運命と出会う
Dear Your Monster。
通称R3と呼ばれるゲームは、前世ではかなりメジャーなモンスター育成ゲームだった。
可愛い系やカッコイイ系、不気味系などあらゆるタイプのモンスターを育成出来るのがこのゲームの人気な点であり、モンスターと戦い、勝利し、友誼を結ぶことで育成することができる。
そしてこの手のゲームではお約束。モンスターの中には、進化できる奴がいる訳だが……その最新作に出てくるモンスターによって、当時の日本のトゥイッターが荒れた。
その名も、“デミ・ウルミナス”。
五回進化するとようやく到達できる超超高難度の進化レベルであり、進化前は雑魚と名高い“チビスラ”。
だが問題なのはそこじゃない。
トゥイッターに貼られた一枚の画像には、人とモンスターの間かのような姿で佇む下乳と横乳を丸出しにしたえっちなモンスターの姿があった。
近くに写っているショタガキと並ぶと、完全に人外系のえっちなお姉さんであった。
当時、3Rにハマっていなかった俺は思わず爆笑したものだ。
これ小学生の性癖歪むだろ、と。
なんなら俺の性癖が歪むぞ、と。
勢いのままナマゾンで速攻ポチッたのは記憶に新しい。
さて──現実逃避はよそう。
水溜まりに映る自分の姿を除けば、黒く半透明な身体にちっちゃな羽。
そして可愛らしいきゅるんとしたお目目をしたモンスターの姿があった。
はい、どう見てもチビスラです。対戦ありがとうございました。
「きゅきゅうーん?」
声を出そうとしても、甘えたような鳴き声しか出ない。なんでこんなに可愛いんだよ。
辺りを見渡せば、草原と山々が見える。時々空を飛び交うのは、レベル2相当の“イーグルン”だろう。今の俺が挑めば間違いなく消し炭にされるに違いない。
こわ、近づかんどこ……。
ふわふわと小さな羽をパタつかせて、周囲を探索してみる。だが食べれる果実や回復が出来る草(違法じゃないよ)しかない。
なんやこれ。どないせぇっちゅうねん。
「きゅう。きゅうきゅーん」
はい、可愛い。
周りに何も無く余りにも暇なので、試しに喋ってみた。
俺のツッコミも可愛い鳴き声に変換されるため、悪口が言いたい放題である。最高かよ。
例えばあそこにいる巨大な牛、“グレートモー”にあらん限りの悪口を言って見る。
「きゅーんきゅーん、きゅきゅ!」
(訳:やーいやーい、お前の母ちゃんでべそ!)
だがグレートモーは「ワン?」と首を掲げてキョロキョロしている。
レベル1相当だから、今のレベル0の俺が挑んでも勝てないが、俺が1次進化すれば勝てるレベルの敵だ。
ふ、今の俺すら見つけられない雑魚が。
「きゅ、きゅきゅぎゅ!」
さて、今度は人がいないな見てみるか──って、あれ?
グレートモーどこ行った?今さっきまであそこにいた……は、ず…。
パタパタしている羽に、深い息がぶわっとかかる。
そして、パカパカと鳴る蹄の音。凄まじい圧と殺意が、背後から迸る。
……じょ、冗談じゃないっすかぁ。
「……ぎゅ、ぎゅきゅっきゅうぅ」
ブフルンッ!という凄まじい吐息。
俺のかわちい鳴き声も通用しない。
「ワゥゥ゛ゥ゛〜〜!!!」
ワリィ、俺死んだ。
───☆
ふぅ、危ない危ない。
危うく轢き殺されるところだったぜ。
とんでもない勢いで突進してきたグレートモーに驚いて、慌てて上空に逃げたら血走った目で追いかけてきた時は、本当に死ぬかと思った。
まぁ、近くにいた同種のチビスラにヘイトを押し付けたから何とかなったけどな。
哀れチビスラ君。
君のことは忘れないよ。
なんて思いつつ、近くに人影がいないか探すのも忘れない。
いきなりゲームの世界に来て、いきなりモンスターになって……とトンデモナイことばっかりで頭が回らないが、俺にも前世がある。
なんなら戻りたい。
だってこの世界、強いモンスターがすぐ世界を壊そうとしたり征服したりしようとするからな。
5次進化すれば何とかならないこともないが、そうなるためにはご主人様が必要だ。
そして個人的な願望だが、ショタは嫌である。オジサンも無理だ。
なんでゲーム世界に来てまで男のケツを眺めないといけないのか、お兄さん理解に苦しみます。
だから俺は女の子がいい。これは絶対だ。
チビスラの進化先の中で強いのは“デミ・ウルミナス”ともう1つの進化先だが、もう1つの方はネタ寄りなんだよなぁ。
この世界で生きていくためには、やはり強いデミウルに進化すべきだろう。その時、男から嫌らしい目で見られたら普通にキレる自信がある。
下乳と横乳が丸見えな上に、脇も臍も太腿もチラチラ見えるのだから、えっちすぎる俺が悪いという可能性もある。
だが女の子ならそういう目で見てくる訳がないし、進化もしやすい。俺は俺で女の子と旅ができるなら一石二鳥だ。
がはは、完璧な作戦じゃわい!
「きゅきゅ、ぎゅぐふふ!」
おっと失礼、声が漏れた。
てか今の鳴き声めっちゃキモくない?気のせいか……?
暫くちっちゃな羽をパタパタすること数十分。
ようやく村らしき場所を見掛けた俺は、はねる気持ちを抑えて飛び込む。
人だ!人影があるぞ!
上空から見た村の全貌は質素の一言。
だが感覚的に久々な気持ちが強かった俺からすれば、そんなのはちゃちな問題だった。
さーて、俺の飼い主になってくれそうな人は……んー、ダメだ。
みんな爺さん婆さんで、旅に連れて行った瞬間に腰の骨が砕けそうな人達しかいないぞ。
早速作戦失敗か?
若干残念な気持ちを抱きつつ、ふわふわと風を感じながらゆっくりと地面へ降りる。村の近くにあった大岩だ。
流石にずっと動きっぱなしで疲れたから、少し休憩しよう。
飼い主探しはその後に回そうかね。
大きなお目目をぱちくりと動かし、羽を体に回して包み込む。これで寝れそうだ。
そして俺は瞼を閉じ───。
「あれ、君も一人なの?」
「……んきゅう?」
──運命と出会った。




