元おっさんがロリになるようです
私はヴェスティ。なんのしがらみも囲いもない、ただのヴェスティ。
可愛いものが好きで、いつかはモンスター達を導いて一緒に旅が出来たらいいな、なんて夢を抱えていた幼少期。
そしてその夢を我慢出来ず、とうとう私は家出を決行した。
とても清々しい気分だった。
立場が立場のせいで思うように友人が出来ず、恋人もいない。家族とも良好な関係を築けなかった私はようやく、真の意味での友。つまりパートナーを探す度に出掛けることが出来た。
遠くの町や村を散策し、自分のパートナーを探す毎日。辛いという感情はなかった。
17にもなって今更、という人もいるとは思うが、私にとって年齢は飾りでしかない。夢を追うのに年齢は関係ないんだ。
そして、パートナー探しをして二週間と少し。私はとうとう───運命と出会った。
ぶらぶらと村を見回っていた私は、疲れを取ろうと大きな岩の近くに腰掛けていたんだ。完全に気が抜けていたのは否定しない。
だが、空から私の大好きな可愛らしいモンスターが落ちてきた時は、あまりの興奮で変なことを口走った記憶がある。
かのモンスターはチビスラ。最弱の名を欲しいままにする、初心者御用達のモンスター。
もちろん、私も何度もチビスラを見かけていた。だが、ここまで心惹かれるような個体とは会ったことがない。
彼、もしくは彼女は、自我があるかのように私に飛び乗ったり嬉しそうに鳴いてくれた。
そこが他のチビスラと違って心惹かれた点である。
メンダコと呼ばれるタコのようなフォルムに、愛らしい羽がちょこんと付いたその姿があまりにも可愛すぎて、思わずお持ち帰りしようとしたが躊躇った。
仲間にしたいのは山々だし、恐らくこの子も乗り気だ。
だが断言する。
この子は可愛すぎて──多分、戦わせたくなくなる。
何度でも言うが、私は可愛いもの好きだ。そして好みドンピシャのよく懐くチビスラなんていう、欲望の塊とパートナーになったとして、私はその子に傷ついてほしくない。
間違いなく、特別扱いをしてしまうだろう。
そしてそれはこの子の為にもならない。だから私は、文字通り身がよじれる思いでパートナー契約をしなかった。
適当な嘘と真実を織り交ぜて、体のいい断り方をしたのだ。
だがそれも、今になって思う。
「やっぱりパートナー契約しとけばよかった……可愛かったなぁ」
「ワン?」
リュックからテントを取り出し、一緒に休憩しているモウガンを撫でながら呆然とつぶやく。
モウガンに対して失礼だとは分かっていたが、やはり後悔しかない。
それにあんなに可愛い子のことだ。きっともう出会うことはないだろうし、会ったとしても他の人のパートナーになっていることだろう。
これが……寝盗られ……?
おっと、危ない。もう少し遅ければ危うい扉を開くところだった。
「あ〜あ、もう一回会いたいなぁ」
気分は完全に自分から振っといて未練のある元カノだ。彼氏なんていた事はないが、多分こんな気持ちのはず。
だが……まぁ、仕方ない。
可愛いのは大好きだが、それ以上に美しい方が好きだしな。チビスラが進化すると大きいスライムになるだけだし、パートナーというよりペットのような扱いになりそうなのは想像に容易い。
せめて人型で、大きめのお姉さんだったりお兄さんのような姿のモンスターが居れば……はぁ、いるわけないか。
ため息をひとつ吐いて、モウガンと一緒に横になる。過去に囚われても仕方がない。
この子が今の私のパートナーなんだ。大切にしよう。そしてあのスライムの事はキッパリ忘れる。
それが一番幸せだ──なんて当時の私は考えていた。
まさかあんな再会の仕方をするなんて、夢にも思ってなかったからだ。
───☆
「きゅう……」
俺は死にかけていた。
スライムの身体が溶け出して、今にも下水道のシミになりかけるくらいには瀕死だった。
