子どもはどちらか
……あ、ありのまま、今起こったことを話すよ。
長い眠り?から覚めたと思ったら、いきなりメルが怒ってて、しかも私にキスしてきた。
な、何を言ってるのか分からないと思うけど、私も何が起きたのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった。
ドキッ!とかキュンッ!とかそんなちゃちなドキドキじゃ、断じてない。もっと性癖を壊される片鱗を味わってしまったよ……。
いつの間にか私の格好も変わってるし。
なんて言うんだろう……聖女?みたいな白無垢になってる。メルの黒と赤色とは真逆の色なんだけど、本当にいつの間に着替えんだろう?
閑話休題……メルが私から離れようとしない。ひっつき虫みたいにくっ付いて、離そうと思っても離れてくれないのだ。
「……メル?」
「んきゅ」
(やだ)
「うっ……」
私は弱い飼い主です……でも可愛すぎるメルも悪いと思うんだ。
何か周りが凄いことになってるけど、今の私はメルに夢中で全く気にしてなかった。
「い、いつまでくっついてるのよ!!!」
あ、モウガンがキレた。
アグニールちゃんはニコニコしてるけど、目の奥が笑ってないよ。フォスは……うん、可愛いね。
兄様は端っこで狂喜乱舞してるから放っておくとして。
ところでそこにいる……人?モンスター?は大丈夫なの?あ、大丈夫なのね。心做しかドン引きしてる気がするんだけど。
「……戦闘中に交わり合うとは、これだからモンスターは。やはり人間が頂点に立つべきだ」
眼鏡を掛けた偉そうな人が、心底侮蔑したような眼差しで私とメルを見つめる。何を言ってるんだろう。
「人間が頂点?何を言ってるのか分からないし、貴方がどんな人かも分からないけど」
私は、ぎゅっとメルを抱いたまま、その眼鏡の人──たぶん偉い人?を見返した。正直、頭はまだ追いついてない。状況も、自分の格好も、さっきのキスも。
でも。
胸の奥に、妙に澄んだ感覚があった。
「少なくとも、今ここで一番大事なのは……“上下”とか“種族”じゃないと思う」
確かに私たち人間はモンスターより力は弱いし、寿命だって短い。それでも今こうして私たちとモンスターが共存していけたのは、お互いに助け合って生きてきたからだ。
そうじゃなきゃ絶滅してるだろうしね。
「モンスターに奪われる命もあるけど、私はこの子達に何度も助けて貰った。だから貴方の考えには賛成できないかな」
メルが小さく「んきゅ」と鳴いて、さらに体を寄せてくる。
その温もりが、答え合わせみたいだった。
「だから、私はこの子達の味方だよ」
はっきりと告げる。
あっ、待ちなさいメル。
そんなに深呼吸されたら臭くないか気にしちゃうでしょ。いま私カッコイイこと言ってるんだから、モゾモゾしちゃダメだよ。
なんてカッコつかない私だけど、どうやら眼鏡の人は少し思い至るところがあったらしい。
「……っそうか、君はそう思うのか」
さっきまでの侮蔑の色が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。
「感情論だな。弱き者が強き者に縋るための──」
「違うよ」
被せるように、私は言った。
自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。
まぁ確かにいきなりキスし出すような私の言うことは、間違っているかもしれない。
でもそれ以上に、貴方の考えは間違っていると思うよ。
「私は縋ってなんかない。この子達は、私を守ってくれた。何も言わずに、私の方が申し訳なくなるくらい助けてくれたよ。刑務所に囚われた時だってそう。
だから今度は、私が守る番なだけ」
メルの頭を優しく撫でながら、眼鏡の人を見つめ返す。
「それに」
私は、白無垢の裾をぎゅっと握った。
「強いとか弱いとか、頂点とか底辺とか……そんな話をしてる時点で、人間もモンスターも貴方は見下してるよ」
一歩、前に出る。
別に威圧したつもりはなかったのに、何故か足元に、淡い光が滲んだ。
気付けば、白い紋様が地面に浮かび上がっている。
祈りみたいで、誓いみたいで。
でもどこか、獣の爪痕を思わせる、不思議な形。
──私、いつの間に魔法が使えるようになったの?
この歳で魔法少女を名乗るべきだろうか……やめよう、兄様を笑えない。
「……これは」
モウガンが息を呑む。
フォスは目を輝かせ、尻尾をぶんぶん振っていた。
アグニはちょっと面白くなさそうで。
メルは抱き着いていた私からくるりと振り返って、眼鏡の人にドヤ顔をかます。
「きゅふふん!」
やめて、可愛いだけだから。
むしろ私の方がメルの可愛さに……って違う違う。
ともかくとして、私はこの子達に助けられて生きている。だけど眼鏡の人はモンスターを否定したいらしい。
その人の周りには、何体かのモンスター……?みたいな子達が居て、私の周りにもモンスター達がいる。
こういう時、お互いの意見が相容れない時は、モンスターテイマーならやる事は一つしかない。
「そんなに私の言葉が気に食わないなら、やろうよ」
「……何をだ」
「決まってるでしょ──目と目が合ったら、モンスターバトルだよ」
───☆
あー好き、やっぱりご主人様しか勝たん。
目覚めたばっかりで何が起きたか分からないのに、こんなにカッコイイ人いる?いないだろ。
「いいだろう、受けようその勝負……だが、私の勝ちは揺るぎない」
「へぇ、言うんだね。私のパートナーは強いよ?」
「ほざけ小娘が」
そう吐き捨てるように言った眼鏡の人は、杖を軽く地面に突いた。
瞬間、彼の背後に控えていたソレらが一斉に前へ出る。
人型に近いが、どこか歪な輪郭。
魔力で無理やり形を保っているような、不自然なモンスター達。
……本当にモンスターだろうか?どちらかと言うと人っぽい。それに周りの建物も、路地も、お店にすらも他に人が見られない。
普通なら警察とかが来てもおかしくないのに。
しかも耳を凝らせば、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。
「ふーん、なるほどね。何となくだけど、貴方が悪い人なのはわかったよ。それも自分の思想のために、周りを巻き込む人ってことも。
私のことを小娘なんて言うけど──貴方の方が、よっぽど子供だね」
「……なん、だって?私の事情も知らないで、良くもそんな口が聞けるなァッ!!!」
「それはこっちのセリフでしょ。貴方の思想に、他の人の事情も知らないくせに巻き込まないでよ」
「黙れ小娘が……!大いなる大義のためには、少ない犠牲は目を瞑るべきだろう。常識を知らんな」
「常識?まぁ、確かにね。少ない犠牲で世界が良くなるならそうするべきだと思う」
「……ふん、そうだろう。ようやくわかっ──」
「だから、貴方一人っていう少ない犠牲で、私はパートナー達と一緒に生きるよ」
キレッキレの煽り文句をドルマンに叩き付けるご主人様。
十六歳の少女に完全論破されてしまったアイツは、唇をわなわなと震わせながらデミモンスターを差し向けてきた。
論破されてやんの。
やーいやーいと舌をべっと出すと、ご主人様がチラリと俺を見てため息をついた。
え、なんでそんな反応するの?
「あとメルはあとでお話があるから……わかってるよね?」
「……きゅ」
あっ、俺死んだわ。




