
大野が言うと高瀬はカツ丼の器をちらっと見た。
「また悪口?」
「いや、今のは普通に褒めてる」
「じゃあ、ありがと」
高瀬はそう言って少しだけ口元を緩めた。
その“少し”に透はなぜか安心する。
四人でいると空気が丁度いい。
大野が前に出て場を回す。
後藤がうなずいて空気をつなぐ。
高瀬が冷静にまとめる。
透はそれを横から見ながら時々言葉を足す。
透にとってちょうどいい距離だった。
——このまま、ずっと続けばいいのに。
その時は本気でそう思っていた。
ふと顔を上げると美咲と目が合った。
最近、妙に目が合う気がする。




