お前その格好でモンスターは無理があるだろ(笑)
とある洞窟内の床にへたりこんで、ぐで〜と溶けている美少女がいた。
はい、俺です。
ご主人様がボロボロになってる姿を見て、せっかく考えていた作戦を自分でめちゃくちゃにした挙句、刑務所を溶かしきった愚かなスライムです。
「うきゅう……いいあい」
アホすぎる。
これでも精神年齢はご主人様より一回り以上上なのに、何も考えずにあそこまで暴走するとか……俺は我儘な子供かよ。
もぅやだ。まぢむり、ぶんれつしよ。
へこたれている俺の意思を汲んで、ふよんと身体から触手くんが分裂する。ふわふわと優しく頭を撫でてくる優しさに、思わずキュンときた。
こいつ……手馴れてやがる。
「え、えっと。メル?そんなに落ち込まなくても……」
「んふ、そうだよ。せっかく私のマーキングが効いて、強くなったんだから」
「はぁ?ご主人様助けれたのに、何であんなにへこたれてるの?」
「うがうが」
四者四様の反応を返された。
ご主人様好き。アグニールとフォスも良い奴。
だがモウガン、オメーはダメだ。その反応は凄く俺に刺さる。
なんだろう……可愛い娘が反抗期を迎えて、何でもかんでも否定されてる気分だ。
まぁ俺、娘どころか奥さんも居なかったんですけどね!ははは!……ハァ。
「ちょ、ちょっとモウガン!?またメル落ち込んでるよ!言い過ぎたんじゃない?」
「えぇ!?い、いや……その、言葉の綾というか。私も何も出来なかったし……」
「うきゅうきゅ」
「はっ倒すわよ!?」
痛い。殴られた。
進化した影響で物理攻撃は受けなくなったのに、殴られたという事実に心が痛む。
あ、そうそう。
進化といえば、ご主人様が傷だらけになってる姿を見た俺は、あんなに害獣を倒しても進化出来なかったのに進化出来てしまった。
恐らくトリガーは……感情の発露だろうか?
あの時は年齢を考えず感情の赴くままに動いた気がする。
もちろん死者を出す訳にはいかないから、ギリギリ理性を繋いで溶かす対象を選んでいたが……本当にやりすぎた。
お陰で今は絶賛指名手配中である。
洞窟に触手を置いていったお陰で、ご主人様達とアグニール達を纏めて洞窟内に転移出来たが、もし置いていってなければどちらかが全滅していただろう。
あぁ……くそっ、落ち込んでいても仕方ないか。
今は指名手配中の都市で、どうやってラスボスを倒すか考えなければな。
取り敢えず膝枕してもらっていたご主人様の身体から離れ、崩壊してしまったストーリーの流れを考察する。
「あっ……」
「ん、あい?」
「……何でもないよ」
何故か残念そうな顔を浮かべるご主人様。
ははーん、さてはこの美少女ぼでーにメロメロになったな?俺は空気が読めるパートナーだ。
なんでもない顔をして、再びご主人様の太腿に飛び込む。
中学生くらいの身長になったので、あんなに見上げていたご主人様を今ではちょっと見上げるだけで顔を見れるようになった。
ご主人様が美少女過ぎて近くで見るのは忍ばれるが、やはり眼福である。
ついでに胸も太腿もケツもデカくなってきたのは嬉しい。
やっぱりね、お前その格好でモンスターは無理があるだろ(笑)みたいなのが一番いいんだよ!
「うひゃっ!?……も、もー。メルったら甘えんぼさんだね」
あー、バブみを感じる。
時代さえ違えば、ご主人様は俺の母になってくれた人物かもしれない。
ま、後もうちょっと進化すればご主人様が見上げる側になるだろうな。そうなれば、俺がご主人様の母親になってしまう。
どけ!俺がお母様だぞ!するのも近いなぁ……ちょっと感慨深い。
身体に黒い布以外から肌色見えてて、片足は黒いストッキング。もう片方は触手が足に絡まってるような母親は俺、嫌だけどね。
だが可愛ければ全て許されるのである、
と我ながら意味不明なことを考えつつ、フォスと戯れるモウガンとアグニールの姿を眺めていた。
アグニールは【紅蓮業火鳥】の称号を与えられた特異個体。パイロフォビアというのは日本語訳で火恐怖症という意味を持つ。
それはアグニールだけではなく、“全八種の特異個体”全てが何らかの恐怖症をモチーフにされているわけだ。
また特異個体はこれ以上増えることはあれど、減ることは無い。
何故なら彼女らは全員不死身だからである。
これはゲームの制作秘話で明かされた内容のため間違いない。
もちろん他の一般モンスターはこういう設定はないため、それだけ特異個体というのが運営から特別視されているということだ。
そしてそれは、ラスボスである例の男も同様。
不死身のアグニールは、本当に不死身という訳では無い。普通に死ぬし、寿命もある。だが例え死んでも灰の中から復活し、同個体として記憶も能力も引き継いで活動できるのだ。
ラスボスはそこに目を付けた。
アグニールが寿命で死に、灰の中から生まれ変わった瞬間に捕らえることに成功したのだ。そして特異個体の膨大なエネルギーを活用し、軟弱な人をモンスターとして生まれ変わらせる──それが目的である。
しかしそれは、俺というイレギュラーによって取り除かれた。今後アイツがどんな行動を取るか見当がつかない。
情報収集を図るべきだろうが、動き過ぎては見つかるだろう。
「ううぅ……おうきゅおう」
「んっ、よしよし。メルは悪くないよ」
ままぁーーーー!!!と甘えたい、切実に。
俺にはここにいる全員を守る責任があるが、同時に責任の重さも感じているからな。
素直に甘えさせてくれるご主人様まぢラブである。
兎も角として、俺がすべきことは程々の情報収集だ。無印のストーリーを辿るなら、いずれラスボスと戦うのは必至。
戦力的にいえばアグニールがチートすぎるので間違いなく負けないだろうが、アイツらも馬鹿じゃない。警戒するに越したことはないだろう。
まぁ多分俺一人でも勝てると思うけど……多分ね、多分。
進化した位相を感じながら、詳細を思い浮かべた。
【高等粘液制御】は変わらずだったが、それ以外の全てが進化している。まず【多腕触手】が目的位相から欲求位相へ進化し、【異相触肢】へ。
【全方位衝撃吸収】【高速再生】の二つも欲求位相となり、それぞれ【衝撃完全無効】と【構造再設計】へ。
【擬態】は目的位相へと進化し【擬態偽装】へ。
【五感増加】とかいうクソ位相は、生存位相から変わらず【五感倍増】に。
そこから更にいくつかの位相が手に入ったが、説明が長くなるので使える場面になれば使う、になりそうなのを除いて……一つだけやばいのがあった。
それはコレだ。
【焔炎天】
・“万焔帰一”
・“劫焔罪断”
・“残火天生”
という三つの能力を孕んだ位相だ。
しかもただの位相という格付けじゃなく、“極相”とかいうよく分からない分類になっている。
なぁにこれぇ(幼児化)
すごく考えるのを放棄したいが、一つの位相に三つのよく分からない能力がくっ付いてて、名前からしてとんでもない力なのは分かる。
なんだ万焔帰一って。
なんだ劫焔罪断って。
もはやなんて呼べばいいか分からんのだが。
てかルビを振れよルビをよぉ!!!
だが一人のゲーマーとして、使ってみたいのも事実。
後でこっそり使おうと、フォスを撫でる権利を求めてキャットファイトを始めるアグニールとモウガンを眺めながらそう思った。




