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劫焔罪断

アルマは都市を奔走していた。


ソルガを乗り回し、暴走モンスターの沈静化を図っているのだ。パートナーから引き剥がされたモンスター達を引き連れ、縦横無尽に走り回る。


「あそこに大勢の人がいます!」


『ご主人様だ!ご主人様がいるぞ!』

『メルス様ァーーー!!!』

『老いぼれたジジイめ……儂が到着する前に死ぬなよ!』


各々の飼い主の元へと突進していくモンスター達。


モンスターの声が分かるとは言っても、統率する能力をアルマは持っていない。しかし、それを補助するようにソルガが吠えた。

獅子種の中でも強者に分類されるソルガの咆哮は、物理的な破壊力を伴って進撃していく。


暴走したモンスター達はその鳴き声を聞くと、一瞬だけ動きを止めた。


「いっけぇぇぇーーー!!」


その隙を逃さない。

引き連れたモンスター達が雪崩込むように突っ込んで行き、逃げ遅れた人々を守るように暴走モンスターを打ち倒していく。


巨大な獅子に跨り、自分たちを襲うモンスターを次々に撃破していく美少女(アルマ)。果たしてその姿を命の危機に瀕した人々が見たら、一体どう思うだろうか。


気弱なはずのアルマは知らず知らずのうちに、都市の英雄として名を馳せることになるのだが……今はまだ、知る由もないだろう。




───☆




とぐろを巻いた焔が、眼前に居並ぶデミモンスター達を焼く。苦痛に悶える声が重なり、空気がびりびりと震えた。


我ながら元雑魚モンスターとは思えない火力だ。

チビスラといえば、【跳ねる】か【もちもちする】か【鳴く】の三つしか技がないのに、いつの間にここまで強くなってしまったのか。


考えてみれば最初は、ご主人様が俺以外のモンスター(モウガン)をパートナーにした“嫉妬”から始まった。

その次は……ご主人様を助けたいという“慈愛”。最後は、ご主人様をボコボコにされた“怒り”。


全てご主人様に関することで、俺は進化をしていた。


「ふふ、さすが私のメルだ!!モウガンも凄い!!アグニールは流石だね!フォスも可愛いよ!!」


デミモンスター達を倒すと、ご主人様が喜ぶ。それだけで力がどんどん湧いてくるんだ。

若干褒め方が適当な気もしないでもないが、嬉しそうな顔を見ると許してしまう。もうダメかもわからんね。


ドルマンも焦りが芽生えたのか、ご主人様に向けて炎を放つ──だが、その全てをアグニが撃ち落とした。


「ん、焔の火力は高いけど……それだけ、だね」


「くそっ、アグニール!お前まで私の邪魔をしおって!!!」


余裕綽々なアグニと相反して、息も絶え絶えなドルマン。力の差は明らかだった。そしてそれは、デミモンスターと俺たちの間にも存在する。


俺の焔と触手、モウガンの膂力とハルバード、フォスの素早さと凶爪。


「ぐぁっ!?」

「馬鹿な!進化した我々が負けるはず……っ!?」

「なんで!?なんで私たちの力がここまで通用しないの!?」


通用するはずがない。勝てるはずがない。

だって、俺たちの目的は一緒で、ご主人様が見守ってくれているから。


お前たちの主であるドルマンは弱者救済を掲げながら、その弱者を犠牲にしようとしている男だ。そんなやつの元じゃ、勝てるもんも勝てないだろ。


「きゅっきゅう!!!」

(これで、終いだっ!)


