強くなります
兄様と話をした帰り道。
メルと手を繋ぎ、モウガンを連れて宿に帰る最中で、私は兄様の言葉を思い出す。
可愛すぎるメルに苦しむ私が、救いを求めて知見を求めた結果──帰ってきた答えはただ一つ。
「お前にどんなしがらみがあるのか分からんが、取り敢えず押し倒せ」
……いや、うん。
出来るわけないでしょ!?とブチ切れたのは言うまでもない。
メルも私のことが大好きだから拒否するような事はしないだろうが、私がロリっ子モンスターを押し倒したとなれば社会的に死ぬ。
憤る私に兄はこうも付け加えた。
「スライムって、他の種族と相性がいいって言う特性があるから、どんな種族とも交配出来るらしいぞ……勿論、人間ともな」
そう言われた瞬間、私の頭は真っ白になった──なんだそれ、えっちすぎるだろ。
つまり私が手を出しても、相性がいいが故に性別関係なく交配できてしまうらしい。その瞬間だけは、グッドサインを浮かべてウィンクする兄に何も言えず黙ってしまった。
でも……でも、さすがにそれは駄目よね!?
私のことを信頼してくれているモンスターに手を出すのは、さすがに違う!だから、次こそは絶対に手を出さない!
メルから誘われようと、私がどんなに興奮してようと襲わないったらないのだ!
嬉しそうに私の手を握るメルを見つめながら、私は強く誓った。右肩に付けた昨夜のキスマークが消えているのは非常に残念だが、ああいうことはもうしないのである。
宿に帰ると、メルはそそくさとベッドに入り始めた。どうやら早く寝るつもりらしい。ふんすふんすと寝る気満々なのは可愛らしいことだが、明日なにかするつもりなのだろうか?
特に害獣を倒す予定もないんだけど……まぁ、可愛いからいっか。
一緒にベッドに入れば、嬉しそうにきゅっ!と鳴いて抱きつくメル。服が溶けてしまうため、何も着ていない状態の時に抱きしめられると……その、困ってしまう。
だけど、それでも今朝の誓いを思い出して目を瞑る。
せめてこの子が大人と分かるような見た目になれば、私も躊躇せずに済むのに……流石にこの見た目で大人になれる訳ないか。
大人になったメルの姿を想像し、何故かスタイル抜群の姿を思い浮かべてしまう私。ないないと頭を振って、真剣に寝に入る。
だが──。
「んーきゅ」
「えっ?」
──いつの間にか、私の腰にメルが座っていた。
混乱する私を他所に、メルはまた私の左肩に顔を埋めてちゅぱちゅぱと吸い始める。昨夜のように優しく、まるで私に教え込むように吸われていく首元。
変な声が出そうだった。
……いや、いやいや、ちょっと待って。まさかマーキングすることが、この子にとっての愛情表現だったりするのだろうか?
そんなわけが無い。
ということは、昨夜のことを間違って覚えてしまった可能性が高い。つまり私のせいである。
さすがに止めようとした。だが、その力を逆に利用されて、今度は私がメルを押し倒す形になる。
『お前にどんなしがらみがあるのか分からんが、取り敢えず押し倒せ』
何故今思い出すのが兄のセリフなのか。
決して私が押し倒した訳じゃない、止めるべきだ。
だってこんなことをするのは、パートナーとして間違っているから。
それなのに……。
「メル……」
「んきゅきゅ?」
メルの口元が薄く歪み、挑発するように私を抱き締める。
優しく可愛い声で「付けていいんだよ?」と言われた気がした。
その声に従うように、私はまた薄くなったキスマを上書きするべく、優しい口付けをした。
───☆
チュンチュンと鳥が鳴く朝空。いい目覚めに「んきゅっ」と声が漏れる。
隣にいるご主人様はまだ起きていないようで、ぐっすりと寝息を立てていた。
モウガンも同様である。
にしてもまさか、昨夜はご主人様が鼻血を出して倒れ込むと思わなかった。マーキングの跡が消え掛けていたので、また付けてもらおうと思っていたのだが……刺激が強かっただろうか?
ま、俺可愛すぎるからね、仕方ないね……。
兎も角として、今日から2次進化への育成に本腰を入れようと思う。
ゲームの流れとして、そろそろラスボスが動き出して来そうだからだ。あくまで逆算だが、今の時点で第一章開始前だと考えれば本編が始まるまであと少しである。
主人公達とも出会うかもしれないし、それまでに強くなっておく必要があるからな。
ゲームで育成する時は、害獣達を倒すかモンスターバトルを繰り返すかのどちらかである。特殊な育成方式もあるが、それよりかは真っ当にレベルアップした方が早い。
「んきゅ」
(モウガーン、起きてくれー)
「……ウワン」
うわ、めっちゃ眠そう。だがモウガンも強くならないといけないからな。
今日するのは害獣退治が主だ。
寝ているご主人様に布団を被せ、耳元のピアスに触れる。こいつがあれば、例えご主人様に危険があってもすぐに飛んでいける。
ラスボスが本気を出す前に、今のうちに強くなってご主人様を守れるようになる……それが当面の目標だ。
「んきゅ」
(じゃ、行ってくるね)
モウガンを連れて、宿のドアを閉める。
目指す先は無印で序盤のレベル上げにオススメな大洞窟だ。
───☆
少女の残滓が香る。
地中にてメルを追っていたフォスの鼻は、死んだパートナーの匂いが僅かにメルから香るのを感じた。
同時に、自身を追いかける連中の嫌な匂いも感じ取った。
フォスとて愚かではない。
自身を生贄として少女を操るつもりなのだろう、というのは理解していた。
「自分を、せめな、いで……?」
故に突き進む。
フォスの直感が正しければ、あの少女はきっと──。
匂いに従ってモグライヌの生存位相を使い、地中を掘り進めていく。
願わくば、もう一度パートナーに会いたいと。そして危機が迫っていることも伝える必要があると。
過去に囚われたフォスを支えるのは、死んだパートナーの匂いだけだった。分からない事ばかりの中で、唯一知っている過去の匂いに釣られて突き進むフォス。
果たしてその先に待ち受けるのは天国か、地獄か。その答えは誰も知らない。