そんな身体を引きずりながら、害獣の視線を掻い潜りご主人様の後を着いていく。そうしないと他の害獣たちが、弱った俺目掛けて襲いかかってくるからだ。
「うきゅ……うきゅ……」
やはりパートナーがいないチビスラはくそざこだ。
進化するためにはモンスターや害獣を倒さないといけないが、位相を駆使しても厳しいチビスラじゃどうしようもない。
だってあいつら、俺の【溶解性粘液】を浴びてもちょっと痛がる程度ですぐに攻撃を避けてくるから、こっちが一方的にダメージを喰らってしまう。
「が、頑張ってモウガン!!!」
「ウワォン!!!」
ご主人様達も苦戦しているようだ。
レベル1のモウガンで苦戦するなら、そら勝てませんわ。
やってみて分かるが、ゲームじゃ最弱のチビスラでも何とか敵を倒すことが出来るが、リアルじゃ相手は待ってくれない。ターン制じゃないからだ。
そんなことも気付かないなんて俺ったらお茶目さん♡
とはいえ、このままじゃまずい。何より、恐らくこの先は害獣たちのボスがいるはずだ。
モウガン一体じゃさすがに厳しいだろう。
粘液と自身の血液でボロボロになりながら、進むこと数分。
あれだけいた害獣達が減り、恐ろしい気配が身近に迫ることを感じる。
間違いなく、“いる”
視線をこらせば、暗い下水道の先に巨大な蛾のような害獣がこちらを見ていた。
「 U A A A A ! ! ! 」
目が合った瞬間、劈く咆哮。
可愛い系によったモンスター達とは違い、害獣たちの見た目はだいぶグロテスクだ。
例によって幼虫やサナギ型のボスである蛾の害獣も、ビキビキと浮き出た血管に真っ黒な瞳やら気持ち悪いお腹やらで、ホラゲーに出てきそうな見た目だった。
「っ、来たね。まだいけそう?」
「ウウゥゥ……ワンッ!」
「ふふっ、流石私のパートナー。やる気だね」
(ま、まじか。アレに挑むのかよ)
蛾の害獣には名前がない。
だがゲームではそこそこ強いレベル1の害獣として有名だった。ご主人様達はやる気みたいだが、やはりモウガン一体じゃ厳しいだろう。
そして予想通りモウガンは蛾の害獣による鱗粉と、巨大な翼によるつむじ風でダメージを蓄積していく。対して相手には全くと言っていいほど、ダメージを与えられていない。
……何か、俺にできることはないか。
【溶解性粘液】……ダメだ、風圧で弾き飛ばされる。かと言って近づいて直接吹き掛けるには、今の俺はダメージを受けすぎていた。
「ワウ……ウゥ」
「くっ、厳しいか……無理しないで、モウガン。君の無事が一番大事だから」
どんどん弱っていくモウガンに、焦りを募らせていくご主人様。
だがモウガンも諦めが悪く、猪突猛進で果敢に攻撃を仕掛けに行く、
「 U U ? 」
だが、不発。
ひらりと躱され、間近で鱗粉を浴びてしまう──
「モウガンッ!!!」
──寸前で、ヴェスティがモウガンの前に躍り出て代わりにダメージを食らってしまった。
「ぐ、う。……はは、駄目なパートナーでごめんね」
そのまま崩れ落ちるご主人様。
モウガンに謝りながら、息苦しそうに顔を歪ませている。鱗粉による呼吸阻害で、上手く酸素を取り込めていないのだろう。
もしあのまま放置すれば、ご主人様は死ぬ。絶体絶命だ。
「きゅ」
だから。
「きゅうッッ!」
命を掛けて特攻した。
死ぬかもしれない?
もはや死んでいる身だ。前世の記憶とか色々あるが、おっさんの俺からすれば子供が死にかけているのに、助けない道理はない。
それに、だ。
俺は3Rというゲームを信じている。
こんなバッドエンドで終わるようなゲームじゃなく、皆が笑顔で終わるような幸せなハッピーエンドをくれるようなゲームだと。
果たしてそれは。
──《チビスラの完全な自我を確認。目的位相を糧とし、更なる進化を要求……失敗しました。パートナーの不足による原因を確認。代わりとして、新たなる種族を構成……》
どうやら正しかったようだ。
──《成功しました。対象を1次進化:“デモンロリム”へと進化します》