時間にして、ほんの数分。

先ほどまで牙を剥いていたデミモンスター達は、揃って白目を剥き、地面に伸びていた。

もはや敵意はなく、ただ大地に伏して眠るだけの存在と化している。

雑魚狩りは終わった。


そして、アグニとドルマンの決着もつこうとしていた。


「その程度で私に勝つ、つもりだった、の?」


「っくそ!くそ!何故だ!?何故こうも私の作戦は上手くいかない!何故モンスターに邪魔されるんだ!!!」


ドルマンが焔を一つ放つ合間に、アグニは十を越す焔を放つ。

ドルマンが焔を十個放つ合間に、アグニは百を優に超える焔を放つ。


皮肉な話だ。

ドルマンの親父によってアグニはモンスターに転生し、強力な特異個体となった。そのせいでドルマンは、現在追い詰められているわけだ。


「うるさい」


終わりだ。

アグニが人差し指をピン、と空に突き上げると、その指に向かって徐々に焔が集まっていく。


赤から青。青から白。そして白から紫へ。

小さな紫の焔の塊は、もはや小さな太陽のように輝いている。熱気のあまり空気が震え、静電気がピシリと走る。


まさしく必殺技。


「──“滅劫(じゃあね)”」


絶望の顔を浮かべるドルマンの元へ。紫の焔が、墜ちた。


触れたと思った瞬間、音が搔き消える。閃光も、派手な炎の奔流もない。

ただ、世界の一部がぽっかり空いてしまったように、燃え去った。

ドルマンの悲鳴も、地面が焼ける音すらも燃やしてしまった。


そう確信してしまうほどの凄まじい技だ。


一瞬の静寂。破ったのは慌てたようなご主人様の声だった。


「……え、ちょちょ!?もしかして眼鏡の人殺しちゃった!?」


そりゃあ目の前で人が燃え去ったら慌てると思うが、顔を真っ青にして「お母様、親不孝な娘をお許しください……」とかブツブツ言って蹲るのは違うと思うの。


モルドの方は「あちゃー、説明しとけば良かったか」なんて呑気に笑っている。


これで終わった。

街で暴走しているモンスターの声も聞こえてこない。デミモンスター達も既に気絶していて、悪の親玉は消え去った。


さて、事後処理に移るか。


踵を返して、ご主人様の元へ飛び込もうとした途端。


「 G U O O O O O ! ! ! 」


身を焦がす程の咆哮が、背後から聞こえた。


反射的に振り向けば、マグマのような歪な身体でそれは立っていた。


人の形をしている。

だが、人ではない。


皮膚の代わりに流動する灼熱の岩漿。

ひび割れた身体の隙間から、赤黒い光が脈動するように明滅している。


「あ、あれ……?復活した?これでお母様に殺されずに済む?」


混乱したご主人様がそう呟く。


皮肉にも人をモンスターの頂点に立たせようとしていた男は、化け物そのものとしか思えない外見のモンスターに転生してしまっていた。


なるほどな、ドルマンも獣性転写症候群に感染していたのか。


だけどさぁ──。


「っ、めんどうだね。もう一回……私が」


「んきゅ」

(いや、いい)


「……そう、わかった。気をつけ、てね」


いち早く攻撃しようとしたアグニを宥め、警戒の体勢を崩さないモウガンとフォスにも「手出しをするな」と目線を送る。


「め、メル?大丈夫なの?」


「きゅい!」

(心配しないで、ご主人様)


不安そうな顔を浮かべるご主人様を安心させるように、優しく微笑んだ後。俺はドロドロに燃えているドルマンを見つめた。


もう限界なんだ。

いったい何回俺たちは戦えばいいんだ?

ラスボスだから第二形態がありますよってか?馬鹿にするのもいい加減にして欲しい。


こっちは早くご主人様とイチャイチャしたくて仕方がないんだ。


───け、けけけ警告。


しかも一回殺されてるんだぞ?

それで漸く復活して、モウガンもフォスもアグニも無事で。


───あらゆるか、かか感情を検知。


アルマもめちゃくちゃ頑張ってくれて。

モルドにも協力してもらって。


───王種に迫るし、しし進化……不可能。進化できません。


それでまた復活?

色んな人に迷惑をかけておいて、矛盾だらけの綺麗事並べて?


───進化できませ、ませませ……進化できます!


