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強制ボスエンカウント

翌朝。

何故か目元に隈を蓄えたご主人様と一緒に、街中をぶらつくこと数分。

新種のモンスターのパートナーは、自身のモンスターを研究所に登録しなければならないという義務がある。


だから今は、研究所があるマルデンブルクの中央へと向かっていた。


途中、目をシバシバさせていたので心配になり、体調が悪いのかとおでこで熱を測った。その瞬間に真っ赤になって倒れてしまったので、慌ててスライムの【微再生】をご主人様に付与し、近くのベンチに座らせた。


暫くして元通りになったが、未だに顔が赤いままである。


「うぅ、もうお嫁に行けない……」


「きゅきゅ?」


何言ってるんだろう。どう考えても引く手数多だろうに。

赤い顔したご主人様の手を引きながら、今回行く研究所へ想いを馳せる。


懐かしいなぁ、俺もゲームでモンスターを登録するミッションがあって、何度もお世話になっている場所だ。

特に受付のお姉さんがかわいい。二次創作で竿役にゲフンゲフンされがちだ。


電車に揺られながら外の景色を眺めれば、前世の現代都市と変わらない街中が並ぶ。モンスターと人類が共に歩んで来た世界線のため、おおまかな生活水準は変わっていない。スマホもあるしな。


窓から視線を外すと、同じようにモンスターを連れた人達が電車に揺られている。


「んきゅんきゅ」

(うんうん、やっぱり3Rで見た景色そのものだ)


空を飛ぶ亀や仏像のようなモンスター、蝶と魚を足したモンスターに……挙げればキリがない。


だがその中でも、何故か俺たちは注目を浴びている気がした。

さっきからチラチラと見られている辺り、田舎者っぽさがあったのだろうか?すごく視線を感じる。


「んきゅ?」

(なんだ?)


「ぐはっ」

「うっ」

「ぺろぺろしたい」


首を傾げた瞬間、鼻血を出す者や呻き声をあげる者がいた。なんだろう、ちょっと怖い。

皆の目が血走っている気がする……いや、間違いなく血走ってる。


なんだよおい、見世物スライムじゃないぞ俺は。


「あ、あはは……やっぱりこうなったか」


ご主人様は困ったように笑っていたが、そんなに気になるだろうか?確かに俺の格好は際どいロリそのものである。しかし、モンスターなのには変わりない。


そもそもこの程度の格好は、俺の5次進化から比べればまだまだ全然マシだ。


……俺がズレてるのか?

ま、確かに可愛らしさでいえばトップクラスではあるが。


「ワン……」


「んきゅ」


モウガンが呆れたように見つめて来た……なんだ?ん?喧嘩なら買うぞ?

試しにお前のそのモフモフした毛皮を撫でまくってもいいんだからな?

と威嚇すれば、「はぁーやれやれ」と首を振っていた。




───☆




「きゅう〜」

(でけ〜)


電車に揺られること数十分。そこそこ時間をかけて到着した研究所は、ゲームで見た時より遥かに大きかった。


ご主人様もモウガンも大きさに驚いたのかポケーっとしてる。かわいい。

自動ドアを通して中に入れば、同じくモンスターを連れた人達が受付に並んでいた。


空いている受付に並ぶ。

まるで病院の待合室みたいだ。


「いらっしゃいませ、ご協力ありがとうございます」


「んきゅ」


「いえいえ、今日はこの子の登録をしたいなと思って来たんですけど」


受付のお姉さんは俺の姿を一瞥し、少し驚いた表情を浮かべた。


あ、二次創作の人だ!

と興奮する俺を他所に、お姉さんはご主人様をじーっと見つめる、


「……なるほど、申し訳ありません。てっきりそういう趣味の方かと」


「違います」


能面のような表情で否定したご主人様に思わず笑いつつも、案内された部屋に入る。

義務化されている新種モンスターの登録は、モンスターから体液を提供してもらい、データベース上に丁重に管理されるらしい。


採血自体はすぐに終わった。


看護師?らしきお姉さんの胸を眺めているうちに終わったのだ。あまりにも見すぎたため、「あら、気になるの?」と胸を持ち上げられた時は焦った。


危うく「私、気になります!」と言いそうになった。

まぁ、俺はオヘソの下にばっちりモンスターの紋様があるしロリだしで、どちらかというとペットみたいなものだ。触ってもバチは当たらない存在である。

それにどうやっても「きゅうきゅう」としか鳴けないから、相手に意志は伝わらない特別仕様。


……だが、俺は一途である!

愛しのご主人様がいるのに他の女性に現を抜かさない。

可愛いだけじゃなく性格もいいって、もはや最強スライムでは?


まぁちょっとだけ……だいぶ……いやかなり名残惜しかったが、興味ないふりをして診察室を後にした。


べ、別にご主人様の眼差しが冷たかったから、触る勇気がなかったわけじゃないんだからねっ!?


冷えた眼差しで看護師を見つめるご主人様から目を逸らしながら、研究所を後にする。さて、後はもう俺たちのイチャイチャを邪魔するものはいない!


ここからご主人様ルートに入って───なんて妄想に浸っている俺。


その真横を。


「んきゅ……?」


「め、メル!危ない!」


巨大な炎が掠めていった。

地面に着弾した瞬間に、轟音と共に地面が融解する。


……え?今何が起きた?


