メス同士は交配できるのか
どうしてこうなった。
もう一度言おう、どうしてこうなった。
「へぇ?」
「うきゅう」
「あ、あはは……」
目の前で困った顔を浮かべているのはアルマ。
当の俺は、ご主人様に今後についての話をするためにアルマを連れて来たのはいいものの、まさかご主人様が───。
「で、君はメルのなんなの?」
「えぇっと……その……」
──こうまで分かりやすくキレるとは思わなかった。
いや、本当にまさかだよ。
眉をピクピク痙攣させて、怒ってないですよーみたいな顔をしながら俺を搔き抱くご主人様。
豊満な胸で抱き締められるのは嬉しいが、モウガンからの視線が痛い。ご主人様に抱きしめられて羨ましい、みたいな感じだろうか?
冗談じゃない。
お前も巨乳だろうが!自分の胸で地産地消しておけよ!というツッコミを押し込んで、何とかご主人様の抱擁から逃れる。
「っ、メル!?まさか私よりも……?」
まさか俺が逃げると思わなかったのか、驚愕と絶望の表情を浮かべるご主人様。
そ、そんなにショックなんだろうか?
だがあくまでアルマは協力者であって、ご主人様から嫌われるようなことはしていない。
それにさっきからご主人様に睨まれているせいで、可哀想に縮こまってしまっている。涙目で俺に助けを求めてきたから、状況説明も兼ねて説明するつもりだ。
アルマがね。
「え、えぇ!?わ、私が説明するんですかぁ!?」
『うん、だってご主人様は何となくしか俺の言葉分からないもん』
「うえぇ……でもでも私!初対面の人と喋れないですぅ……」
顔を真っ青にして白目を剥きながら、ご主人様をチラチラと見つめるアルマ。うーん、これがアル虐かぁ……ちょっと可哀想だ。代わりに俺が説明したいのはやまやまなんだけどね。
もし主人公がいるなら、協力者としてお願い出来たんだが……肝心の主人公が見つからないんだよな。
男主人公か女主人公かで選べるんだが、男主人公はとんでもない“変態”で、女主人公は“おっぱいの付いたイケメン”である。
そんなのそうそう見つかる訳がないので、二人でどうやってご主人様を納得させようかと話し合った。
しかし。
「……ふーん、随分と仲がいいみたいだね。ふーん、ふーん、ふーん?」
耳元でコソコソと話し合う俺たちの姿を見て、ぷっくりと顔をふくらませてふーんしか喋らなくなった。
こういうのってリアルじゃ面倒臭いだけなんだが……流石は俺のご主人様である。その顔も様になっていて、非常に可愛らしい。は?なんだよ俺のご主人様最強か?
オデ、ゴシュジンサマ、スキ。
「きゅっきゅ!!!」
「おっとと。こら、いきなり抱き着いたら危ないよ」
感動に打ちひしがれた俺は抱き着いた。
身長差は10センチ。ちょっと顔を上げればキスできそうな距離感である。
ご主人様も仕方ないなぁみたいな顔してるが、ニマニマしていて嬉しそうだ。
安心して欲しい。俺はご主人様一筋である。
後ろに回り込み、ハグしながらお腹の辺りに手を置く。
「んっ、ちょっと……そこピアスあるから、痛い」
「んきゅ?」
そう言われて臍を撫でて見れば、確かに硬いピアスの感触があった。耳や舌にピアスを空けているご主人様だが、まさかヘソにもピアスがあったとは。
ふ、ふーん?へ、ヘソピねぇ……。
ご主人様の呻き声といいヘソピといい、どうしてこうもえっちなんでしょうか。まさか他の場所にも空けていたりするんだろうか。
まぁ、“多分”見る機会はないと思うが、気になるっていうのはパートナーとして仕方ないだろう。
「ひ、ひえぇ。お二人とも仲いいんですね。ご主人様一筋だよ!ってメルさんが言ってます」
「ふふっ、そうだろうそうだろう?私のメルは大事なパートナーの一人だからね……って、ちょっと待って」
「は、はい。なんですか?」
「メルがそう言ったように君は聞こえたの?」