ドルマン……いや、ドングリマンの自己満足(オナニー)に散々付き合わされたんだ。


───感情の規定値突破を確認。

特異個体──王種──アグニールの因子。特異個体ヴェスティの因子を検知。当細胞により、大幅なスライム種からの逸脱──成功しました。

“王種”メリュジーヌの進化を開始致します。


怒りと悲しみと、ご主人様が帰ってきた嬉しさ。その全ての感情を表すような虹色の膜が視界を覆う。進化は一瞬だった。


虹色の膜が、ぱきりと音を立てて砕け散る。


赤黒い角が顔の側面から伸び、腰から伸びたスペード状のしっぽは変わらない。赤い瞳はより明るい緋色になり、白い髪は腰までの長さへ変化した。


布が巻かれていたような服装は一新され、黒いエナメル質のような服が身体を覆っている。体の中央はファスナーで仕切られていて下乳と横乳、そして臍が丸見えになっていた。


マイクロミニショートパンツから、左足にかけて絡んでいる赤い触手はより細くなりスタイリッシュに。右足の黒いストッキングは、真ん中からガーターベルトで繋がっている。

ジャラジャラと音のなる鎖が、ショートパンツのポケットからベルト部分に結び付けられていた。


そして最後に、身長がめちゃくちゃ伸びている。

前世の身長が178センチ位だったが、今はそれより8センチ?くらいは低いように感じる。


つまり170の大台を超えた。喜ばしいことだ。

今まで見上げていたご主人様を、逆に俺が見下ろすことが出来る。


──ていうかさ、何だろうこの馬鹿が考えた服装は。いや、服なんて呼びたくない。どう見ても完全に痴女である。

だがまぁ、これはもう仕方ないことだ。


それに一番重要なご主人様は、顔をポカンとして俺の格好に釘付けになっているため良しとしよう。


「 G G A A A A A ! ! ! 」


姿が変わった俺に警戒したのか、ドルマンがいきなり攻撃をしかける。火力が上がっているのか、青色の焔が飛来してきた。

一つや二つじゃなく、数十にも及ぶ特大の火炎球だ。


進化前なら流石に痛くて喰らってられない攻撃を……喰らう寸前で、焔は容易く掻き消えた。


軽く手を翳しただけなのだが、進化様々だ。


「んきゅきゅあ」

(さて、もうそろそろお終いにしようぜ。いい加減疲れたんだよ)


「 G U U U 」


相変わらず喋れないらしい。

お互いキュイキュイグーガー言い合ってるのは非常にシュールなので、さっさと終わらせるとしよう。


掌をドルマンに向ける。


──【焔炎天】。“劫焔罪絶(ゴウエンシンダン)


この技は、対象の罪や後悔を思い出させ、罪の量によって断罪するというものだ。以前間違えて自分に使った時は恥ずかしいだけの効果しかなかったが……こういう奴になら、より効果が増すだろう。


なぁ、ドルマン。


俺はお前の思想には共感できないよ。理解もできるとは思えない。

ただ納得は出来ると思う。

ゲームや設定資料でお前の過去を知っているから、やり方は間違っていたとしても納得せざるを得ないんだ。


だって俺もご主人様が人間に殺されたってなったら、きっとソイツを探して殺そうとするだろう。

復讐が悪だなんだと言われても、何が何でも突き止めて殺す。


でも俺には、それを止めてくれたモウガンがいた。寄り添ってくれるアグニがいた。操られて殺したとしてもしっかりと受け止め、精一杯頑張ってくれるフォスがいた。


だからあの時フォスを殺さずに済んだ。


「んきゅ」

(なぁ、ドルマン)


「 A G A A A ! ? 」


自分の罪と共に身体を燃やされていくドルマンの姿。一歩間違えていたら、俺もドルマンと同じ立場になっていたはずだ。


そうならなかったのは、仲間がいたから。


もしお前にモウガンたちのような仲間がいれば。

もしお前に裏社会のボスとして君臨する時間を削って、妻や娘を殺したモンスターを探す事に時間を費やしていれば。

もしお前に……そう思わずにはいられない。


でもお前は──やりすぎた。


「ふぁっきゅ」


「 A A A A A ! ? ! ? 」


轟く絶叫。


燃え盛っていたはずの巨体は、内側から崩れるように瓦解していく。

灼熱の岩漿は冷え、赤黒い光は脈動を失い、やがてただの黒い灰へと変わっていった。


特異個体は死なない。

だが劫焔罪断は、それすらも超越して燃やし消し去る。罪を全て燃やした後には、もはや復活は出来ないだろう。


音もなく。

抵抗もなく。

まるで最初から存在しなかったかのように。


鳴り響いていたドルマンの絶叫は自身を焼く痛みよりも、今は亡き妻や娘を思っての泣き声に変わった。


そんな気がする。












終わった。

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