油の切れたブリキのような動きで炎が放たれた先を見れば、そこには一体の人型──否、モンスター。

しかも、すごく見覚えがある。


「しっぱい、した」


辿々しく零れた“人語”。

氷を思わせる冷たい瞳に、炎のように燃える髪の毛。マグマのように赤い亀裂が入った身体と大きな翼が、その存在感を加速させる。


アレは、ヤバい。


というより、ヤバいのを知っている。

脳内に駆け巡るのは、3Rの無印作品に登場する第三章のボスである“特異個体モンスター”。


生まれた瞬間から人語を喋り、人型の形を取り、この世界に一体しか存在することがない。つまり特異個体のモンスターというのは、他の一般モンスターとはレベルの違う、“公式チートモンスター”である。


そして俺の目の前の女の子にしか見えない彼女こそ、ストーリー上で初めて敵として登場するレベル5かつ特異個体の【紅蓮業火鳥(パイロフォビア)】──“アグニール”だ。


おかしいだろ。なんでこんな強いモンスターがここでエンカウントしてんだよ。ホントならこれからスーパーイチャラブタイムだったんだぞ!?


それにストーリー上ではもっと先で出会うはず……いや待て、ストーリーだって?


「きゅ……」


(確か主人公達と戦う前から、アグニールはラスボスの組織に力を吸収されていたはず……)


思い返せば先程の炎だって、あまりにも威力が()()()()()

レベル5の特異個体が出す炎の火力が、あの程度なわけがない。ゲームで愛用していたモンスターなだけあって、威力に関しては間違いなく覚えている。


つまり、現時点でラスボス達によって力を吸収された後……なはずだ。やっぱりちょっと自信ないかもしれない。


「……うきゅ」


だがそうなると──やっぱりいるのか、ラスボス。それに主人公達がいる可能性もある。


今考えてみれば、やけに暑いなと思ってたんだ。

街の皆もアイスを食べていたり、露出多めの格好をしていたり。何故そこで、コイツの存在に気づかなかったのだろうか。


「メ、メル!!!」


自分の能天気さに自己嫌悪になっていると、涙目になったご主人様が俺の元へ駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫!?あぁ、体が少し焦げてるよ!?……ま、任せて。私が守るからね!」


「きゅ!」

(あ、すき!)


いつまた炎が飛んできてもおかしくないのに、俺の目の前に立って庇おうとするご主人様に心がときめく。

ちょろい訳じゃない。ご主人様がご主人様しすぎてるのが悪いのだ。


兎角、今俺に出来ることはアイツから逃げること。

暫くすればラスボスの組織が捕まえに来て、第三章で操られた状態で対面することになる。申し訳ないが、そこは主人公に任せるとして、今は逃亡優先だ。


それに俺だけじゃなく周囲のモンスターと人間に攻撃しているあたり、力を奪われて手当たり次第に暴れている事が見て取れる。

ならば多分逃げ切れる。きっと。


「きゅっ!!!」


「っ、ちょちょ!?」


「ワ、ワウッ!?」


ご主人様の手を引っ張り、モウガンを触手で手繰り寄せながら一直線に走る。行き先はどこでもいい。逃げられるのなら。


人間とはかけ離れた身体能力によって生まれる凄まじいスピードで、アグニールとの距離をぐんぐん突き放す。これなら追っては来れないだろう。


そう思っていたのに。


「うきゅっ!?」

(お、おいおいまじかよ!?)


視線の先には真っ赤な人影。


「あな、た。かわいいか、ら私の焔で、やいてあげ、る」


いつの間にか目の前にアグニールがいる。手当たり次第に暴れてたわけじゃないのか!?っていうか、強制ボスエンカウントとかクソゲーかよ!


確かに目と目を合わせたが、ここは某ポケットなモンスターゲームじゃないんだぞ!


いつの間にヘイトを稼いでいたのかは分からないが、咄嗟に戦闘態勢に移る。超大幅な弱体化をしてるとはいえ、相手は特異個体のレベル5モンスター。レベル2相当のモンスターでも戦えるか分からない。


だが、それがどうした!

こちとら3Rを低レベルクリアした強者だぞアァン!?

ぜ、全然怖くないんだからなァ!?こ、来いやオラァ!


「む、むきゅっ!きゅうきゅう!」

(い、いつでも来いやぁ!)


となけなしの根性で自分を奮い立たせ、触手で引っ張っていたモウガンを放し、ご主人様もモウガンもどちらも逃げれる状態にしておく。


心配そうな眼差しで俺を見つめるご主人様だが、戦おうとしてるのが分かるのか止めはしない。むしろ止めようとして足手まといにならないようにしているのだろう。


流石俺のご主人様だ。

メリュ子ポイントを一万点あげたい。


無論、俺が生きていたらだが。


「にが、さない」


腹を括ろう。

幸い相手は弱体化してる癖に、暴れることでラスボスの組織を呼び出して殲滅しようとしたアホである。


勝ち筋はきっとある。


「こんどは、あててあげる」


冷たい青色の瞳と俺の視線が交わった。

こういう時、なんて言うか知ってるか?


目と目が合ったら──モンスターバトルだ。

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