強くなるために、ロリになります
おっぱい。私の好きな言葉です。
失礼、噛みました。
街中を歩いている美女達の胸を眺めていると、ふと漏れ出てしまった。時代背景は完全に現代の日本と一緒だが、何せ気温が高いもんな。
おかげで俺は眼福である。
美女のお胸がブルンブルン、スライムぼでーもプルンプルン。
……待て、プルンプルンだと?
「っきゅ!?」
それはつまり、俺もおっぱいであるということでは無いだろうか?
最後の月○天衝ならぬ、俺自身がおっぱいになることだ!という認識にしてもいいのではないのだろうか?
俺ってば、天才?
だが悲しいかな、魅惑のすらいむぼでーは自分では触れないのである……てか、なにやってんだろ俺。
どうやら暑くて頭が回っていないようだ。
アイスを食べている我がご主人様もちょっと暑そうである。スマホを空に掲げて、モウガンと一緒にアイスを食べている構図でパシャリと写真を幾つか。
年相応の笑みを浮かべて、ニコニコとスマホを眺めていた。
「うん、可愛く撮れてる!とくに私のモウガンがいっちばん輝いてるね。もっと思い出作らないとだ!」
可愛い。
あれがヒロイン力ぇ……ヴェスティの周りだけキラキラ輝いてるような気がする。ちょっと大人には眩しい景色だ。
だがいずれかは俺も混ざらねばならないのである。今更他の人をご主人様にする気は無い。
とはいえこのままじゃズルズルとストーカー、もとい後方腕組み保護者面をしながら追いかけ回すことになる。強くなるなんて夢のまた夢だろう。
自力で強くなろうにも、メンダコみたいな形に羽が付いたフォルムでどうやって戦えと?
粘液か?相手をヌメヌメにした上で溶かせばいいのか?
脳内で、かわちいフォルムの俺が敵を残虐に溶かす様を想像する──流石にグロすぎると首を振った。
「きゅきゅぅ……」
(前途多難だな……)
しばらく美人のお姉さん達の姿を眺めながら、俺は最初の進化である1次進化までの道のりを考えていた。
───☆
露店通りを抜けると、街の喧騒が少しだけ薄まった一角に出た。
石畳が広く、建物の間隔も取られている。人通りはあるが、さっきほどの密度ではない。
(……ここ、いいな)
モンスターを鍛えるための施設、訓練場というものがある。
そこへ向かう途中なのだろう、ヴェスティとモウガンは少し歩調を落として、街並みを眺めていた。
「へぇ……ここ、思ったより大きいね。さすが交易都市」
「ワン!」
(うんうん、観光ポイント的にも正解)
だが俺の意識は、別の方向に向いていた。進化だ。1次進化。
──パートナーは不在。
──強くなる方法も未定。
さっきから、頭の奥でこの二文がループしている。
(つまり……正式ルートに乗れてない)
今の俺は、ヌメヌメの粘液が出せる転生者の魂が入ったチビスラ。いわば裏口入学スライムだ。改造〇〇モンと言ってもいい。
そんな奴がしっかりとストーリーの進行ができるかと言われれば何かしらの不具合があるはずだ。
例えばそう、進化出来ないだとか。
ではどうするか。
(答えは一つだな)
それは3Rのシステムを活用することだ。
3Rはフェイズ制である。
生存位相は生き延びるための能力。目的位相は自分の目的のための能力。
その先も似たようなものだが、言ってしまえば自分のためになる位相を身につけてしまえばいい。
ではどうすれば身につけられるか。それは、出来ない事を“実際に行使した回数”が位相の発現の要因になるらしい。
ま、1番手っ取り早く強くなるならパートナーをさっさと見つけて、戦闘してレベル1になることだ。その後は楽だしな。
それに、だ。
チビスラの進化先はかなり多いが、その中でもデミ・ウルミナスの進化先への途中入ルートは実は1次進化の時点で決まっている。
その進化すべき名前は──“エンジェロリム”
開発者の直訳で、【天使のように可愛らしいロリスライム】である。
開発者は言っていた。
私はロリコンであると。
しかしこうも言っていた。
ロリコンであることに誇りを持ち、遍く自身の性癖全てを積み込んだと。
そして俺は、この開発者の性癖のキャンバスに染まらなければならないのである。
強くなるためには、進化してロリに至らなければならないのである。
進化出来ない可能性はあるが、エロに勝る可能性はない。
「きゅっきゅ」
認識し直そうじゃないか──3Rはもはやエロゲーであると。ならばヌメヌメして眺めてるだけじゃ、3Rの世界に飲み込まれて進化できずに終わってしまう。
それは嫌だ。
(よし、ロリになろう)
ちょうどそう考えていた時。
「……あ」
ヴェスティが足を止めた。
前方、少し開けた広場の端。
掲示板のようなものが立っており、人が数人集まっている。
「簡易依頼……だって」
近づいてみると、そこにはデジタルと紙が混在した、不思議な掲示が並んでいた。
幾つかの内容を見てみたが、そのうちの八割が似たようなモノである。
・討伐:下水道の害獣
・回収:逃走した小型モンスター
・護衛:荷馬車一台(短距離)
「モウガン、どうする?」
「ワン!」
ずらっと並んだ中で、八割ある似たような依頼内容を指さしてモウガンに問いかけた。俺もそれがいいと思います!
「だよね。軽めのやつ、受けてみよっか」
ヴェスティは元気に返事をするモウガンに苦笑して、スマホをパパっと操作して掲示板のQRを読み取った。
いいなぁ、返事するだけで笑ってもらえてよ!
散々ご主人様に可愛がってもらいやがって、あのモウガンめ。モウとか犬とかどっちなんだよ!って直接言ってやりたい気分である。
まぁ将来進化した時、爆乳牛コス美女から貶されたら立ち直れないから言えるわけないんですけどね、ハハ。
(にしても下水道害獣……小型モンスター回収……ね)
今のこそこそスライムしてる俺にとっては全て都合のいいワードだ。
害獣とはモンスターと違って仲間にならない敵対モブであるから、それを狩ったところで何の問題もないしね。
それに何よりも人目が少ないのが高評価ポイントである。
訓練場よりも、よほど実践向きだから一石三鳥くらいあるのだ。
「ぎゅ、ぎゅふふ……!」
身体の奥で変な“むず痒さ”が小さく疼いた。これが武者震いという奴だろうか?
見た目のせいで完全に怖くて震えてるようにしか見えないよな、コレ。
興奮するとオタクみたいな鳴き声になってるから、我ながらちょっとキモイ。
俺はヴェスティとモウガンの影に溶け込みながら、心の中で今はなき拳を握る。
先程はいっぱいで頭がおっぱいおっぱいだったが、まずは一戦だ。ちゃんと戦って、ちゃんと生き残って、その先でご主人様に認められる。
(これはその第一歩だ)
ヌメヌメだけじゃ終わらない。
かわちいだけでも終わらない。
可愛いスライムの逆襲が、今始まる!!!
「ぎゅきゅお……おっ……きゅぅ……!?」
───そう思っていた時期が、俺にもありました。
即落ち二コマで害獣達にコテンパンにされた哀れなスライムは、嬉々として前へ進むご主人様の後を追うので精一杯だった。
まさしく完敗である。
そんな俺を害獣達が取り囲み、そして───。