「えと……そ、そうですけど」
「なるほどね……だから彼女を連れて来たんだね、メル」
「んきゅんきゅ」
その考えを肯定するように、俺は頻りに頷いた。
───☆
私のパートナーであるメルは、私が寝ている間に協力者を見つけてきたらしい。モウガンも一緒に街に出歩いて情報収集もしてたみたいだけど、メルが連れて来た女の子はモンスターの声が分かるという“聞き上手”を持っていた。
数万人に一人とかいうレベルの、超希少な特殊能力を持った人間だ。名前はアルマさんというらしい。
見た目はオドオドしてる普通の少女……多分私より歳上だと思うが、そんな特殊能力を持つ子を連れて来たメルの凄さに私は感動した。
どんな手段を使ったのか分からないが、それについて尋ねるとアルマさんは顔を真っ赤にしていた。
……怪しい。
最近のメルは私に隠れてコソコソと動き過ぎだ。フラッとどこかに行って、そのままいなくなってしまいそうなのが本当に怖い。
作戦の概要についてアルマさんの口から色々と話してもらい、私の知識と擦り合わせてプランを練り込んでいたのだが、頭はメルのことでいっぱいいっぱいだった。
私のことが大好きなのは目に見えて分かるし、暇が出来ればマーキングの跡をつけ直している。
しかしメルが進化したせいで、私との身長差は縮まってしまった。付けようとする度に、メルの顔が近く感じてしまう。
顔も可愛いと綺麗の間のような面持ちで、姿形は私の……じゃなくて、男性の欲望を煮詰めたようなスタイルをしている。通りを歩けば、パッと見はモンスターと分からないお陰であらゆる人から声を掛けられる事だろう。
私だけのメルが、他の人達に可愛がられる……想像すると胸がズキリと痛んだ。いっそ首輪でも付けておくべきだろうか?
そう考えたところで、私は頭を振った。
何を考えているんだ自分は。
パートナーが可愛がられるのはいいことだ。そのはずだ。それを嫌なんて思うのはおかしい。
おかしい……はずなのに。
私の視線は、自然とメルへと向けられる。
楽しそうにアルマさんと話している姿を見ると、やはり胸が痛んだ。
もしメルから「ご主人様!私彼氏が出来たの!」なんて言われたら私は……そう考えたところで、心の中の兄様が囁いた。
──お前は性癖に正直になれ、と。
───☆
私はモウガン。ただのモウガンよ。
ヴェスティ様のパートナーの一匹で、グレートモーから進化したモンスターだ。
最近色々あって、ヴェスティ様を置いて情報収集に出かけているんだけれど、肝心のヴェスティ様の様子が最近おかしいの。
私の先輩(と名乗っている)であるメルを目で追っていたり、メルが連れて来たメスを睨んだり、いつもの冷静なご主人様とは思えないわ。
まぁ、人間は私たちモンスターと違ってか弱いから仕方ない部分もあるんでしょうけど……メルもメルなのよ。
ヴェスティ様第一なのは分かるけど、言葉足らず過ぎるのよね。喋れないから仕方ない部分はあるけど、もう少しどうにかならなかったのかしら。
それにアイツ、時々私の体を見てぼーっとした後に、明らさまに視線を逸らしてるのよね。
もしかして──発情期かしら?
私の種族じゃたまにある事らしいけど、スライムにもあるのね。
「メル」
「んきゅ?」
(なに、どうした?)
「発情期は辛いと思うけど、頑張りなさい。私も手伝ってあげるから」
「んぇ?」
ポカンとした表情を浮かべたまま固まるメルを置いて、私はヴェスティ様に近付く。
ヴェスティ様がオスだったら交配も出来たんだけど……モンスターと人の宿命よね。まぁ私もメルに負けないくらいヴェスティ様の事は大好きだけど、流石にメスとは交配できないわ。
私たちの種族は子供を沢山産むから、他に誰かいればいいんだけれど。
……そういえばスライムってどんな種類とでも交配出来たわよね。メス同士っていけるのかしら?




